なんかよくある話   作:天和

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新しいことの話

 

「アメリア、今日使う武器は…これだよ」

 

なんとなく勿体ぶって差し出された物をアメリアが受け取る。

その顔はなんだか困惑している。

 

面白そうな予感を嗅ぎ取り、ちょろちょろと集まるウル達(やじうま)

 

「え、これが?」

「なにこれだっさっ…」

「へんなの…」

 

上からアメリア、クレア、ウルの発言である。

言葉にはしていないがブルとルサルナも怪訝な表情。

 

それぞれが変な反応を示す原因は、アメリアの手に収まったとある物である。

 

「そいつは…言うなれば魔剣。未だかつてない、新世代の剣。アメリア、あんた専用のだ」

「わ、私専用…?」

「しんせだい…せんよう…!」

「とりあえず使ってみろ、いつものようにな」

 

急にきらきらした目を向けてくるウルを置いといて、アメリアは手元にある‘それ’を見る。

 

柄はやや長く、お椀のような鍔があり…刀身がない。

 

本来刀身があるべき場所には、お椀に収まるようにやんわりと尖った握り拳ほどの石っぽい何かが付いている。

 

装飾もなく、柄には丈夫そうな皮が巻かれただけの良く分からない代物であった。

 

クレアがなんだか小馬鹿にしたような目で見ている。

 

「えっ…え?」

「使いな」

「はよ使え」

「えぇ…?」

 

困惑するアメリアに掛かる圧。

老人達だけでなく、ウルの視線も早く使えと言わんばかりである。

 

使う以外に道はない。

しかし感じる、そこはかとない不安。

いつも使うのは雷だが、なんとなく大変なことになりそうな気がしたのだ。

 

なのでとりあえず安全そうな風の魔法を使うことに。

 

お腹の前で構え、嫌な予感から練り上げる魔力もそこそこ、出力は半分程度にして。

 

「ひゃあ!?」

 

発動した瞬間、石っぽい何かの先から放出される凄まじい風。

勿論風の方向と逆に魔剣は押し出される。

半分程度の出力だし…などと考えていたアメリアはその勢いを抑えられない。

 

「ふぐぇ…!」

 

結果、魔剣はアメリアのしなやかなお腹に直撃。

魔剣の勢いは衰えず、蛙が潰されたような悲鳴とともにアメリアは飛んでいった。

 

 

敗因は筋力不足、ではなくただの油断であった。

 

空を隠すような巨木の下、吹っ飛んでいくアメリアに追いつくように、クレアの大笑いだけが響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もし殴り合いだったなら、あたしゃとうに地に伏せているだろう。なんせか弱い乙女だからね」

 

杖をつき、ゆっくりと老婆は歩く。

その目の前には土で作られた大きな十字架が佇んでいる。

 

「だからあたしは一から十まで魔法を使うのさ。手足を動かすより早く魔法が出るほどに。あたしほど魔法に身を漬け込んだ奴はいないと断言できるね」

 

見上げるほどに大きな十字架の先には、磔にされた少年。

見た感じ意識は既にない。

 

「どれだけ屈強な戦士でも、どれだけデカい魔獣だろうと…近接戦闘に頼ってる奴なら、あたしにゃ鴨が葱を背負ってるようなもんさ」

 

そんなことを気にせず老婆は話し続ける。

 

今回の躾は済んだのだ。

後は自己満足の語りだけ。

 

「勝つつもりならあたしが反応出来ないほどの速度か、もしくは奇策を用意するんだね」

 

 

どうしてこうなったのか。

それはとても簡単なことである。

 

手合わせとはいえ老爺を破った少年は、勢いのままに老婆にも喧嘩を売った。

 

なんだかいける気がしたのだ。

あれだけ強い老爺を破り、気分が高揚した少年は全能感や無敵感にどっぷりと浸っていた。

 

その勢いのまま老婆を呼び付け、これまた勢いのままに突撃し、そしてもういっそ見事なまでにぼこぼこにされたのだ。

 

伸びに伸びた鼻は折られるどころか引っこ抜かれている。

そんな少年に追い打ちをかけるように、ぽつりぽつりと雨が振り始める。

 

空を見上げた老婆が踵を返す。

 

「さて、調子に乗った報いだ。暫くそこで頭を冷やしときな」

 

老婆の言葉に、勿論返事などない。

酷いと思うかもしれないが、これは喧嘩を売った少年に非がある。

 

全能感に支配された少年は皺くちゃだとか、老いぼれだとか、ババアだとか宣い喧嘩を売ったのだ。

そんなふうにして売られた喧嘩を、老婆はにこにこと笑って買い占めた。

 

完売御礼である。

再入荷はぼこぼこにされた少年の心の持ちようによる。

 

 

 

 

 

 

 

「そーいえば、お兄さんっていくつなの?婆ちゃん達に会ったのが今の私と同じくらい?」

「あ?…まぁそうじゃねぇか?」

 

年齢不明の男、ブル。

何気ないクレアの言葉に雑に返している。

 

人は寿命であれ病気であれ、いつかは死ぬ。

であればわざわざ数える必要などないと考えているのだ。

 

 

「え、じゃあおじさんじゃん」

 

これまたなかなかに失礼なことを言うクレア。

ちなみに年齢不明である。

 

「ならお前は…ふっ…幼子だな」

「おいどこ見て笑った?どこ見て判断した?」

 

それを何をやってるんだと眺めるルサルナ。

こちらは年齢不詳。

 

そしてルサルナの隣から、じゃれ始める年齢不明同士に近づく小さな影。

年齢不明の幼子、ウルである。

 

おずおずと近づいてきたウルが口を開く。

 

「にぃは…にぃじゃなくておじさんだったの…?」

「なっ…ぁ、え?いや俺、俺は…」

「あははは!!」

 

ウルからの口撃に半端ではない動揺を見せるブル。

隣で笑い転げるクレアを気にする余裕すらない。

 

おろおろわたわたと動揺したブルはやがて動きを止め、その場で静かに横になった。

脳があまりの負荷に耐えられなくなったのだ。

 

あまりに酷い仕打ちにルサルナと老爺は黙祷を捧げている。

 

あわあわしているウルはとりあえず毛布をブルにかけている。

おろおろするアメリアがとりあえず枕を持ってきている。

 

そんな姿を見てクレアと老婆が腹を抱えて笑っている。

 

 

若干一名ほど犠牲になってはいるが…今日も一行には笑顔が咲いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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