第1話
降り注ぐ雨の冷たさと、全身から吹き出す血液と痛みをもって目を覚ます。
「……ッ、……ッ」
私の身体はなにか小さいものに担がれ、ゆっくりと前へ進んでいた。
薄い金色の髪と青いリボンが、一歩踏み出すたびに私の頬を擦る。
「……ッ、……ッ」
息を荒くしながら、一生懸命に少女は歩んでいた。
「……重い、でしょ……。置いて……きなさい……」
「……ッ、……ッ」
それでも、彼女は私を背負い続ける。
視界がぼやける。
涙なのか。雨なのか。
守るべき者も守れず、大切な仲間さえも失った。
もうとっくに心は折れている。
この先を、私は生きてはいけない。
「お願い……、死なせて……」
★ ★ ★ ★
東国の霊山、極夜の世界。
登山道は光妖精が優しく照らす。
その先には秘境と呼ばれ、誰も立ち入ることのない巨大な崖がある。そこには、大きな神社のような学び舎があった。
━━東方幻想学園。通称、幻想郷。
≪幻想≫と呼ばれる異能の力を持つ少年少女が集まり、一人前の≪幻想師≫としての教育を受ける場所である。
黒色に赤いラインの入った制服は、西洋のデザインを取り入れた異国情緒あふれるものとなっていた。
『ようこそ、幻想郷へ。キミは新入生だね」
『こら、緊張してるんだからそっとしてあげましょ」
『忘れ物はないのか? 永琳先生は怖いぞー」
『『『『クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス』』』』
光妖精は新入生たちの周りを好き勝手と飛び回っては揶揄う。
霊山に住む妖精たちは悪戯好きとして有名で、毎年新入生を変に刺激しては慌てふためく姿を見て笑うらしい。今年もそれは例外ではないようだ。
「いつまで続くのよこの道……」
独り言にしては大きな声。振り向くとそこには、金髪の少女が息を切らしながら立っていた。俺とは明らかに育った場所が違うとわかる透き通った白い肌と青色の瞳。まだ綺麗な制服姿を見るに、俺と同じ新入生だろう。
「
「食べられて? なによそれ……」
「幻想郷には、建物や街を食べる教師がいるんだってよ。食べられたら最後、それは無かったことになるらしい」
「本当にわけのわからない学園ね……」
介抱の意味も込めて俺は彼女の隣を歩くことにした。少し小さな歩幅に合わせる。
「街を食べるんじゃなくて、歴史を食べる、よ」
また別の声。振り向く、一瞬見つけられなかった。それくらい小柄で、薄い水色の髪をした少女だった。
「上白沢先生はあたしの恩師なの。そんな怪物みたいな言い方しないでよ」
「あ、わりぃ……。見た感じ、俺らと同じ新入生みたいだけど、幻想郷の教師とは知り合いなのか?」
「そうよ。先生は元々あたしの村で先生をしていて、幻想郷の教師としてスカウトされたすごい先生なんだから」
話をする彼女の瞳は輝いて見えた。
「話をするのはいいけど、もうそろそろ歩き始めたいんだけど」
「わりぃ。……おまえも一緒にどうだ?」
「……仕方ないから、付き合ってあげる」
道連れのように俺は少女を誘い、三人で歩みを再開する。
━━刹那、形容しがたい不気味な風を感じた。
俺たちはほぼ同時に足が止まる。
口になんてしなくても、同じ予感をさせているとわかった。
━━何かが、来る。
「危ないぜッッ!!」
「「「━━ッ!?」」」
切り裂くような叫び声と共に、天から箒に乗った少女が落下してくる。その後方には、空を駆け抜ける巨大な獣がいた。
鬼の顔、獅子の身体、金魚の尻尾。その姿は≪
両者ともに一切速度は緩めず、俺たちの眼前に突っ込んでくる。激しい轟音と土煙が立ち込め、思わず腕で顔を覆う。
そして、晴れる。まず目についたのは、俺たちと同じ装いをした金髪の少女。そして次には、怒りを露わにした表情で立ちはだかるさきの大妖怪。
『皆逃げて……っ! 妖怪の襲撃よ……っ!』
突然の出来事に訳が分からず固まる新入生に、光妖精たちが叫んだ。
『あなたは急いで幻想郷にこのことを伝えて!』
『あいよ!』
『新入生たちは私たちについてきて!』
『焦らず走るんだよ!』
焦らないけど、慌てる。戦闘経験の少ない新入生は溢れるように道を外れた。悲鳴が飛散し、妖精たちの制止の声が響き渡る。
隣に立つ青い髪の少女が目の前の迫力に後ずさったのを感じ、言葉で止めた。
「ダメだ、俺たちはもう匂いを覚えられてる。逃げても執拗に追いかけてくるぞ」
「べ、別に逃げようなんて……!」
「念のため言ってみただけだ」
昔見た書の内容を思い出す。
奇異な姿をする妖怪獏竜は、空を水を自在に駆け抜ける。非常に獰猛な肉食であり、獲物の匂いを覚えては追い続けるという。
「でも、確か獏竜って湖の畔を棲み処にしていて、そこから離れることはまずないって言われてるわよね」
「ああ、つまり
覚悟を決め、俺は金髪の少女の隣に出る。すると、視線を獏竜に定めたままの彼女が口を開いた。
「おまえ、ビビッてないのか?」
「これからビビる予定だよ」
「そっか。私はもうビビりまくりだぜ!」
言葉とは不釣り合いな明るい声。それが強がりなのかは、いまの俺にはわからない。
「何度も言うわ、本当にわけのわからない学園ね!」
「こ、怖いわけじゃないから……! あたい……あたしは最強だもん!」
少し遅れて、後方に位置する二人も声を上げる。
「俺たちで
『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
獏竜が空気をひび割るような轟音で吼える。
逃げるように風が四方に吹き荒れた。振動した空気がまるで地震だと錯覚させるくらいに、俺たちの視界を揺さぶる。
そんな苛烈な空間に一筋の波紋が広がる。
それが詠唱だと気づいたことに、一瞬も掛からなかった。
「
誰よりも早く
さっきまでの疲れ果てた様子は嘘のように冷徹な表情で詠う。
透き通るような青い双眸は微かに光を放ち、彼女の指先からは青白い糸が顕現する。その糸が辿り着く先には、槍を手にした七体の人形があった。
指が微かに動く。
刹那、人形たちは一斉に目の前の敵に向かって突貫していった。
『━━ッ、━━ッ!』
獏竜は大地を駆け抜け、宙を舞い、時には身体を捩じりながら、巨体に似合わない身軽さで縦横無尽に躱していく。
異国の少女はそれでも正確無比な指裁きで徐々にだが着実に追い詰めていく。だが、
「もう面倒くさい……ッ! だれかあいつの足止められないわけ……ッ!?」
「あたしがやるわ!」
小柄な少女はそう告げ、一拍置いて詠う。
「
彼女の周りを、視認できるほどの白く濃い冷気が包み込む。
そして、背中には静かに力強く大きな氷の翼が顕現する。
その姿はまさに妖精そのものだった。
その小さな身体から発する幻想は、周囲の木々を一斉に凍りつかせ、空気から生気を奪い去る。
「はぁああああああああ!!」
彼女の一層の集中力をもって、青白い冷気は風のように波打って敵へ向かう。荒れ狂う獏竜を執拗に追いかけ、奴の前足を絡めとった。
「やったわ……ッ!」
「まかせなさい……ッ!」
異国の少女は嬉々として指を鳴らす。それを合図に獣を囲む七体の人形はそれぞれの光を放ち、閃光となって上空で制止する獏竜の身体を貫いていく。
「
この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかなかった。
箒に跨って飛びだした金髪の少女が、天上から詠う。
顕現するのは、絶大な火力を秘めた無数の星々。数えることなんてできない。そのすべてが流星群のように獏竜へと降り注ぎ、爆発する。
「
それは紫炎のように燃え盛る怨念。正者を呪った者の末路。それが群れを成して獣に襲い掛かる。燃やすのではなく、呪う。呪い続ける。
「「「「終われぇぇえええええええええええええええええッッ!!!!」」」」
これで仕留める。四人の心が誤差なく通った瞬間だった。
青髪の少女が頭上に巨大な氷塊を生成して圧し潰し、巻き上がる土煙を切り裂くように七色の閃光が駆け巡り、爆発する流星と怨念が辺り一面に降り注ぐ。
まさに苛烈。身体を芯から揺らす爆音が鳴り響いた。
「……これで無理なら、死ぬしかないぜ」
ゆらゆらと落ちる紙切れのように、金髪の少女が息を切らして降りてくる。
彼女の言う通りだ。後ろにいる二人も同じく息を切らして満身創痍な様子であり、さらなる攻撃は不可能だと考えるのが妥当だ。残った俺の幻想では火力不足、足止めすらできないだろう。
解決しようなんて強気に出たけれど、ようやく理解できた。
この大妖は、俺たちには早すぎる。
『━━━━』
煙がゆっくりと晴れていく。
攻撃によってできたクレーターの真ん中、横たわる巨体。
「……お願い」
その体躯に出血は見られるものの、重い傷跡は確認できない。
それでも、いまだ奴は動かない。
「…………」
動かない
奴は、動かない。
「「「「ぷはぁーっ」」」」
ほぼ同時に俺たちは息を吐いてその場に崩れ落ちた。
冷え切った空気が重くのしかかり、緊張の糸を引きちぎる。
「はぁ……はぁ……もう一歩も動けないぜ……」
「同感ね……入学式前だっていうのに、最悪だわ……」
「だらしないわね、あんたたち……。あたしはまだまだ……いけるわよ……」
「なら……おまえアレの後始末してこいよ……。冷凍保存した獏竜は……きっと高値で売れるぞ……」
「む、無理……! ごめんなさい……!」
「まあ、とりあえず」
と続けて金髪の少女が笑う。それに釣られて、異国の少女と青髪の少女も笑い、俺も自分の表情が和らぐのを感じた。
名前も知らず、過ごした時間すら存在しない。それでもあの瞬間、俺たちは互いを信じて、力を重ねた。
俺たちは確かに、死線を乗り越えた仲間だった。
━━アアアァ。
死神が微笑んだ気がした。
聞き間違いだと思った。
けれど、目の前の三人の表情がそれを否定する。
「嘘でしょ……」
振り向いた先、空高く立ち上る水流がまるで龍のように大口を開けて肉薄していた。
「「「「━━ッ!」」」」
一斉に発動した四種の幻想。いま出せる最大出力をぶつける。
しかし、
「あ━━」
誰かが呟いた。
一秒も拮抗することなく四散する幻想たち。
遊ばれていた。
最初から。
「
風に乗って宙を舞う一枚の札。
それはすべてを飲み込まんとする水龍の前に頼りなく立ち塞がる。
そして触れた瞬間、荒々しくとぐろを巻いた水が音も無く消えた。いや、消えたというよりは引き剝がされたような。
「おらぁあああああああああ!!」
その直後、露わとなった生身の獏竜に、真横から紅蓮の炎が激突した。その炎は巨大な火ノ鳥に姿を変え、遥か彼方で激戦を繰り広げる。
「あとで他の先生も来るから、もう大丈夫よ」
感情の薄い声と共に、一人の少女が俺たちの前に舞い降りた。
夜のように暗い黒髪に、茶色い瞳。
俺たちと同じ制服、同じくらいの年、それなのになんだか周りとは逸脱したような存在感を放つ少女だった。
☆ ☆ ☆ ☆
瞬く間に異変は収束していった。
幻想郷の教師と経験豊富な上級生達が飛び散った新入生たちを全員を確保し、獏竜についてもあの巨大な火ノ鳥が追い返したという。
結果を見れば、俺たちが死にかけたのは単なる実力不足で、そのことを入学早々痛感させられることになった。
「ねえ、退屈じゃない?」
新入生たちが集められた満開の夜桜に囲まれた広場で、隣に立つ異国の少女が欠伸交じりに呟く。
「もっと他に言うことあるだろ」
「例えば? 生きてるって最高、とか?」
「満点の答えだな」
「まったくね」
彼女は「でも」とすぐに続ける。
「あんなことがあった直後だと、妙に感じるのよ」
そう言う彼女の頭上に桜の花弁が一枚降り立った。
確かに異国の少女の言う通り、命を懸けたあの時間のすぐ後だと現在がとてつもない穏やかなものに感じる。
そんな時、極夜の空が少しだけ明るくなった気がした。ざわついていた新入生たちが一斉に口を閉ざす。
目の前に聳え立つ櫓の頂上に、一人の女性が現れた。
「ようこそ、幻想郷へ。まず、記念すべき今日この日に獏竜の襲撃を許してしまったことを謝罪するわ」
紫色のワンピースに身を包む金色長髪の女性。彼女の名前を、この場で知らない人は存在しない。
東方幻想学園学園長━━八雲紫。またの名を、世界最高の幻想師。
彼女は刺すような鋭い眼差しで俺たちを見つめていた。
「今後は、ここにいる腕利きの教師たちを中心にして警備体制を強化していくから、あなたたちは安心して生活してほしい」
その言葉に、誰かが安堵の息を吐く。それは当然の反応だと思う。
櫓には上がらずに端で新入生たちを眺める教師の面々は、腕利きなんてものではない。学園長に負けず劣らず世界に名を馳せた幻想師たちばかりだ。
「ここには大して守るべき規則は無いから、授業以外は自由に過ごしてくれて構わないわ。勉強熱心ならいつでも先生が質問に答えてくれると思うし、食についても妖怪ウサギたちが十分に美味しいものを振舞ってくれるはずよ。遊びたいのなら、そこらへんの妖精にでもちょっかいを掛けてみなさい。後悔しても知らないけど」
世間話のような内容なのに、その言葉一つ一つになにか強い力が込められているかのように心に突き刺さっていく。
「けれど、一つだけあなたたちに伝えなければならないことがある」
風が止む。夜空に浮かぶ星々さえも、押し殺すように輝くのをやめたように感じた。
「この学園の地下、形容し難い程の闇の中に一つの扉がある。けれど、その先には決して踏み入れてはいけない。踏み入れたら最後、指一本すら残らないのだから」
入学式のめでたい気分はすっかい消し飛んでしまった。それでも、あえてこの瞬間に言うということは、余程に危険なことなのだろう。
この場にいる誰もが、この言葉だけは心の奥底に刻み込んだ。
「これは規則ではなく、命令よ」
まるで、呪いのように。
☆ ☆ ☆ ☆
恒例行事である宴会までの間、新入生たちはそれぞれ学生寮の自室へ案内され、荷解きをしながら明日の準備を進めるように指示された。
死戦を経験した俺の身体は重く、荷解きも程々に布団に身を任せる。
瞬き一回。のはずが、気づけば三時間が経過していた。
宴会に十分遅刻している。俺は大分軽くなった身体を起こし、少し急ぎめに部屋を後にした。
境内のような造りの寮を抜けて、湖の上に掛けられた橋を渡る。
行く手を紫色に光る蝶が漂う。
渡った先、聳え立つ本殿が俺たちの通う幻想郷だった。
大きな門に近づくと、独りでにその門が軋むような音を立てながらゆっくりと開く。この先にあるもう一つの扉を越えた先、そこが宴会の会場である。
その扉がまたしても勝手に開き始める。
差し込む光。
溢れ出す紫の蝶。
その扉の先には、
「「「「「ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」」」
膨れ上がった歓声。まず聞こえてきたのは壮大なメロディ。駆け巡る音色が新入生たちの心を激しく揺さぶっていた。
「やっぱり、プリズムリバーの音楽は最高だよねっ!」
「もう一度聞けるなんて思いもしなかったわ!」
この空間を支配するのはプリズムリバーと呼ばれる三人の音楽家と団員たち。世界に名を馳せ、いまでは赤子でもその名を知っていると揶揄される程の有名楽団が宴会を彩るコンサートを行っていた。
「おー! いたいた! こっちだぜおーい!」
聞き覚えのある声が音を掻い潜ってやってくる。向くと、隅のテーブル席に見知った顔ぶれが集まっていた。
共に死の間際まで立ったあの三人と、独特な存在感を放つ黒髪の少女。全員欠けることなく再会を果たした。
「入学早々遅刻って、いい度胸ね!」
小柄な青髪の少女が棘のある言葉を放つ。
「いや、逆におまえよく間に合ったな。秒で寝たぞ」
「時間管理は基本中の基本よ! まったく恥ずかしいやつ!」
「あんただって、涎垂らして机で寝てたでしょ。私が起こさなかったら遅刻してたわよ」
異国の少女が横から彼女を突き刺した。途端に赤面する彼女。
「う、う、うるさぁい……!」
「あんな体験したんだもの、疲れるのは当たり前よ」
「まったくだぜ。私も爆睡してたから、遅刻しなかったのが奇跡だ」
「やっぱそうだよな」
「まあ、何も感じてない人が一名いるみたいだけど」
異国の少女が横目で隣の先に座る黒髪の少女を見る。彼女は会話に入ろうとせず、目の前の宴会料理に目を輝かせながら黙々と口に運んでいた。モグモグと擬音が聞こえてきそうなほどに。
「なあ、私たちもう他人じゃないんだし、自己紹介くらいしようぜ」
金髪の少女が言う。
周りを見渡して、彼女の提案に異を唱えるものは誰一人としていなかった。それを確認して、言い出しっぺの少女が元気よく口を開く。
「私から行くぜ! 名前は霧雨魔理沙だ、ここから東方にある和泉国出身で、そこでは少し有名な家なんだぜ。ま、ここじゃ何も関係ないけど。これからは私のこと魔理沙って呼んでくれよな!」
「あたし知ってるわ、和泉の霧雨組でしょ? 治安維持を担ってるっていう」
「まあな! つっても気合いしか取り柄の無いやつらばっかのうるさい家だぜ」
そう言って魔理沙は懐かしむように微笑んだ。
次は、なんとなく空気を察した小柄な青髪の少女が口を開く。
「次はあたしか……。こほん、あたしの名前はチルノ。この霊山の麓にある小さな村出身で、人間と妖精のハーフよ。おかげで身体は小さいけど、舐めたら痛い目見るんだから、そこんところ気を付けてよね」
チルノは大きく胸を張って言い切る。その姿を見て、あの時の幻想が頭をよぎった。
「確かに、あの時の氷は凄まじかったな。冷たくて息が止まりそうだった」
「でしょでしょ! あたしの幻想は最強なんだから! 覚えておきなさい!」
「ああ、覚えとくよ」
俺の言葉に彼女は満足そうな顔をして話を終える。続くのは青い瞳の異国の少女だ。
「アリス・マーガトロイド。私もアリスでいいわ。海を越えた遥か北方にあるファルフ出身よ。二人のように特別な生まれではないけど、そうね、私は≪人形師≫を目指してここにきたわ」
「人形師? 幻想師じゃなくて?」
「ええ。あー、わざわざ違いなんて説明してあげないわよ。私だけが理解してればそれでいいんだから」
空のような透き通るその瞳には強い意志を感じさせた。
残るは俺と食いっぱなしのこいつ。どっちが先か目配せしあっていると、他の三人の視線は彼女に集中した。
黒髪の少女は慌てて箸を置き、笑顔で告げる。
「私の名前は博麗霊夢。博麗っていえばわかってくれると思うけど、私はそんな大したものじゃないから、期待せずによろしくね」
『…………』
一瞬、時が止まったような気がした。
彼女が13代目博麗の巫女。
始まりの幻想師━━博麗
だったら、最初から彼女が放つ特有の存在感にも納得がいく。
大したものじゃないなんて嘘だ。
はっきりと断言できる。彼女は、この世界で一番特別な存在だ。
「じゃあ、霊夢でいいか」
どうしても壁を感じてしまう存在を前に、魔理沙は笑顔でその壁を飛び越えた。
その言葉は予想していなかったのか、博麗霊夢はピクリと身体を震わせるけれど、すぐさま笑って頷く。
「ええ!」
「おう! よろしくな、霊夢!」
魔理沙は邪気の無い笑顔を彼女に向ける。
あまりにも真っ直ぐだからか、霊夢は顔を赤くしながら視線を迷子にさせて無理矢理話題を逸らした。
「つ、次はあなたじゃない……? 早くした方が良いと思う……!」
「つってもなー、俺はおまえらと違ってなにもアピールできることがないんだよ」
「い、いいから早く……!」
「なに恥ずかしがってんだよ」
「い・い・か・ら・は・や・く!」
顔を真っ赤にして詰め寄ってくる霊夢。それを眺めていたアリスが、微笑みながら言葉を挟んだ。
「アピールポイントがないっていうのは嘘じゃない? 少なくとも私は、あんなに暗くて不気味な幻想を初めて見たわ」
「あ、それは私も思ったぜ」
「あたしも」
いつの間にか視線が集まる。仕方ない、俺は言葉を整理させながら告げる。
「えっとー、俺の名前は
「呪われ体質?」
チルノが首を傾げる。
「生まれて三日で呪われてやったぜ」
「……ドヤ顔で言うことじゃないと思うわ」
「そう言うなって。おかげで少しばかり耐性がついたんだよ」
ほんの少しの自分語りを含めて、俺は話を終えた。
「よし、これで全員終わったみたいだし、早く食べちゃおうぜ。いい匂いが漂って腹がプリズムリバーとコーラスしちまうよ。それに、このままじゃ食い尽くされるだろうから」
意味深なことをいう魔理沙の視線の先には、自分の分を食べ終わり、隣の俺の食事に勢力を伸ばした霊夢の姿があった。
「てめぇっ!」
「
「この野郎! 返せよ俺の飯!」
「すいません、山菜盛り追加で」
「この魚うめぇー!」
「アリス、あたしのキノコあげる」
「なに好き嫌いしてるのよあんた。駄目よ、食べなさい」
「や゛ぁぁぁだぁぁぁ」