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すごく伸びて正直少しばかり怖くなってます…。
「魔力とは生命の力であり、それを操る術を魔法という」
こつこつと、静かな空間に足音が響く。
足音の主の視線の先には、形を変えながら浮かぶ火と氷。
火はルサルナとクレア、氷はウルから生み出されているものだ。
見事な鹿型の火が宙を駆け、それを何やら名状し難い形の火が追いかけるように蠢いており、人型の氷が立っている。
「魔法を扱う上で大事な要素は四つ。感知、操作、放出…それから具現化さね」
「だいじなのはさいしょのみっつだってるぅねぇが…」
「うっ…」
「こらそこっ!集中を乱すんじゃないよ」
ぼそりとウルが呟いた途端、鹿の姿が崩れる。
過去に教えたことであるが、決してルサルナは間違ってはいない。
重視していた部分が違っただけである。
「他の三人を見てみな?良い集中力じゃないか」
老婆の言葉に三人を見やるルサルナ。
目を閉じ魔力を循環させているアメリア、なんか良く分からないものを生み出しているクレア、それから何故か一緒になって瞑想しているブルの姿。
「…ブルに関してはウルを見ているだけだと思いますよ」
じとりとした目でブルを見るルサルナ。
そんなルサルナの言葉に老爺が口を挟む。
「何?こんなお手本のような姿で…ん?」
三人を見渡し違和感を感じた老爺。
違和感の源は、ブル。
「んん…?」
じっくりとブルを観察する老爺。
半分だけ閉じられた瞼、仏のように柔らかな笑み、きれいに伸びた姿勢。
既に違和感しかないものの、瞑想だと思えばどれをとっても素晴らしいものである。
が、僅かに体と顔の向きがずれている。
その顔が向けられる先を辿っていくと、また集中し始めたウルの姿。
迷わず拳を振り下ろす老爺。
「…俺の悟りを邪魔しやがって」
「お前…それは迷いしか生まねぇぞ」
「ウルは迷子の俺を照らす光なんだ…」
「なんだお前…え、本当になんなんだ…?」
老爺は知らぬ間に狂信者のように成り果てているブルに戦慄している。
やっぱり、と言わんばかりのルサルナ。
「邪魔にならないし置いときな。それはもうそういうものだよ」
一方老婆はそういうものとして処理することにしたらしい。
触らぬ神に祟りなし、ということである。
「さてさて、それじゃ…」
気を取り直して続きをと考えた老婆の目に映るもの。
それはウルとクレアのじゃれ合いであった。
「つ、つよい…!」
「あは、全部溶かしてあげるね…」
ウルの人型がうねうねした火に巻き付かれ溶かされている。
さながら蛇の捕食を眺めているよう。
「いやまぁ良い鍛錬にはなるんだろうけどねぇ…」
そう口にしながら火の粉を一つだけ飛ばす老婆。
火の粉はふわりと舞っていく。
じゃれ合いの直上まで舞った火の粉はぱっと弾け、風呂敷のように変化しウルとクレアの魔法を包み込む。
「わっ!」
「うわ何!?」
驚く二人の前で風呂敷が小さく丸まり、消える。
呆然とする二人に声がかかる。
「魔法の構成が甘ければ、より強固に構成された魔法に掻き消される。つまりウル、ウルが教えられたことも間違っちゃいない。魔力を良く練り上げ、無駄なく放出して形作る。そしたら今みたいなことが出来るのさ」
「が、がんばる…」
「努力しまーす…」
老婆は微笑み、それからため息を吐く。
「あんたらにはさっきみたいなのが合ってるのかもしれないね。座学は…まぁ大丈夫か」
「つまり、儂の出番ってことか?」
「あんたぼこぼこにするだけじゃないか。この子ら同士でだよ。アメリアは…後で考えるとして、やるならブルとやってな」
老婆の言葉に一瞬しゅんとする老爺だったが、最後の言葉ににやりと笑った。
「なるほど、久々に揉んでやるとするか…なぁ小僧?」
少しばかりの煽りを含み、ブルに声をかける老爺。
しかし一つ、老爺には忘れていることがあった。
「まだだ…俺はまだ迷子…」
「駄目じゃねぇか」
ブルの理性が未だ迷子なことであった。
この迷子の案内人はウルただ一人。
ただしウルを寄越したところで理性が帰ってくるとは限らないが。
老爺の鬱憤をよそに、少しばかり形を変えつつ稽古は続いていく。
∇
「にぃのむかしばなし…きいてない」
「そう言えばそうね。ブルはあんまり覚えてないとか言って教えてくれないから」
てんやわんやの稽古も、美味しい夕食も終えた後、ウルがふと呟いた。
教えてくれるはずだったが、何かしらどたばたしていたためにまだ何も聞かされていなかったのだ。
ルサルナがちくちくと言葉の棘を飛ばしている。
「そうだねぇ…とは言っても、あたしらも詳しい訳じゃあない。取り付く島もないやんちゃだったからね」
「野生の獣みたいなクソガキだったな」
当時相当手を焼いたのか、遠い目をする老人達。
その様子を見て、そっとウルを抱えたクレアが口を開く。
「今と大して変わんないじゃん」
「クレア、ちょっと話でもしようか」
「ウル盾!」
「てめぇ卑怯な…!」
「にぃじゃましないでね?」
「しないゾ」
ブルが立ち上がるも、盾のように掲げられたウルの前に手が出せず、そのままウルの一言にて静かに座り直した。
策略家クレアの一時的勝利である。
話が終わればどうなるかは分からない。
「あまりに暴れすぎて儂らに話がきたんだったな」
「一応人に襲いかかることはなかったけど、大人しくさせてほしいってね」
大人しくなってこれかと、ルサルナは思っている。
大人しくさせるほどの実力があることに、クレアとアメリアは感心している。
「おばあちゃんもおじいちゃんも…にぃよりつよいの…?」
「ふふ、安心しな?二人がかりだよ」
「ま、儂は一人でもぼこぼこに出来たがな」
「あんたもあたしも最初のうちだけじゃないか」
「あの、ブルは確かに強いですけど…昔でもあなた方が二人がかりに成る程なんですか?」
ルサルナは老人達の会話に疑問を持った。
昔でも恐らく、体力や純粋な力であればブルが上だろう。
しかしながら技術面であれば老人達に軍配が上がり、総合的な実力も格上となるはずである。
「そりゃ簡単な話さね。単純にブルが弱くなってるだけさ」
「情報を集めた上での推測だがな」
「ブルさんが…?」
その言葉を聞いたアメリアの脳裏に過るブルの戦闘風景。
見上げるほどの魔獣を嬲る姿や投石一つで魔獣を屠る姿。
決闘で対峙した際など死が人の形を模したのかと思うほどの格の差が合った。
「ああ、まぁ今でもそこそこ強いか…?」
「そりゃあ“虎”を一蹴するくらいだからね」
「しかしあれは少しばかり弱すぎるだろう」
「異名を持つには充分さ」
弱くなったということが信じられない一行をよそに、老人達は話している。
ウルが関係ない話にそわそわしている。
「あぁすまないねぇ。つい話が脱線してしまう…」
そんなウルを見て老人達は思わず笑う。
「さて、それらも含めて話そうかね…そこのお馬鹿との昔話を」