なんかよくある話   作:天和

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誰にでも怖いものはある話

 

「ぅおらぁ!」

 

最近少年は手合わせの際に声を張り上げる。

心の奥底に生まれた、恐れを誤魔化すように。

 

ただ、恐れが生まれたからといって弱くなったということはない。

恐れに対抗するためか、強さを求める姿勢が強くなり、より動きが洗練され戦闘力は増す一方である。

 

「ぐっ…この馬鹿力めが…!」

 

少年の猛攻を受け流す老爺の腕に、鈍い痛みが積み重なる。

 

老人達が少年を保護し、三月ほど。

痩せた獣のような少年は、もういない。

 

いるのはがっしりとした体格の修羅である。

 

凄まじい筋力、規格外の耐久力、尋常ではない速力。

そして日を追うごとに磨かれていく技術力、底辺の上澄みほどにまで積み上げられた知力。

 

最後はちょっとアレなものだが、戦闘力に限れば青天井である。

 

 

隙をついた老爺の一撃が少年の腹に直撃する。

ざりざりと後方に滑っていく少年を見れば、如何に今の一撃が重いものなのか察せられるだろう。

 

だが、少年にとってその重みは慣れたもの。

ついでに追撃の魔法を食らっているが、表情に苦痛は見受けられず、動きも何一つ変わらない。

 

いや、なんだか閃いたような顔をしている。

心なしかなんだか誇らしげな表情にも見えないこともない。

 

「ジジイ、俺は良いことを思いついた」

 

そんなことを宣いつつ、足元の石を拾い上げる少年。

既に何をしようとしているのかは明らかである。

 

「投げればいいんだ。なんか固いやつをいっぱい。これならそこらに落ちてるからな」

「色々教えた成果が…それなのか…」

 

少年が今まさに行おうとしていること、それは投石。

人の持ち得る戦い方の中で、最も原始的な攻撃方法である。

 

色んな事を教えた結果、最古の攻撃方法に辿り着いた事をどや顔で誇る姿に、堪らず涙が零れそうになる老爺。

 

しかし侮ることなかれ。

人と言うのは元々、卓越した知能と投擲能力によって生き延びてきた生物である。

そこらの町民が行う投石であろうとも、そこそこの殺傷力を誇るのだ。

 

それを化け物じみた少年の筋力で行うとなると、どうなるか。

 

超高速、超高威力、超長射程かつ、連射もできる。

弓矢と違い、弾切れも望み薄。

 

 

つまり、最古でありながら最適解なのだ。

 

 

少年がぐっと力を込め、石を握る。

拳ほどの石が砕け、無数の弾丸へと生まれ変わる。

 

点での制圧ではなく、面での制圧。

学習するものに偏りが感じられるが、お勉強の成果はしっかりと出ているらしい。

 

「うぉお!?これは洒落にならんぞ!?」

 

そんなものを少年は遠慮なくばら撒いた。

老爺は躱し弾いて凌ぐものの、あまりの威力と物量に前へ出れず防戦一方となる。

 

初めて優位に立ち、気分が良くなった少年はそれはもう盛大にばら撒いた。

ばら撒いた一部が、これまた盛大に家に穴を空けていることを知らずに。

 

鬼も裸足で逃げ出すような形相の老婆が家から出てくる。

その視線は笑みを浮かべる少年を捉えている。

 

当然弾丸の一部が老婆に襲いかかっているが、不自然に軌道が逸れて当たることはない。

 

ぼそりと、老婆が何かを呟く。

 

それが聞こえた訳ではないだろうが、ふと少年の頭に過る、途方もなく嫌な予感。

咄嗟に飛び退いた少年を掠めるように土柱が立ち上がる。

 

躱した、そう思った少年の足が何かに引っ掛かる。

 

姿勢を崩し、地に転がる少年。

転がりながらもその目は、いつの間にか盛り上がった地面と、恐ろしい形相の老婆を捉えていた。

 

少年は体制を整え、間髪入れずに駆け出した。

初速で既に影すら置き去りにしそうな速度。

 

ただし老婆に背を向けて、だが。

 

 

「逃げんじゃないよこの悪ガキめ!!」

 

逃げるが勝ち、と言わんばかりの迷いない逃走。

恐れを知った少年は、命あっての物種と言うことをしっかりと学んでいた。

 

しかし悲しきかな。

いかに少年と言おうとも、小細工なしに愚直に走るだけで逃げられるほど甘くはない。

 

少年がまた姿勢を崩す。

今度は踏み込んだ足が沈み込んだのだ。

 

倒れ込んでいく少年を迎え撃つように土柱が生える。

自らの勢いがあるとはいえ、悶絶するような衝撃が少年を空へ打ち上げる。

 

それに合わせて、老婆が指揮者のように腕を動かしていく。

 

そうすると打ち上げられた少年の軌道が、殴りつけられたように直角に折れ曲がる。

 

老婆による風の砲弾である。

 

勿論一発では終わらない。

上下も、左右も、勿論前後からも襲い来る砲弾。

 

地面へ降り立つことも許されずに弄ばれ、悲鳴を上げる少年。

良い音色を奏でるじゃないか、とでも言うように小気味よく腕を振り続ける老婆。

 

もしこの演奏に銘打つとすれば、悪夢だとか地獄だとか、そんな感じの碌でもないものになるだろう。

 

 

少年の有り余る耐久力のせいで、この演奏は暫く続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、つまらないものですが…」

 

老婆の前に、そろりとお菓子が差し出される。

差し出したウルは、これまたそろりと距離を取る。

 

あまりの所業にちょっと怖くなってしまったのだ。

老爺も大概だが、生き埋めにしたり楽器にしたりとやることが恐ろしいのは老婆である。

 

既にクレアとアメリアは、老婆から一番離れた席についている。

そろそろりと、ウルが二人の間に挟まっていく。

 

「ありがとうねぇ。これはお礼だよ」

 

にこりと笑った老婆が指先にきらきらとしたものを生み出し、三人へ飛ばす。

 

小さくきらきらしたそれは、傍目には蛍のようにきれいなものだ。

だが残念なことに、きらきらしたものはよくよく見れば火の粉である。

 

ただの火の粉と侮ることなかれ。

老婆の火の粉は業火と同じである。

 

「がっきにされちゃう!?」

「燃やすなんてお兄さんのより悪質じゃん!!」

「ひゃあぁ!?使い捨てなんてやだよぉ!!」

 

わぁきゃぁと蜘蛛の子を散らすように逃げ出す三人。

そんな姿を大人組はほっこりとして眺めている。

 

「そういえば、ブルって投擲は一つずつよね。もしかしてお仕置きされたから止めちゃったの?……ブル?」

 

必死に火の粉から逃げ回る三人を眺めながら、ルサルナがブルに話しかけるも反応がない。

 

「し、失神してる…」

 

不思議に思ったルサルナがブルを見ると、眠るように意識を失っているブルの姿があった。

 

ものすごく冷や汗をかいていたことが見て取れる。

昔話は、奥底に眠っていた心的外傷を掘り起こしてしまったらしい。

 

少しばかり驚くも手早く汗を拭き、毛布をかけるルサルナ。

 

この程度の突発的な出来事には耐性がついている。

実際に血涙を流し苦しむ姿に比べれば可愛いものだから。

 

 

それが終われば後は眺めるだけ。

 

今日も今日とて騒がしい光景に、ルサルナは笑みを零している。

 

 

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