なんかよくある話   作:天和

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長くなりそうですね…


続、昔話

 

 

「つづき…つづきがききたい…つづき…」

 

大好きなご飯も、いつも頑張っている勉強や訓練もなんだか上の空のウル。

話の途中でねんねしてしまい続きが気になってしょうがない様子。

 

これには老人達も困り顔。

 

「あぁもうしょうがないね。終わってからと思っていたけど、これじゃやっても仕方ない」

「休憩がてら続きを話すか…」

 

そんな老人達の言葉を耳聡く聞きつけたのはウルだけではない。

クレアとアメリアがささっとお菓子を並べだし、ルサルナはそそくさとお茶の用意。

 

ウルはきらきらした目で、早く早くと言うように席についてそわそわしている。

席は勿論、特等席であるブルの膝の上。

 

待ち侘びたと態度で示す一行にため息が止まらない。

 

「確か…埋めたところだったかね」

「そうだな。その後からか」

 

 

 

 

 

 

 

「小僧、獣と変わらんお前にも分かるよう、一つ良いことを教えてやろう」

「……」

「この世は弱肉強食だ。敗者が得られるものは、勝者の慈悲のみ。慈悲を得られた場合に限り、経験を得て強くなることが許される」

「強く…」

「そうだ。儂らはお前に慈悲をくれてやる。」

 

少年が老爺を見上げたまま口を開く。

あいも変わらず感情の感じ取れない声。

 

「分からん、お前は何を言ってんだ?誰にでも分かるように話せねぇのか?」

「なるほど、慈悲はいらんらしい」

「いや、あんたが悪い。無駄に格好つけて難しいこと言うからだよ」

 

少年の物言いに牢屋の額に青筋が浮かぶ。

感情は感じ取れないが恐らく馬鹿にしている。

生首の分際で良くやるものである。

 

老婆の言葉に深く息を吐き、心を鎮める老爺。

 

「言いたいことは色々あるが…まず、儂のことはせめて爺さんとでも呼べ」

「クソジジイ」

 

びきり。

これは老爺に追加の青筋が浮かぶ音。

間髪入れぬ少年に老爺の青筋が増えに増えていく。

 

「このクソガキぶん殴ってもいいよな?」

「どうどう…この年頃は生意気なくらいが普通さね」

 

老婆は笑いを噛み殺しながら老爺を宥めている。

宥めつつ、今にも殴りつけそうな老爺の前に出て、少年へ優しく声をかけた。

 

「親はいないのかい?」

「知らん」

「名前は?」

「ない」

「そうか…名前が欲しいとは思わないのかい?」

「俺は俺だ。名前なんかいらねぇ」

 

取り付く島もない様子である。

 

親も名前も、恐らく仲間などもおらず、悪魔などと呼ばれるこの少年は、このまま何もかもを突っぱねて孤独に生きていくのだろうかと老婆は思う。

 

いやまぁ生きていくのだろう。

そのうち言葉もなくして獣に成り果て、その界隈の王者に君臨しそうである。

 

ひれ伏す獣達の前で雄叫びを上げている姿が見ているように想像できる。

 

「…あたしゃ決めたよ」

「引き取るつもりか?これを」

「文句あるかい?」

「いや、面白そうだ」

「決まりだね」

 

にぃっと、なんだか悪い顔で笑い合う二人。

少年は変わらず無表情で老人達を見上げている。

 

「暴れん坊、今からあたし達が親になる。いいね?」

「負けたお前に拒否権はないぞ」

 

意地悪な笑みを浮かべたまま少年へ声をかける老人達。

対する少年は無表情のままに口を開いた。

 

「皺くちゃのジジババが親とか何言ってんだ?皺を伸ばして出直して……」

 

とぷん、と言い終わる前に地の下へ消える少年。

下手人は老爺の倍ほど青筋を浮かべた老婆である。

 

「おぉい!?言ったそばからそれは洒落にならんぞ!?」

「これは躾だよ」

 

自分でなければ笑い話だが、自分のこととなるとそうはならない。

特に年齢や容姿ともなると人によっては逆鱗である。

 

下手な口を聞けぬよう、上下関係を刻み込みにかかる老婆。

躾と称しているが、生死は問わないと言わんばかり。

 

沈んだ少年を慌てて掘り出す老爺をよそに、老婆はとても良い笑顔であった。

 

 

 

 

 

 

 

ウルがブルの膝からぴょんと飛び降りる。

飛び降りて真っ先に行うのは、ブルの足がちゃんと先まで全部あるのか確認すること。

 

今しがたその上に座っていて、しかも毎日見ているはずなのだが、それはそれ。

 

「にぃ…ちゃんとあしある…」

 

ぺたぺたとブルの足を触るウル。

ほっと息をつくウルに、なんだか悪い顔のクレアがぼそりと呟く。

 

「お化けじゃなくて…もしかしたら死体が動いてるのかも…?」

「あわわ…た、たいへん…!」

 

目に見えてあわあわし始めるウルをブルが片手で優しく撫でる。

もう片方はクレアの顔を鷲掴みにしながら。

 

「痛い痛い!割れちゃう!!黄金比の顔が!!」

「よーしよし…俺はちゃんと生きてるからなー」

「聞いてよぉ!!」

 

あわあわばたばたと慌ただしい三人をルサルナは呆れて見ている。

 

まだ落ち着きがあるのはアメリアだけ。

そんなことを考え、やれやれとため息をついたルサルナがアメリアに話しかける。

 

「クレアも懲りないわよね。ねぇリア…リア?」

「………」

「嘘でしょ…失神してる…」

 

放っておけば、すぐに騙され借金を背負わされそうなほど素直な少女である。

クレアの言葉を真に受けたのか、アメリアは白目を剥いて失神していた。

 

「聞きたい聞きたいとせがむのに、これじゃ全く話が進まないじゃないか」

「落ち着きってもんがなさすぎるな」

「多分、話し始めたら嫌でも落ち着くと思います…。この子には後で話しますから…」

「そうするかね」

「聞かなかった方が悪いってことだな」

 

事あるごとに中断する話に、老人達も少しばかり頭が痛い様子。

そんな二人にルサルナが気を遣い、それに乗った老人達は構わず続きを話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

なんとか息のあるうちに少年を掘り出し、老人達は帰路へ着く。

 

そこから少しの間、二人は忙しない日々を送った。

少年を欲しがる輩が思いの外多かったのだ。

 

積まれた金を蹴り飛ばし、奪おうとする不埒者を文字通り埋めてやり、少年は自分達が保護すると力を持って示した。

 

そうすると元々有名な二人のこと。

手を出す者は瞬く間に減っていき、遂に諦め様子を見るだけとなっていった。

 

ようやく落ち着いたと思うのも束の間。

お次は少年のことである。

 

少年は老人達が慌ただしくしている間、不気味な程に大人しかった。

ただじぃっと、二人がやることを眺めていたのだった。

 

そして、老人達の問題が粗方片付いた頃、少年が動き出した。

 

 

「ジジイ、手が空いたなら勝負だ。俺は強くなっていいんだろう?」

 

少年の鳴りを潜めていた暴力性が前面に出る。

粗末な武器もなく、ただの素手であるのに、明らかに以前より恐ろしい。

 

「くっ、くくっ…受けてやる、小僧。儂が勝ったら暫く勉強漬けにしてやるからな」

 

少年は老爺の言葉に反応せず、脱力し、ただじっと老爺を見ている。

 

徹底した見の構えである。

少年は老人達が慌ただしくしている間考えていたのだ。

 

老爺と戦った時、振り回した武器があらぬ方向へ流れたのは何故か。

尋常ではない重い拳打を放てるのは何故か。

気づけば地面に叩きつけられたあの動きは何なのか。

 

少年には何一つとして分からなかった。

 

だから見る。見て、学ぶ。

 

少年が大人しくしていたように見えたのは、老人達の一挙手一投足を観察していた為だったのだ。

 

動かない少年を老爺が面白そうに見ている。

 

「なるほどなるほど…その姿勢、好ましい。が、簡単に盗めると思うなよ」

 

少年と老爺の距離、凡そ十歩。

その距離を詰めることなく、老爺は腰を落とし、拳を引く。

 

観察する少年もなんだか訝しげに見える。

 

「小僧、また一つ良いことを教えてやろう」

「……」

「ある程度戦える者にとってこの距離はな…射程内、だ!」

「っ!」

 

勢い良く突き出される老爺の拳に、ぞわりとした感覚が少年を襲う。

その感覚に従って横っ飛びに動こうとした少年だが、見に徹っしていたせいか回避が遅れる。

 

目に見えない‘何か’が少年に直撃する。

以前に受けた拳撃よりも遥かに重い‘何か’。

 

体制を崩す少年は老爺が二発目を放つ姿を捉えている。

だが、それを回避することは叶わない。

 

またも腹にめり込む‘何か’。

少年は全身に力を込めて耐え忍ぶ。

 

だが、それは悪手だと言うように間髪入れず三、四、五と続き、堪らず少年が膝をつく。

 

ごぼっ、と嘔吐する少年を見て、老爺は構えを解いた。

 

「小僧、これが魔法というものよ。少しばかり距離を取ったところで油断はするな。例え魔法でなくとも、飛び道具なんぞ山程ある」

「まだ終わってねぇ…」

「今日はこれで終いだ。並の奴なら死なずとも暫く飯は食えんようなのをぶち込んだんだ。ちゃんと飯が食えるまで手合わせはなし。代わりに机に齧りつかせて常識を叩き込んでやるから覚悟しておけ」

 

 

 

 

 

 

 

その後の食事にて。

 

「おかわりだクソジジイ、クソババア…!」

「こいつやべぇよ」

「骨の何本かヤッた方がいいのかもねぇ…」

 

老人達の心は一つ。

 

思ったよりなんかやべぇの拾っちまったな、と。

 

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