なんかよくある話   作:天和

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待ち構えられていた話

 

「くそぉ…虫ごときのくせに人様を驚かせやがってぇ…いつでも踏み潰せるんだぞちくしょうめぇ…」

「クレア…おいクレア。いつまで引っ付いてやがんだてめぇは」

「ふざけんなよちくしょうめぇ…絶対、絶対燃やしてやるぅ…」

「おい、おいって。クソっじめじめしやがって…カビが生えてきそうだ全く…」

 

ブルの背中に張り付き。負の念を垂れ流しにしている少女、クレア。

 

妹分が勇気を出してクモと交流するのを見て、何くそと挑戦してみたものの、秒殺されて泣き帰った哀れな少女である。

 

 

秒殺というと悪く聞こえるかもしれないが、クレアだって頑張っていた。

 

クレアは頑張ってクモの前まで行き、対面で見つめ合う姿勢になっても逃げなかったのだ。

 

へっぴり腰にはなっていたが。

 

ちょっと深呼吸をして、もう一回大きく深呼吸して、いややっぱりもうちょっと…ともじもじしていたクレア。

 

皆がそんな様子を微笑ましく眺めていた。

クモも今か今かと待ちわびるように、体を上下に揺すっていた。

 

意を決して最後にもう一度深呼吸をしようと、クレアが一瞬目を閉じた瞬間にそれは起きた。

 

クレアの顔面にクモがぴょんと跳ねたのだ。

 

女子にあるまじき、世界の裏まで聞こえるのではないかと思うほど大きく野太い悲鳴を上げたのも無理はないだろう。

数瞬目を閉じただけなのに、開いた目に映ったのは自身の顔目掛けて宙を泳ぐ巨大なクモなのだ。

 

紙一重で躱したものの、腰が抜けてぺたりと座り込んだクレアに、しめたとばかりにアメリアも飛び付いたのだが、一瞬早くクレアはブルの背まで這々の体で逃げ帰っていた。

 

虫にびびらされ、邪念が透けて見える仲間から運良く逃れ…このカビが生え散らかしそうなじめり具合である。

 

流石のブルも可哀想に感じて振り払うことができないでいる。

 

 

「おやぁ…?良い(ブツ)を持ってきたんだけど…ちょいと遅かったらしいねぇ…」

「あ!さっきの!すいません、ほったらかしにしてしまって…」

「あやしいひと…?」

 

クレアに逃げられ落ち込むアメリアへかかる、なんだか胡散臭い声。騒ぎを見て、いち早く虫除けを取りに行った怪しげな人物だった。

 

落ち込むアメリアにバレないよう、クモを乗せていたずらしようとしていたウルがそっと後退る。

 

怪しげな人物は大騒ぎしていたときと打って変わって和やかな様子ににやにやと笑みを見せていたが、ウルの言動にほんの少し口元を引き攣らせている。

 

「随分なご挨拶だねぇお嬢ちゃん。何をどーぅ見てもぉ…善良な一般人じゃあないかい…?」

「にぃー、るぅねぇー、あやしいひと!」

「あ、ちょ!」

「ちょ、ウルちゃん!見た目で判断しちゃ駄目だから!」

 

クレアによる教育の賜物により、ウルはいち早く大人に頼った。

まさかの救援要請にアメリアは慌てた。

 

よりにもよってヤバいお二人に声掛けするなど、特に冗談が通じるか怪しいブルへの声掛けなど致命的になりうる。

 

なんとかウルの認識を正そうとしたアメリアだが、既に遅い。

ウルが言い終わる前に、二人は動いているのだから。

 

「少しばかり様子見しようと思ったが…ウルに怪しい人呼ばわりされる奴は、その認識で間違いないよなぁ…?」

「あなた手に持ったそれ、良い(ブツ)とか言ってたけど…ちゃんと何なのか説明しなさいよね…?」

「駄目…何もかも遅かった…」

 

既にブルは金棒を抜き放ち、ルサルナは怪しげな人物に真後ろから、にこやかに声をかけている。

 

アメリアは手遅れであることを自覚し、せめて誰にも被害が起きないように祈り始めた。

 

「まっ、待ちなよぉご両人…自分はただの案内人なんでさぁ…ほらこれ…これも、虫除け…質の良いただの虫除けさね」

 

怪しげな人物は真後ろの得体の知れない圧と、目の前から迫りくる物理的に圧に早々に屈した。

わたわたと動き、手に持った液体入りの小瓶を見せつけるようにして話し始める。

 

「へぇ…虫除けねぇ。その液体が虫除けって言われても私達には分からないんだけど」

「虫除けという名の薬か?あ?ぶちのめすぞ?」

「ひぇぇ…!まっ、お待ちくだせぇ実演しますからぁ!」

 

背後から左肩、正面から右肩に手を置く二人。

その二人はそれぞれの獲物を携え、更にブルに至っては金棒をがつがつと地面に打ち付けている。

 

自称善良な一般人である怪しげな人物に抵抗する術はない。

 

傍から見れば根暗そうな住人を脅して金品を奪おうとする輩にしか見えないが、これでも愛する子を心配する親の姿である。

 

「こ、こういうふうにぃ、ちょいとばかり振り掛けてやれば…ほ、ほらぁ!どうですかぁご両人!ほら、ほらぁ!虫が逃げてい、いくでしょう!?」

「ふぅん…?虫除けというのはあながち間違いじゃないわね」

「そうか…じゃ、ちょっと飛んでみろよ。他にも怪しいもんあんじゃねぇのか?」

「は、はいぃ!」

 

愛する子を心配する親の姿である。

 

「おいおいおい…鳴ってるぜ…?怪しげな音がよぉ!」

「出しなさい、ありったけを。そして全てを説明なさい」

 

本当に親の姿か?これが?

あまりにも輩的対応に、じめじめしていたクレアもにっこり。

 

アメリアは静かに祈りを続け、ウルはちゃっかりブルによじ登り高みの見物へと洒落込んでいる。

順調に、少しずつ悪い子として成長しているウルである。

 

周囲の人々は巻き込み事故を恐れて止めるに止められない。

ウルとクレアはとっても楽しそう。

アメリアは一心不乱に祈っている。

 

どうしようもなく目立つ一行であった。

 

 

「おやまぁ…そろそろ来ると思ってたけど、久しぶりに見たら随分と大きくなってるじゃない」

「随分と丸くなったもんだな」

 

ブルの耳に届く、少しだけしゃがれた声。

思わず背筋が伸び、ばっと声の方向へ振り向いた。

 

振り向いた先に悪戯な笑みを浮かべる老婆と、仏頂面の老爺。

 

「じ、爺さん…婆さんまで…」

「じーさん?ばーさん?にぃの?」

「あ、あぁ…いや、なんていうのか…」

 

ブルの頬に冷や汗が伝う。

ウルの疑問にも答えを窮する動揺っぷり。

 

ブルの態度に困惑する一行。

アメリアだけは祈りが通じたとして、怪し気な人物を逃している。

 

そんなブルの様子に益々笑みが深まる老婆と、益々眉間に皺がよる老爺。

 

「久しぶりだね暴れん坊。元気かい?あたしは今でも最高だよ」

「なんだその馬鹿面。腑抜けになっちまったか?」

 

 

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