なんかよくある話   作:天和

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友情とは、という話

 

「いやっほー!!殴り込みだぁ!!」

「ブルさぁぁん!!助けてぇぇ!!」

 

緊迫した空気なんぞなんのその。

 

割り込んできた無粋な声に、ブルと老爺は思わず声の方を見上げた。

 

そして見たのは満面の笑みを浮かべたクレアと、なんか半泣きのアメリア。

 

お手本のような跳び蹴りの姿勢のクレアをよく見ると、アメリアの腕を思いっきり握っている。

どうやら制御は、クレアが物理的に握っているらしい。

 

半泣きのアメリアはへっぴり腰である。

 

「ふっ、馬鹿の一つ覚えみてぇに真っ直ぐ来やがって…躱す程度容易いものだ」

「いやその姿勢よ。というかお前がそれを言うな」

 

そんなことを言いつつ、おもむろに腕を広げるブル。

誰がどう見ても、全てを受け入れる姿勢である。

 

思わず老爺も物申さずにはいられない。

 

「しまった…!受け止める癖がついて…ぐぁ!!」

 

はっとするブルの顔面と胸に決まる飛び蹴り。

クレアは当然のこと、しれっとアメリアも蹴りを入れている。

 

クレアは確信犯だが、アメリアは生存本能に従った結果である。

五体満足の着地のために、ブルを肉の緩衝材としたのだ。

 

 

ふわりと舞ったクレアがくるくると回転し、軽い音をたて着地する。

僅かなブレもない見事な着地である。

 

その隣でアメリアが「い゛た゛ぁ゛っ!」となんか汚い声を出してべちゃりと墜落しているが。

 

痛そうなアメリアは見なかったことにして、見事な着地にぱちぱちてちてちとウル達が拍手を送っている。

 

「しゃおらー!ぼこぼこにされた今なら効いてるでしょ!ざまぁみろー!!」

 

拍手を送られるクレアは腕を振り上げはしゃいでいた。 

 

手応えのある一発をかまして非常に嬉しいのだろう。

その喜びようはどこかのお爺さんにそっくりである。

 

悶えるアメリアは当然のように無視されている。

 

 

ただ、残念なことにクレアは一つ勘違いをしていた。

 

クレアが見たのは、老爺の殴打によってブルが膝を付き、さらに殴り飛ばされたところからであった。

暴力の雨を受けてなお、揺るぎなく聳える山の如し姿は見ていない。

猛攻により蓄積されたものがブルに膝を付かせたのだと思い込んでいたのだ。

 

確かに一方的に攻撃されていたのは間違いない。

それが損害を与えていたのかは別問題なだけである。

 

 

背後で、すっと立ち上がる何者かの気配。

クレアの喜色満面の顔から、すんっと感情が抜け落ちる。

 

振り上げていた腕をそっと下ろして振り返ると、極めて穏やかな笑みを浮かべるブルが立っている。

 

顔と胸に残っている足跡が気になってしょうがないが、まるで損傷のない様子に冷や汗が一筋流れる。

 

「…どうした?ほら、もっと喜べよ。はしゃいでいいんだぞ?なぁ?」

 

 

やっべぇ。

クレアは心の中で呟いた。

 

左の頬を殴られたら右の頬も差し出しそうな顔に際立つ青筋。

もしや表情の制御も出来ないほどにぶちぎれているのでは、と思うほどに不自然な顔つきであった。

 

手遅れ。

そんな言葉が脳裏に過るも、諦めきれないクレアは口を回す。

 

「あ、お兄さん、良かったー。不慮の事故とはいえちょっと心配だったんだよー。いやーほんと、ね?リア?」

「クレアが戦犯でむぐぐ…」

 

流れるように親友を売ろうとした口を塞ぎ、クレアはにっこりと笑う。

 

巻き込まれたのはアメリアだが、互いを地獄へ落とそうする姿は見ていられない。

 

ルサルナがああなっちゃ駄目よとウルに教えている。

老人達はあまりに哀しい人間の性に天を仰いでいる。

 

心做しか青筋が増えているブルが口を開く。

 

「今際の言葉はそれで十分か?」

「こんなとこで死にたくない…!」

 

跳ねるように後ろへ飛び退り距離を取るクレア。

背中を向けるのは駄目だと本能が叫んでいる。

 

残されたアメリアは引きつった笑み。

 

「え…えへへ、そのぉ…いつもありがとうございますぅ」

 

知らずのうちに揉み手するアメリアは、ここぞとばかりに媚を売っている。

出来れば咄嗟に出た足のことを誤魔化せないものかと。

 

「あぁ、気にしなくて良い。可愛らしい判子を貰ったからな…」

「ごめんなさい。本当に」

 

とんとんと胸の足跡を叩くブル。

アメリアは背筋を正して正座し、両の手のひらを地面につけ、頭を地面に擦り付けた。

 

必要なのは媚でも誤魔化しでもなく、誠意である。

 

一瞬のうちに判断を下したアメリアが実行に踏み切ったもの、それは所謂土下座。

 

どげざ!っとウルがなんだか興奮しているが、そっとルサルナに目を隠されている。

老人達は美しすぎる土下座に胸一杯の哀しみを覚えている。

 

「いや、咄嗟のことっていうのは分かってる」

「そ、そうです!咄嗟になんです!わざとじゃないんです!」

 

穏やかな声色で告げられた言葉に、アメリアの顔が勢いよく上がる。

 

許された。

そう思ったアメリアは安堵から言葉が溢れる。

 

「だが一発は一発だよなぁ…?」

「どぉして…?」

 

しかし現実はそう甘くない。

無慈悲な判決に瞳から希望が流れ落ちていく。

 

「しかしまぁ、俺にも情はある」

 

続く言葉に、アメリアは光の失せた目を向ける。

クレアはその言い草に、実は朦朧としているのでは、と淡い期待を抱いている。

 

「あそこのクソガキを捕まえれば帳消しにしてやろう」

「やります…!殺ってみせます…!」

 

食いつくような即答。

捕まえていれば生死は問いませんよねと言わんばかりの気迫。

 

クレアはごそごそと色んな物を取り出している。

痺れ薬、眠り薬、煙玉。

 

自らの運命は自ら切り開くべしとばかりの品物である。

切り開く道は前ではなく後ろなのは言うまでもない。

 

「行け」

「はい…!ブルさん…!」

 

その様、放たれた猟犬の如し。

 

魔剣による風の放出で急加速したアメリアがクレアに肉薄する。

薬を撒き、動きを妨害しながらクレアが身を躱す。

 

 

「親友なら私のために死んで…!」

「親友なら道連れになってよ…!」

 

似たような言葉を発した二人。

大袈裟に思うかもしれないが、本人達は大真面目である。

 

 

 

風が舞い、薬が撒かれ、煙が辺りを覆う。

 

「これが…ゆうじょう…」

 

ルサルナの手からこそっと抜け出したウルが、そんな惨状を見て呟く。

 

えらく汚い友情もあったものである。

ルサルナと老婆が必死に訂正を始めている。

 

 

今日のウルの学びである。

 

友情は、時としてすごく汚い。

 

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