「それじゃあまずはね、私と手を繋ぎましょう。両手でね?」
「て?…ん」
にこやかに少女に話しかける女性、ルサルナ。魔法の教官。
困惑しながら渋々と男の手を離す少女、ウル。獣耳のついた生徒。
苦笑いし手を離した男、ブル。保護者及び依頼主。
「はい、じゃあ何で両手を繋ぐのかって言うと……」
「あ、んぅ…なんかへんなかんじ…」
「そう。その変な感じは魔力っていうの。魔法を使うための力ね。…ちょっと止めるわね。それで今の感覚を思い出して、身体の内側に集中して、自分の魔力を見つけるの。」
意識しないとなかなか自覚するのって難しいのよ、とルサルナ。
んー?と目を瞑り、首を傾げるウル。
「ふふっ、一度で出来る子なんてほとんどいないの。大抵何日かかかっちゃう。だから今みたいに魔力を流して、探してって何度も繰り返す。因みに、ここら辺から魔力が生まれ出るのよ?魔力を感じるときに意識してみたらいいかもね?」
優しくウルの胸の真ん中を突くルサルナ。
まんなか…と呟きながら探すウル。
煩くしては邪魔になると石像のように直立不動のブル。
「そういえば、あなたは使えるの?魔法。」
んぅぅと唸るウルをにこにこと見ながらルサルナ、ブルに聞く。
「あー、全くって言っていいな。どんだけやっても何も起きねぇんだ…自分を強化するのはなんとなく出来んだが…」
だから教え方も分かんねぇ、とブル、困り顔。
わかんない…と首を傾げるウルに魔力を流してやりながら返事をするルサルナ。
「珍しいわね。そんなの初めて聞いたわ。んー、そうねぇ…っと。ちょっとあれを全力で攻撃してみて。興味が湧いちゃったわ。」
言いながら離れた位置に土棘を生やすルサルナ。先程のより倍ほど大きい。
急に生えてきた土棘に、ウルは耳をピンと立てて驚いている。
「全力…ちょいと待ってくれ…」
金棒を持ち、目を閉じ集中するブル。じっとその背中を見るウルとルサルナ。
ざわざわと草木が揺れる。ブルからは奇妙なほどに何も感じ取れない。
「え」
瞬きせずに見つめていた背中が消え、思わずルサルナは声を漏らした。その声をかき消すような轟音。遅れて強い風が吹き付ける。とっさにウルを抱きしめたルサルナは呆然とする。
土棘は元よりなかったかのように消えていた。生えていたであろう場所は大きく抉れている。
「これが…猪の…」
ルサルナはかつて似たような跡を何度か見たことがあった。
“猪”が暴れたとされる場所。
大穴が空いていたり、吹き飛んだように抉れている跡を見て、どんな魔法を使ったのだと考え込んだものだ。
そして、街で“猪”らしき人物を見つけ、依頼を出しているのを見たルサルナは飛びついた。絶好の機会だと。
らしき、というのは聞いた話と違い随分と柔らかい雰囲気だったためだ。
ついでに金を払って入手した人相書とも若干違う。
もう少し凶悪な面構えだったのだ。
そのため本物なのか確信は得れず、鎌をかけたのだが。
ブルの反応から恐らく本物だろうと考えた。
呆然とするルサルナは、くいくいと引っ張られる感触にハッとする。
引っ張っている少女を見る。とてもきらきらとした目。
「わたしにもできる?」
「あれはやめとこうね。」
「えっ…」
つい本音が溢れるルサルナ。だめなの…?と悲しげなウル。
駄目だこんな子にあんなものは目指させたくない、とルサルナは思う。
しかしウルを見て、考えてみる。こんな少女が金棒の一撃で、魔獣を消し飛ばす様を。…ちょっと良いかも。
いやいや駄目よ血迷うな私、と惑う思考を落ち着ける。深呼吸。
「ウルちゃんは魔法の方で目指そうね。」
私がしっかり教えるから、とルサルナ。後で全身全霊の魔法を見せて、先程の印象を上書きしようと画策する。
「ん、がんばる」
そう言って続きを始めるウル。ルサルナ、まず矛先を変えれたことにに安堵する。
ちらりとブルの方を見る。手を見つめて首を傾げている…?
もしやまだ全力ではなかったのでは、という考えが浮かぶが、慌てて思考の隅にやる。ウルちゃんに集中しよう、そうしよう。
ブルは違和感に頭を悩ませていた。
明らかに出力が上がっている。少々ではないほどに。
“前の魔獣が8割、今のは感覚的に9割って感じか…?”
んー…と悩むブル。ふと、思う。
強くなって困ることはないな、良し!
そう考え、ウルを見守ることに戻る。頑張れ、と小さく応援しながら。