なんかよくある話   作:天和

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運動する話

 

「運動だおらぁ!!表出ろ!!」

 

叫ぶだけ叫び、ブルがいの一番に外へと飛び出していく。

きらきらと光るものが宙に舞っているのは、何かの見間違いだろう。

 

悲しき背を見送る一行の中、クレアがぽつりと呟いた。

 

「放っといたら戻ってくるかな?」

「可哀そうとか思わないの…?人の心ある…?」

 

アメリアがなんとも言えない目でクレアを見る。

最近よく助けてもらっているために、アメリアはブルの味方寄りだった。

 

えー、だってお兄さんだしー。

などと言ってけらけら笑っているクレア。

 

時折人としての心を置き忘れる少女、クレア。

基本的に自らの楽しみを第一に考える腹黒少女であった。

 

なお、後先は考えていないことなど多々ある。

 

 

 

 

 

「ぅわ……わぁ…」

「あいた!ちょっと!手を離すならもっと優しく……わぁお」

 

ずりずりとクレアを引き摺り外に出たアメリアを待っていたのは、ちょっと理解したくない光景だった。

思わず引き摺るクレアを取り落とすほどに。

 

落とされたクレアも言葉が見当たらないらしい。

 

 

 

ふしゅぅぅ…ふしゅるるる…

 

極まった呼吸音、俯き加減の姿勢、みしみしと聞こえるほど握られた金棒。

 

並の金属では変形するほどの力で金棒を握る右腕は、見て分かるほどに筋肉が盛り上がっている。

 

服は腰回りを除き、耐えきれずにはち切れ、惜しげもなくその筋肉を晒している。

少しとはいえ肉を纏い、全体的に太くなったために膨張に耐えきれなかったのだろう。

 

 

ブル。

それは時に、人としての姿すら失ってしまう悲しき男の名。

 

 

「…あれに人の心、あると思う?」

「心はね…生き物皆にあるんだよ。きっとそう…」

「心がどうとかより、人かどうかって大事だと思わない?」

 

ちょっとした仕返しだろうか。

先程問われたものをアメリアに返すクレア。

 

問われたアメリアは目を閉じて微笑んでいる。

見た目も発言も聖女かと思うほどに清らかなものだが、実態は理解を拒んだ末に行き着いた逃避の姿である。

 

「そ、そんなことより案外お肉ついてないよね!運動なんて必要ないんじゃないかなぁ!?」

 

逃避し、選択するは説得。

既に巻き込まれたと確信したアメリアの精一杯の抵抗であった。

 

残念なことに、届く言葉はある幼子しか持っていないのだが。

 

アメリアの呼びかけに反応し、重々しい一歩が踏み出される。

筋肉の壁が、ゆっくりと迫ってくる。

 

「肉の塊じゃん。ほとんど筋肉だけど」

「こっちが肉塊になりそうなこと理解してる!?経験上巻き込まれるんだよ私が!!」

「あはっ、うけるね!」

「巻き込む側のくせにぃ…!」

 

ぴーぴー囀る間にも状況は進む。

一歩一歩、壁は着実に迫ってきている。

 

そんな中、いつの間にかウルが筋肉の壁をよじ登っていた。

背中に張り付いて目を閉じ、なにやら満足気な顔。

 

ほんの少し感触が変わってもブルはブル。

ウルにとって至高であることに変わりない。

 

アメリアはその姿に、地獄に垂らされた蜘蛛糸のような希望を見出した。

 

「ウルちゃん!ウルちゃん!!お願いブルさん止めて!!」

「むふぅー」

「駄目だ浸ってる!悦に!!」

 

アメリアは掴んだ糸が最初から切れていたことを悟った。

ルサルナがそっと、ウルを回収していく。

 

ウルが安全圏に移動したからか、ブルが金棒を振り回し始める。

振り回された金棒が地面を叩き、耕していく。

 

時折、うんどぉ…うんどぉ…と聞こえてくるのは、僅かに人間性が残っているからだろうか。

 

「く、クレア…逃げよ?このままじゃ耕されちゃう……クレア?」

 

後ずさりながら話しかけるも返答がない。

思わずクレアに視線を向けたアメリアの目の前には、なんか出来の悪いクレアっぽい案山子。

小馬鹿にしたような顔が、思わずぶん殴りたくなるような良い味を出している。

 

身代わりであった。

それは本人の代わりになるよう、本人に似せて作られる偽物のこと。

 

ちなみに、本物は音もなく駆け出している。

 

 

アメリアは真顔になった。

 

 

 

 

 

 

死ぬなら一緒なんだからぁあぁあ!!

ちょ!?こっち来ないで!!ひゃぁあ!?

 

「逃げる速度に合わせておる…あの見た目で理性があるというのか…?」

「理性なんて欠片もありそうにないけどねぇ…」

「身内には案外優しいですから…」

「そう。にぃやさしいもん。ふふん」

 

戦慄する老人達に擁護するルサルナ、それからここぞとばかりに自慢するウル。

あまりの愛らしさに、ついついその頭へ手が伸びていく三人。

 

心が洗われるような穏やかな光景である。

 

 

一方、人の醜さを表すような光景を生み出している二人は、というと。

 

「ここはさぁ!二手に別れるところじゃん!」

「そんなこと言ってさぁ!押し付けたくせに!」

「意図を察してよ!親友でしょ!」

「親友かと思ったら案山子だった私の気持ちも察してよ!!」

 

走って飛んで言い争ってとわちゃわちゃしていた。

速度を合わせられていることを理解しているのか、どことなく余裕を感じられる。

 

それを察したのかブルの速度が上がっていく。

 

「ちょ!?言い争ってる場合じゃない!…リア!?」

 

クレアは視界の端で、アメリアが魔剣を取り出したのを捉えた。

華麗に二度見を決めたクレアは察した。

 

 

飛ぶ気だ。私に全てを押し付けて。

 

 

「リア…私達、親友…だよね…?裏切らない…よね…?」

 

涙を湛え、声を震わせながらクレアが問う。

 

「親友と思った案山子はもう耕されちゃったよ」

 

返答は冷ややか、視線は極寒。

アメリアは走りながらも淀みなく魔力を練り上げている。

 

クレアの涙が一瞬で引っ込んでいく。

 

「元気でね、クレア…また逢う日まで…!」

 

魔剣から風が吹き荒れ、アメリアの体がふわりと浮かぶ。

着地に少々難があるものの、アメリアは飛行技術を概ね習得出来ていた。

 

後は加速、そうすれば安全圏に脱出出来る。

そんな甘い考えのアメリアに絡みつく魔の手。

 

「絶対逃がしてなるもんか…!!」

「わっ!ちょ…!んん!!」

 

クレアである。

クレアは完璧な身体制御のもと吹き荒れる風を潜り抜け、アメリアの背に飛びついた。

 

飛びつかれた衝撃で姿勢が崩れたアメリアを、自らの重心を移動させることで補助していく。

アメリアもアメリアで、土壇場で出力を調整し墜落を免れていく。

 

結果、紙一重であるが飛行に成功した二人はブルの間合いから逃れることになった。

 

「ちょっともう!落ちちゃうと思ったじゃない!」

「いいじゃん!ほら、上手いこといったし。お兄さんも流石に手出し出来な……い…」

「なに?どうしたの?」

 

悔しがるブルの姿を見てやろうと思ったクレアは言葉に詰まる。

 

クレアは見てしまったのだ。

かがんだブルが、石を拾い上げようと手を伸ばしているのを。

 

投石だ。

尋常ではない射程距離でありながら、百発百中でぶち当てるブルの十八番である。

 

「か、加速!早く加速して!!投石がくる!!」

「嘘でしょ!?」

 

死んで堪るかと加速させるアメリア。

落ちないようしがみつくクレア。

 

ブルが手頃な石を拾い上げる。

それを振りかぶろうとしたとき、ブルの後ろから声がかけられた。

 

 

 

「交代だ。今度は儂と運動しようじゃないか」

 

 

 

 

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