なんかよくある話   作:天和

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今の話

 

勢い余った少年が転がってくる。

ここ最近であまりに見慣れた光景である。

 

それを眺める老人達にはもう呆れすらない。

そうしていつものように立ち上がる少年だが、いつもとはなんだか違う雰囲気。

 

「なるほど掴んだ。今の俺は五歩が限界…六歩目は安定せず、方向転換はなんとか一度。つまり四歩駆けて、五歩目に踏み込みぶん殴って止まる。これを繰り返せばいい訳だ」

 

何度も魔獣を轢き殺し、たまに老人達を轢き逃げしていた少年が、ようやく止まることを学んだらしい。

 

「なんだいあの子…急に頭の良さそうなこと言い出したよ」

「いや騙されるな、中身はぺらっぺらだ。しかもたったあれだけのことに何百と繰り返してようやく辿り着いた。思考力が低いにも程がある」

「大丈夫、皮肉だよ」

 

老人達はぼろくそに言っている。

手合わせの際は二人がかりといえども少年が速すぎて受けに回らざるを得ず、結果、大抵老爺が轢き逃げに遭っていた。

 

老婆もその余波を受けることもあり、鬱憤が溜まっていたのだ。

そんな二人を気にもせず少年は浅い考えに没頭していた。

 

「後は回数を熟し、染み込ませるのみ。と、なると……少しばかりこの辺りの魔獣を根絶やしにしてくる」

 

言うな否や風となった少年は二人の前から姿を消した。

口を開く隙もない圧倒的な速さ。

 

老人達は呆然とその方向を見つめ、ぼそりと呟いた。

 

「…あの子、帰り道分かるのかね」

「いや流石に…流石に……無理か…?」

「…仕方ない。この辺りとか言っていたし多分帰れるだろうさ」

「あぁ、まぁ…そうだな」

 

ちらちらりと少年が消えていった方向を振り返りながら家へ引っ込む二人。

その姿からは信のなさがこれでもかと溢れている。

 

そして一日経ち、二日も過ぎ、三日目になったとき老人達は確信した。

 

完全に迷子になったな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「迷子を確信したとき、あたしは思ったよ。あぁ…やったな、ってさ」

「儂も似たようなことを思った。解き放っちまったとな」

 

老人達の言葉に深い納得を得て頷く三人。

大きい順にルサルナ、アメリア、クレアの三人である。

 

大きさは勿論、身長の順である。

 

山か丘か、それとも平原なのか。

残念なことにそちらでも順番は変わらないが。

 

「おいかけなかったの?」

 

と、問いかけるのはウル。

まだ何もかもちみっこい幼子。

 

「勿論追いかけたさ。ただ…移動が速い上に無軌道なもんだから追いきれなかったんだよ」

「最初のうちは暴れた跡がよく残ってたんだが、何年か経ったらそれすらもほとんど無くなってな…情報も途絶えて追うのを止めた、ということだ」

「まぁちょっとしでかしたくらいで良かったよ。幾らか地形が変わったくらいだからね」

 

 

ちょっとの規模が大きすぎる。

 

そんなことを思ったクレアとアメリアだが、よくよく考えれば隣に座るルサルナにも出来るだろうと考え真顔になった。

 

真顔にさせた本人は、まぁその程度なら、というように頷いている。

 

 

「そういえばブルさんは探そうとしなかったんですか?お世話になってたのに」

「ふっ…もう忘れちまったな…俺は過去を振り返らないんだ」

 

全部気にしていたらきりがない。

そう諦めをつけ、ブルに話しかけるアメリア。

 

対するブルはどこか遠くを見て、無駄に格好つけている。

 

様になりそうな姿だが、体を震わせウルをしっかり抱き締めているために全部台無しだった。

 

 

言えない。

 

数日夢中になってから落ち着いて帰ろうと考えた時に、二人してぶち切れてたらと考えて、足が止まってしまったなんて。

 

 

あ、びびったんだ。

と、全員が理解した。

 

しかしそれをわざわざ口に出すほど大人げない一行ではない。

一人を除いて、だが。

 

「えー?なになに?もしかしてびびっちゃってたのぉ?お兄さん可愛いねぇ!」

 

によによとした口元を手で隠し、目をちょっと細めて、下から覗き込むようにかがんだクレア。

 

他の追随を許さぬ煽りっぷりである。

ブルも思わず震えが止まるほど。

 

「あれ?あれあれぇ?もしかして図星ですかぁ?あはっ、飴細工みたいな心なんだね!よしよしいる?あ、壊れやすそうだし、優しくしてあげるよ!」

 

なおも止まらぬ煽り。

度々物理的に分からされているのだが、ここ暫くブルが大人しかったために増長しているらしい。

 

ウルがルサルナの手招きに気付き、ブルの腕から抜け出していく。

 

真面目な顔して老爺が止めに入る。

 

「そこまでにしといてやれ。昔のことをあまり突っつく必要はないだろう?…あぁ、今もびびりなのは変わりないか」

 

いや違った。

ここぞとばかりに煽って手合わせする気満々であった。

 

老婆が天を仰いでいる。

ブルが俯いたまま立ち上がる。

 

「上等だ…最近体を動かしてなかったからな…」

「にぃ、ちょっとぷにってしてきてたから…」

 

表に出ろ、と言おうとしたブルに届く、ウルの声。

そんな馬鹿な、と思いつつも腹や足回りの確認をせずにはいられない。

 

そそくさと一通り確認し、ウルに確認するブル。

 

「ウル…そんなにぷにってしてたか?」

「うん。ほっぺたとか」

 

思わず頬に手をやるブル。

確かに少しばかり丸くなったと思わなくもない。

 

山程出される食事が原因だろうか。

それともウルに貢ぐためのお菓子を探し、時には自作して、都度味見をしていることだが原因だろうか。

 

視線を巡らすと、不思議なことに皆が視線を逸らしている。

 

「あー…その、ブル?私は少しくらい肉付きが良くてもいいと思うわよ…?」

「そ、そうですよ!ね、ウルちゃん!」

 

いたたまれない空気にルサルナとアメリアが口を開く。

しかしながらその発言こそ、太ったことを認める発言に他ならない。

 

なんとかしようとアメリアがウルにも声をかける。

が、アメリアはウルに対する理解が足りていなかった。

 

「…かちかちのほうがすき」

 

最後の一刺しであった。

そう、ウルはぷにぷによりもかちかちが好きなのだ。

それも発達した筋肉による、弾力のある硬さが。

 

ブルは堪らず立ち上がり、叫んだ。

 

 

 

「運動だおらぁ!!表出ろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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