なんかよくある話   作:天和

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誘われる話

 

 

「がるる…!」

 

ブルの肩で威嚇している幼子、ウル。

老人達にからかいにからかわれてすっかり機嫌を損ねている様子。

 

「おやおやすっかり嫌われちまったかね」

「ほれ、飴ちゃんいるか?」

「…いる!」

 

そんな姿を見ても、全く悪びれずに老婆は笑い、老爺はおもむろに取り出した飴玉をちらつかせている。

 

ちらつかせたお菓子への食いつきは上々どころではない。

ウルはものの見事に見え透いたご機嫌取りに引っかかっていた。

これには老爺も笑いを隠せない。

 

そんなやり取りを横目に、ルサルナが緊張と興奮を隠しきれない様子で老人達へ声をかける。

 

「あの、私はルサルナと言います。その…もしかしてあなた方は…」

「あーあーそりゃ内緒にしといておくれ」

「その通りだ、娘。儂らはただの老いぼれよ」

「やはりそうなんですね…!」

 

茶目っ気たっぷりに片目を閉じて目配せし、ルサルナの言葉を遮る老婆。

老爺もまた、やや警戒しながら飴玉を受け取るウルを見ながら追随する。

 

その反応にルサルナは確信を得て、目をきらきらさせている。

ブルはなんだか怪訝な顔。

 

「爺さんと婆さんが…なんだ?」

「え?ブルあなたもしかして…知らないの?身内か知り合いじゃないの?」

「この爺婆が身内?やめてくれよ…クソ強ぇのは知ってるが」

「はいはいそういうのは人がいないとこで言いな。後小僧、後でお話だよ」

「あ、すいません…」

「うす…」

 

憧れの存在らしき人物を前に興奮を隠しきれないルサルナと、何やら昔に色々あった様子のブル。

どちらも老人達には強く出ることが出来ない。

 

一方、そんな珍しい光景など欠片も興味を持たないウル。

今はそんなことより飴玉だった。

 

損ねた機嫌はどこへやら。

口角が上がるのを抑えられないまま、緑色の包みをためつすがめつ眺めている。

 

そして緑色の包みを取り払い、現れた真っ白な飴玉をきらきらした目で見たが、見ていたのは一瞬。

辛抱たまらんといった様子で早速小さなお口に放り込んでいた。

 

にこにことしながら飴玉を口の中で転がしたウルの表情が困惑に変わる。

なんか思ってた味と全然違う。

 

老爺は対象的に、最初に見せていた仏頂面が嘘のようににんまりと笑った。

 

「すーすーする…へんなあじ…」

「くくっ、その味の良さが分からんとは…お子様よのぅ」

「むぅぅぅ…!」

 

薄荷味であった。

 

 

それらを遠巻きに見るクレアとアメリア。

 

「ほら大丈夫だって。お爺ちゃんもお婆ちゃんも悪い人じゃなさそうだよ?」

「いやいや、お兄さんがあんなになる異常性が分かんない?良い悪いとかじゃなくて絶対、絶対ヤバい人達だって。というかめっちゃウルに意地悪してるけど?」

「あれは子供が可愛くてしょうがないの。村の爺ちゃんも婆ちゃんも同じだった…この間のことなのに何だか懐かしいなぁ…」

「詳しいねー、語るなら後にしてよ?」

「だから一緒に行こ?」

「そこでだからは意味分かんないって。はぁもう…とりあえず肩のそれどっかやってから言って」

「肩?…ひゃわぁ!?」

 

クレアの指摘に、ようやくクモが肩で寛いているのを知るアメリア。

 

ウルのいたずらは非常に良い反応を引き出していた。

 

 

そして、そのわちゃわちゃを見ていた老婆が口を開く。

 

「あー…そうだね。長旅だったろうし、まずはあたしらの家に来な。ちょっと休もうじゃないか」

「うす…」

「良いんですか?」

「もちろんさね。ちびちゃんはどうだい?」

「えぇー…」

 

拒否すればさらに埋め立てられそうなブルは渋々と従う。

ルサルナは言うまでもなく乗り気。

 

しかしウルはなんだか乗り気ではない。

からかいにからかわれているのだから無理もないだろう。

 

にっこりと笑う老婆。

 

「美味しいご馳走作ったげるよ」

「いく!」

 

なんとも言えない顔で飴玉を舐めていたが、またしても見え透いた誘いに食い付くウル。

 

年の功かそれとも単に分かりやすいのか。

ウルの弱点は早々に看破され、そのあまりにも早すぎる変わり身に老婆は笑いを堪えられなかった。

 

「くくっ…そっちの小娘達も小僧の連れだろう?ほれ、あんたらもこっちいらっしゃい」

「馬と馬車も問題ないから連れてきな」

「あ、はーい!…だってさ、クレア」

「はぁい…」

 

老人達の言葉になんの疑いも気負いもなく元気よく返事するアメリアを見て、クレアは渋々長いものに巻かれることを決めた。

 

 

 

「話しながら行こうじゃないか。小僧、あんた今ブルと名乗っているらしいね?ないだとか知らねぇとか、挙句の果てに名前なんぞいらねぇって突っぱねたのにさ」

「この名はこの子…ウルが付けてくれたんだ」

「わたしのも!うるってにぃがつけてくれた!」

「そうかそうか、良い名だねぇ…小僧、いやブル。あんたも大事にするんだよ?」

「婆さんに言われるまでもねぇな」

「んふふ…いいなまえだって、にぃ」

「あぁ…俺もウルも最高の名前だ」

 

「ふぅむ…そこの小娘らは年齢の割に動けるようだな。それに魔法もそこそこ出来ると見える。娘も近頃見た中では魔力の練りが頭抜けておる。よく鍛え上げたものだな」

「あ、ありがとうございます…見ただけで分かるなんて流石ですね」

「えへへ、そんな出来るだなんてぇ」

「どーもー」

 

和やかそうに話す老婆側と、品定めするかのようにブル一行を見回す老爺。

ウルは名前を褒められ、ものすごく機嫌が良くなっている。

 

一方老爺は品定めの結果、それぞれを褒めていた。

憧れの存在に褒められたルサルナは照れを隠せず、アメリアは単に褒められるのが嬉しくて舞い上がっている。

 

バサシに乗ったままのクレアはなんだか訝しげ。

 

「くっく…ただの年の功だ」

 

嘘である、なんてことはない。

実力については事前に仕入れた情報からある程度把握していた。

そうでなくとも今までの経験に基づいた観察力は誤魔化せない。

 

老爺から見てもルサルナの魔力の練り込み具合は目を見張るものがある。

クレアとアメリアも歩行や姿勢、見える肌から見て取れる鍛え具合と、魔力の練り込み具合は年の割に素晴らしいものがあった。

 

 

老爺の心に火が灯る。

 

とっくの昔に燃え尽きたと思っていたが、そんなことはないらしい。

悪ガキの連れは皆、良い素質を持っている。

特に黒髪と金髪の小娘──クレアとアメリアとかいう小娘。

まだまだ磨き足りない原石だが磨き上げればどうなるか。

 

老いさばらえたこの身はのんびりと寿命を待つだけだと思っていたが、案外そうではないかもしれない。

 

 

裂けるように吊り上がる口元を髭を撫でるふりをして覆い隠す。

照れを隠しきれず舞い上がる二人を、微笑ましいとでも言うように。

 

このとき、クレアだけが気づいた。

 

憧れの存在相手に目が曇っているルサルナと、褒められて舞い上がっているアメリアは気づかない。

 

クレアだけがその猛る瞳に気づき、続いて手の隙間から覗く吊り上がる口元に気がついた。

 

 

そして、隠し切れない煮え滾る熱のような何かに。

 

 

血の気が引き、冷や汗が吹き出す。

これのどこがただの老いぼれだ。

 

逃げることは叶わない。

皆がついていく中、皆に絆された自分だけが逃げることは出来ないから。

 

 

震える体を誤魔化すように、バサシにぎゅっと押し付ける。

それを横目に、益々面白そうに嗤う老爺を見ないようにして。

 

 

 

 

 

「で、あんたは嫁をいつ紹介してくれるんだい?あんたの口からはっきりと聞きたいんだけどねぇ」

「なっ…!婆さん、勘弁してくれよ…」

「るぅねぇのこと?にぃ、いわないの?」

「ウルもちょっと待ってくれ…」

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