昨日と同じ拓けた場所に三人。早く早く、とウルの目は言っている。微笑ましい。
「じゃあ、始めましょうか。」
「ん…!」
小さな握りこぶし。ウルは気合満々。
「まずは説明からね。」
「…ん」
ルサルナは言う。
へなっ…と解かれる握りこぶし。空振る気合。
「ふふっ、そう焦らないの。今から魔法を使うために必要なことを教えます。いい?」
コクコクと頷くウル。気合再充填。
「よろしい。魔法を使うためには大きく分けて、自覚、操作、放出の三つが必要になります。自覚は昨日できた魔力を自分で感じられること。ウルちゃんはこれから操作と放出、つまり自分で魔力を動かすことと、動かした魔力を自分の外に出すっていうことを練習してもらいます。」
分かる?とルサルナ。若干頷く勢いが弱くなっているウル。
「ふふっ、まずは一つずつ。ウルちゃん、自分の魔力はどう感じる?」
「んと、ここから…こんなふうに…ふわってながれてる?」
ウルは拙いながら身振り手振り説明する。
うむ、可愛い。石像のように静かなブルは思っている。
「うん、良く分かっているわ。それじゃあ、その流れてる魔力に集中して、手の先に集まるように動かせるかな?」
んー?とウル。手を前に突き出すようにして唸る。
“ちゃんとできているかなっと”
ルサルナは魔力を目に集中させる。
こうすることで観る力を強化し、魔力そのものを見ることが出来る。
“徐々にだけど動いているわね。直感が良いのね。それだけじゃない気もするけど。”
「んぅ?…できてる?こんなかんじ?」
「そう、上手よ、しっかり出来ているわ…そしたら、次は目の方に集めてみて?」
め?め…とうにうに言いながら実行するウル。
その可愛さに石像のようなものはにこにことしている。
この男、ウルに関して一切飽きる様子がない。
「ん…ぅん?ぁ…ぉお?」
うにゃうにゃ言うウルの様子が変わる。
「ふわぁ…なにこれ!…あ」
一気に興奮した様子のウル。ブルとルサルナの方を見てはしゃぐ。集中が切れたのか集まった魔力が霧散する。魔力が見えなくなり残念そうな様子。
「ふふっ、最後は残念だったわね。今ウルちゃんが見えていたのは魔力よ。どんなふうに見えたかしら?」
「あのね、ここがいちばんきらきらしてて、それがふわってまわりにひろがってた!」
おねぇちゃんはめもきらきらしてた!とウル。言葉が止まらない。微笑ましそうにルサルナ。
こんなにしっかり喋れるようになって…とズレた感動のブル。
「すごいわ、とっても。ウルちゃんは魔法の素質が高いのね。」
優しく撫でるルサルナ。実際、すごい。本来であれば、自覚も操作もそれぞれ数日はかかる。それを一日と、たったの数十分でやったウルは間違いなく魔法の才がある。
「じゃあウルちゃん、さっきみたいに目に魔力を集めてみて。」
「ん…んぅぅ…」
「できた?もうコツを掴んだのかしら。やっぱりすごいわね…今からやることを良く観てて?」
ウルは観ていた。ルサルナが掲げた手にゆっくりと集まる魔力を。集まった魔力がじわりと手の外に漏れ出し、何かを形作っていく様子を。
それがぐっと収縮するように動いた瞬間、ルサルナの掲げた手の先には拳ほどの火が揺らめいていた。
「すごい…」
「ウルちゃんにも出来るわ。魔力を外に出す感覚は人それぞれだけど、例えばここに火が欲しい、ここに火が出ろって強く想像してあげたりすると良いかもね。」
ルサルナは一度火を消し去り、胸の前に両手を掲げる。
この両手の上ね、と言いながら新しく火を生み出す。
「最初はなかなか難しいけど、大事なのは想像力。強く思うことよ。もし、火が想像しにくいのなら、水だったり、光とかも良いわね。さぁ、やってみましょうか?」
「ん、がんばる…」
首を傾げ、頭を抱え、うんうん唸るウル。
私はここまででウルちゃんの十倍は苦労したなぁ、と思い返すルサルナ。
ブルは上手くいくよう何かに祈っている。
なかなか上手くできず、気分転換におやつを食べたり、ルサルナが色んなお手本を見せたり、ブルがぬっと現れた魔獣を消し飛ばしたりした。
そうして暫く。
「あ…」
思わず呟くウルの手の先には、小さな火が現れていた。
「にぃ!にぃみて!やった!できた!」
うちの子は稀代の天才で何よりも尊い、と思うブル。
視線の先では、はしゃいだために火が消えてしょんぼりとするウル。
「しっかり観てたぞ!ウルはすごい、最高だ!」
「わぁ!」
飛びつくように抱き上げ、頬ずりし、わっしゃわっしゃと撫でまわす。通常の3割増し。
んぇぇ、と声を漏らしながら嬉しさを隠しきれないウル。尊い。
ドン引くルサルナ。
「あー、うん。こほん。すごいわ、ウルちゃん。今の感覚を思い出して、何回か繰り返してみましょう?」
ドン引きながらも、仕事を果たすルサルナ。しっしとブルを追い払う。
成功から気合が限界突破したウル。鼻息荒く握りこぶし。
そんなぁ…と聞こえてきそうな顔のブル。
「さぁ、どんどんやっていきましょう?」
「ん!」
気合の入ったウルは、途轍もない集中力で取り組んでいた。
そして帰り際、案の定ウルは寝てしまっていた。
ブルの背中でよだれを垂らしている。
ルサルナには暫く頼みたいと伝えている。ルサルナも覚えがいいウルを気に入ったのか快く了承していた。
「にぃ…おてつだぃ」
背中から声が聞こえる。寝言のようだ。穏やかな寝息。
ウルの存在を讃える組織を立ち上げようか、と悩むブル。色々と悪化している。
うにゃうにゃ寝言を発するウルの温もりを感じながら、夜空を見上げる。
今日もよく寝れそうだ。