なんかよくある話   作:天和

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表現の迷路で彷徨っているので…


そういう話

 

「だから、戦い方も考えて…戦い以外でも、役に立つこと考えて…私は…」

 

クレアの声に湿り気が交じる。

俯いた顔から光るものが零れている。

 

その声を聞いた老爺はほんの一瞬目を閉じ、それから屈み込む。

 

それを見るウルやルサルナ、アメリアの目にも少しばかり光るもの。

 

ブルも老婆も神妙な顔付き。

 

 

 

屈んだ老爺は、そっとクレアの頭の上に手をやり…何かに気づき、かざした手を握り込んで振り下ろした。

なんとも素晴らしい音色が響く。

 

「あいったぁ!!なんで!?今のは慰めるところでしょ!?」

「ふん、クソガキが…性格の悪さが隠し切れておらんわ!」

 

頭を抑えるクレアの手から、ぽろりと落ちる小さな袋。

中身はクレア特製の毒の粉である。

 

致死性のあるものではなく、痺れて動けなくなるものだが、動けなくなればどうなるか想像に難くない。

 

老婆も含め、唖然とした表情になる一行。

 

老爺はさらに一発、先程よりも重たい拳骨を見舞う。

同じ場所により強い一撃を食らったクレアがのたうち回る。

 

老爺はその痴態を見届け、ため息を吐いた。

 

「あまりにも性格は悪いが、勝ちを求める姿勢は悪くない。もしやお前、先程の表情も演技か?」

「ぬぅぅ…!割れちゃう…美少女の頭が…!」

「聞かんかクソガキ!」

「隙あり!」

 

いきり立った老爺に、さらに隠し持っていた袋を投げるクレア。

粉を撒きながら飛んだ袋は、しかし老爺が起こした風に吹き散らされる。

投げつけた姿勢でほんの少し固まったクレアだが、何事もなかったように再び頭を抑えて転がり始めた。

 

青筋の数が倍増する老爺と対象的に、老婆が腹を抱えて笑い出す。

 

「くくっ…くっくっく…」

 

俯きながら笑い始める老爺。

体が震えるのは笑いからか、それとも溢れ出る怒りからなのか。

 

クレアは瞬時に身を起こし、戸惑うことなく背を向けて走り出した。

 

「望み通りその頭かち割ってやらァ!!」

「ひぇ…!まじやばっ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい…最初はほんとにびびったけど、どうしても下剋上精神とか、作った毒薬の試験的なことがしたい気持ちがむくむくと……」

「おいこのクソガキ、反省の色が全く感じられんのだが?」

 

クレアの逃走劇は瞬く間に終わっていた。

拳骨のおかわりをもらい、隠し持った武器やら何やら全て没収されて正座中である。

涙目ですごく反省してそうな顔だが、内心は絶対にそんなことない。

 

老爺の青筋は浮かんだまま。

 

「本当にすいません…うちの子が…」

「全くだ、婆さんにちょっとかっこつけちまったじゃねぇか」

「あなたも頭を下げるのよ…!」

「はい…」

 

正座するクレアの隣にはぺこぺこと頭を下げるルサルナ。

 

ブルは老爺側に立ち、さも自分は関係ありませんとばかりの顔をしていたが、ルサルナの怒気に逆らえなかった。

 

渋々頭を下げるブル。

 

流石に二人にまで怒鳴り散らすほどではない老爺は、深い深いため息を吐いた。

 

「儂もお前らまで怒鳴り散らすほど気は短くない。先程も言ったが勝ちを求める姿勢は悪くない。むしろ良いと言っていいほどだからな…ところで、食事のときの表情も演技だったのか?」

 

ため息とともに怒りを吐き出した老爺がクレアに尋ねる。

クレアはきょとんとした顔。

 

「え?当たり前でしょ?騙されちゃった?あはっ」

「火に油を注いでどうするのよ、このお馬鹿!」

「どうどう、爺さん、あんたは昔俺に言った。騙される方が悪いって。そうだろ?」

 

老爺が無言で振り上げた拳をブルが降ろす。

その代わりにルサルナが拳を振り下ろしている。

 

一先ずそれに溜飲を下げた老爺は、またもため息。

 

「お前ら、旅は急ぎか?」

「そんなことはねぇが…」

「なら決まりだ。そこのクソガキを稽古につけてやる。しょうもない演技がもっと効果的になるよう、地力を伸ばすためにな」

 

にちゃぁ、と嗤う老爺。

稽古ついでにぼこぼこにしてやるという魂胆を隠しもしない。

にたぁ、と笑い返すクレア。

最後に笑うのは私だと言わんばかりの笑み。

 

殺る気に溢れる二人を見て、老婆も楽しそうに口を開く。

 

「ならあたしがルサルナとウルを鍛えてやろうかね」

「えぇ!?そんな…いいんですか?」

「わたしもいいの?」

「勿論さ。あたしゃ厳しいよ?」

 

盛り上がるその様子に置いてけぼりになっている二人。

 

「たく…勝手に決めやがって」

「あ、あれ?ブルさん、私…私はどうすれば?」

「あ?あー…爺さんにぼこられるか、俺にぼこられるか…」

「選択肢!?…あ、あはっ、そうだ私は料理の腕前でも…ほらあの、旅の途中美味しいもの食べたいですよね…?」

 

問いかけに提示されたものは、どちらにしても碌なものではない。

アメリアは顔を引き攣らせ、消極的逃避に走った。

 

強くはなりたいが、意味があるか分からない暴力には晒されたくないものである。

 

「金髪の小娘!お前も儂が鍛えてやるわ!」

「は、はいぃ!」

「くくっ…精々甚振られてこい」

 

が、逃避はクレアの逃走と同じく、瞬く間に終わった。

アメリアは思わず、老爺の言葉にきれいな‘気を付け’の姿勢で返答した。

 

ブルはなんとも楽しそうな顔になっている。

老爺はそんなブルにも鋭い目を向ける。

 

「小僧、勿論お前もだ。今度は逃げられると思うなよ?」

「へぇ…それは何だ、体も出来てねぇガキの頃のこと言ってんのか?今すぐ棺桶にぶち込んでやってもいいんだぜ?こっちはよぉ…!」

 

一瞬でばっちばちの臨戦態勢である。

両拳を打ち付けるブルに、笑いながら首を掻っ切る仕草をする老爺。

 

今にも因縁の対決が始まろうとしたとき、間抜けた音が鳴った。

 

「あ…ご、ごめんなさい…さっきウルちゃんにあげてばかりだったから…」

 

間抜けた音、それはアメリアの腹の音。

顔を真っ赤にして控えめに手を挙げるその姿に、ブルも老爺も気が削がれた。

 

「…そういや飯の途中だったな。どっかの死に損ないのせいで」

「どっかの弱虫が連れたクソガキのせいでな」

「お爺ちゃん、無理矢理引きずってったの忘れちゃった?ぼけちゃったの?」

 

一瞬の沈黙。

 

「老いぼれが…!」

「クソガキ共…!」

「クソジジイめ…!」

「そこまで」

 

またもばっちばちに火花が飛んだ瞬間、老婆の声が響く。

響いた途端に三人纏めて落ちるほどの穴が空き、落ちた後には水の玉。

 

逃げようのないそれに、三人は仲良く濡れ鼠となった。

 

雫を垂らしながら、穴の底で黙り込む三人に声がかかる。

 

「頭、冷えたかい?」

「うす…」

「あぁ…」

「はぁい…」

「ならさっさと着替えて、冷え切った飯でも食らってきな!」

「うす…」

「あぁ…」

「はぁい…」

 

ぽたぽたと雫を垂らし、のそのそと穴から這い出る姿は敗者のそれ。

 

ブル達の中でルサルナが強いように、老婆と老爺では老婆が強かった。

そしてそれは、この場にいる誰よりも強いことを示していた。

 

ウルとルサルナはきらきらした目で老婆を見て、アメリアは空腹を忘れるほどの戦慄とともに三人を見送った。

 

 

 

「…あんたも行きな?」

「え、あ!はいぃ!いただいてきます!」

 

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