♪♪♪♪♪
路上ライブは大成功に終わりました。とは言っても見てくれた人数は本番の音楽会と比べたらそこまで多いわけではないですけど。でも、見てくれた人達は満足させられた、と思います。
私も緊張せず前を向いて歌えました。これで少しは本番の時も上手にできるといいですね。それもこれもココアさんの発想とリゼさんの特訓、マヤさんやメグさんの集客、そして……。
「あれ、ひとりさんはどこへ」
辺りを見回す。さっきまでライブが終わって緊張から解き放たれたような緩んだ顔をしていましたが、いつのまにかいなくなっていました。
「よぉーし路上ライブ成功を祝して〜打ち上げをしよう!」
ココアさんが腕を振り上げ掛け声をする。リゼさん達もそれに乗り準備を始めたようですね。
「ひとりさん、知りませんか」
「あれ、いない!」
「どこへ行ったんだ?」
「えぇ!こんな短時間で」
「あ、ラビットハウスじゃないかな〜」
「ありがとうございます。みてみます」
と、メグさんの言っていたとおりにラビットハウスに戻る。広場からはそこまで遠い距離ではないのですぐに着いた。
ラビットハウスに入ってみたが見当たらない。いや、ひとりさんがいる所といえば、ゴミ箱かテーブルの下だ。……改めて考えると変な場所にいますね。
「つかれたぁ」
「本当にこんなところにいたんですか」
「ウェぁあ!?」
「そこまで驚かなくても……」
初めにテーブルの下から覗いてみましたが、本当にいるとは思わなかったですね。ここの場所が落ち着くんですかね。
「失礼します」
「えぇ! あっはい」
気になったので私もテーブルの下に入ってみました。なるほど、いつもと違う景色で陰になってるから薄暗い。どこか秘密基地のような雰囲気です。
「私は、少し苦手を克服できたと思います」
「あっ、それは、よかったね」
「ひとりさんの助言があってこそです」
「そ、そんなことないです……」
いえ、ひとりさんの言葉は私の勇気につながりました。あの言葉がなければ私は下を向いて歌っていたと思います。それは私の目標とは違うから……。
「全部の苦手を克服できたら、私もココアさんみたいになれるでしょうか」
「こ、ココアさんはすごい、です私もあんな風になれたら……って思う時があるし」
「そうです。私の憧れのお姉ちゃんです」
「あ……憧れのお姉ちゃん」
「こっこのことはココアさんには内緒ですよ!」
つい、思わず口が滑ってしまいました。それを誤魔化すように先ほどの話を口にする。
「そ、そういえばココアさんが打ち上げするって言ってましたよ」
「えっうっ打ち上げは……さすがに」
案の定、と言うべきかあたふたしているひとりさん。ひとりさんは人見知りなのでこう言ったのは苦手なようだ。まぁ私も人のことはいえませんが。
「き、今日は疲れたから帰ろうかなぁ……」
と言ってテーブルの下から抜け出すひとりさん。私も一緒にテーブルから抜け出して立つ。ひとりさんの目が少し虚ろだったのは気のせいでしょうか。
「そ、そうですか」
「あっ色々とありがとう、ごさいました。って伝えてほしい……です」
「こちらこそです。次はコーヒーをご馳走様しますね」
それだけ言ってこのラビットハウスを出るひとりさん。
本音を言うとひとりさんともっと仲良くなりたかったのでもう少し話したかったのですが。
「無理をさせる訳にはいきませんね」
ひとりさんを見送った後、私は広場に戻りひとりさんの伝言と家に帰る旨を伝えました。皆さん少し寂しがっていました。
そしてふとライブをしていた場所を見ると何かが落ちていた。
「これは……」
落ちていたのはギターのピックのようだ。あの場でギターを持っていたのはひとりさんだけなので、テーブルの下にいたときにひとりさんが落としたのでしょう。
届けた方が良いとは思いますが生憎私はひとりさんの家を知りません。ですから……
「これは次会った時に、ですね」
またいつかどこかで会える。そんな気がする。
♪♪♪♪♪
「ふぅ……疲れたなぁ色々と」
チノちゃんには帰ると言ったものの私はどうやってここに来たかがわからない。どうしたものかと私が気がついたらいた場所まで戻ってきた。日はすでに傾きかけていてそろそろ夕方といった時間帯だ。
「たっ確かここでギターを弾いていて」
それでココアさんに見つかって今日の半日近くを過ごしていたわけだ。私にしてみればこれだけでかなり濃い1日だったと言える。当然いつもより10倍近くの労力を消費したが、それが何も悪いと言うわけでは無い。良いと思えることもいくつもあった。
とはいえ私の体力のなさには驚かされるな。
「うん?」
瞬きをしたら目の前がぼやけた気がする。
少しだけ視力が落ちたみたいに……あれ?いや、どんどん視界がぼやけていってる。
そして瞼がどんどん重くなっていって———
〜〜〜〜〜
「んんぅ……ぁ、あれ?」
目を開けたらいつもの天井だった。
どこからどうみても私の部屋だ。と、言うことは。
「夢、だったのかな」
そう考えるのが自然だろう。ただ夢にしてみれば現実味がありすぎたし、そもそも私はスターリーまで行ってて……。
「ど、どこからが夢なのか全然分からない……」
まるで狐に包まれたような感覚で夢と現実の境界が分からなくなったのは初めてだ。
うーんうーんと色々と考えていたが何も思いつかなかったので、現実逃避の意味合いも兼ねてスマホをみる。そこには当然現在時刻が映し出される訳で……。
「あ……あ、え!?」
そこに映っている時刻はかなりやばめの時間だった。
そうだ!スターリーまで行ったのは夢だから私はまだ家にいて!じじじ準備しないと!あぁぁ今気がついたけどすごい雨降ってる!!そういえば今日は台風がいきなり進路を変えて来てたんだった!
いそいそと準備をして傘を差して走り出す。
うぅ……完全に寝坊したなぁ。こんなことは初めてだ。
やはり今日のライブ、緊張してたのかな。うん、多分そうだろう。
ただ、足取りはどこか軽い。
脳裏に浮かんでくるのはココアさん、チノちゃん、リゼさん、マヤちゃん、メグちゃん。皆んなの顔だ。あの路上ライブの経験で、あの人達との交流で私は今日のライブを頑張れる気がする。
私にはあの夢か現か分からないあの街が私を応援している……そう思える。
だから轟かせよう。私の、私たちのロックを! 遠い世界へ……木組みの街まで!
初小説でしたがワンアイデアと勢いだけで書きました。
短い間でしたが読んで頂きありがとうございました。