なんかよくある話   作:天和

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遊びの話

 

 

ブル一行が巨木の町に滞在して暫く。

気温が下がり始め、遂には雪が振り積り始めた頃。

 

一面の銀世界に目を輝かせたウルやアメリアが喜び外を駆け回り、クレアが毛布の中で丸くなっていたのは至極当然のこと。

 

勿論クレアはウルとアメリアに引きずり回されたのだが、それは置いておいて。

 

 

 

時刻は早朝。

外はしんしんと雪が降る、静かな朝である。

 

 

「くしゅっ!…うぅ…」

 

少し荒い息、薄っすらと光る汗、赤く染まった頬。

 

「うーむ……まぁ風邪だな」

「だろうねぇ」

「ですよねぇ…」

 

老人二人とルサルナに囲まれ寝込んでいる幼子はウル。

昨日雪の中はしゃぎ転がり回った対価を、今払っている。

 

子供は風の子というが、それは風邪を引かないということではない。

とはいえ引くと決まっているわけでもない。

 

「あわわ…お薬、ご飯、でも汗もかいてるし薬湯を…あっ、先に拭いてあげたほうが…」

「ただの風邪にめっちゃ慌ててんじゃん」

 

とっても元気な様子であわあわしている少女はアメリア。

雪の中ではしゃいだからといって、風邪を引くようなやわな身体などではない。

 

そんなアメリアに声をかける少女はクレア。

雪の中引きずり回されたとて、風邪を引くようなやわな身体ではない。

一人暖炉の前でぬくぬくとしている。

 

「そうだぞ、少しは落ち着け」

「ぶ、ブルさん…」

 

澄ました顔で温かな白湯を準備している男はブル。

生まれてこの方風邪など無縁の男である。

 

今は取り繕っているが、いち早くウルの異変に気付き、悲鳴を上げて全員を叩き起こした猛者でもある。

 

「その…全部零れてますけど…」

「なっ…!なん…だと…!?」

 

訂正、取り繕っているのは顔だけであった。

尋常でないほど震える腕は、用意した白湯の大半をぶちまけている。

 

指摘されてようやく気づくほど動揺したままであった。

これにはウルを囲む老人たちも呆れ顔。

 

「何をしてるんだ全く…」

「役に立たないガキどもだねぇ。ほら!邪魔だよ隅っこ行ってな!」

 

ブルたちがわぁわぁと隅へ追いやられるのを尻目に、ルサルナはウルを気遣う。

 

「何か食べる?食べられそう?」

「うぅ…やまもりのおにくとおかし…」

「……大丈夫そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「むーーん…」

 

右へころころ、左へころりん。

 

「むぅぅん…」

「ねぇリア見て見て、布団ミノムシ」

「きゃー!可愛いー!」

「むうぅぅぅ!」

 

布団を巻き込みながら転がる、なんだかすごく不満そうな鳴き声の正体は布団ミノムシ…ではなくウル。

 

要望通りではなかったがたらふくお粥を平らげ、しっかりとお薬を飲み、すやすやと一眠りしたらなんか元気になっていた。

 

そのまままた銀世界に突入しようとしたところで、老婆やルナルサに止められたのだ。

 

 

元気といっても病み上がりなのだから、と。

 

 

心配をかけるのはと思いとどまり、しぶしぶ布団に戻ったウルなのだが、それはもう暇。

今は元気一杯だと訴えている真っ最中。

 

残念なことに、唯一通用するであろうブルは

“動揺しすぎておじゃま虫になっていました。”

と書かれた板を首から下げ、別所にて反省中である。

 

ウルを見ながら騒いでいる義姉二人も

“お姉ちゃんなのに狼狽えて何も出来ませんでした。”

“だらけてました。”

と書かれた板を下げている。

 

 

「むむむ…む、む?……み゛っ!?」

「あ、落ちた」

「大じょ…大丈夫そうだね…」

「むぃぃぃ…」

 

元気一杯を全身で訴えていたのだが、場所は寝台の上。

小さなウルには十分すぎるほど広くとも、転がり回るには狭い。

 

案の定ぽてりと落ちたウルだが、落ちた先でも訴え続けている。

むしろ寝台より広くなったためか、ころころりんと勢いを増しており、勢いのあまり布団が徐々にはだけつつある。

 

「ねぇクレア。あれ脱皮っぽくない?」

「むしろ変態かも。虫的に」

 

微笑ましく見守る二人の前で、遂に布団というしがらみを抜け出すウル。

抜け出し、少し止まってから徐ろに立ち上がり、ちらりと二人を覗き見てからぱたぱたと走り出した。

 

「じゃああれは?」

「んー……脱兎!」

「確かに!…お手洗いかな?」

「いやちょっと待って…これは…」

 

がちゃ、ぱたん、という扉の開閉音。

それになんとなく疑問を持ったクレアが窓の外を見て、つられたアメリアも外を見る。

 

そこには満面の笑みで雪に飛び込むウルの姿。

 

 

積雪に沈んでいったウルを見て、思わず顔を見合わせた二人が叫ぶ。

 

「「だっ、脱走だー!?」」

 

「あんなことしたらまた風邪引いちゃうよ!」

「正座で説教なんて勘弁だし!」

 

勢い良く飛び出そうとする二人だが、ウルに近づく影を見て踏み留まった。

 

「…っ!待ってあれは…ブルさんだ!」

「隔離されてたはずなのに…!でもウルを捕まえてる!好機じゃん!」

 

そう、ブルである。

別所にて反省中のはずであるが、何処からか滲み出るように姿を現しウルを捕まえている。

 

後は連れ戻すだけ、というところなのだが。

 

「あれ…?なんで動かないんだろ…?」

「…なんかおかしくない?」

「何か被せてる…?」

 

何かおかしい。

それは漠然とした感覚だったが、次の瞬間に確信へと変わる。

 

「う、上着に手袋、耳当てまで…!か、完全装備だ…!」

「ほかほかの飲み物まで…!」

 

ブルが一歩離れると、そこにはなんとふわふわもこもこしたウル。

しかも湯気の立つ暖かそうな飲み物まで万全の態勢である。

勿論今回は零してなどいない。

 

ここまでくると流石に気づく。これは…

 

「ほ、幇助犯だー!?」

「あの協力者も引っ捕らえろー!!」

 

言うな否や飛び出していくクレアと慌てながらも後を追いかけるアメリア。

 

そんな二人を仁王立ちにて待ち構えるブル。

 

「来たか。今ならまだ間に合うぞ?何も見なかったことにして帰ってもな…」

「それはこっちの台詞じゃん。何も知らなかったことにして戻ったら?そのぶら下げてる札を増やされたくないでしょ?」

「一番情けない札だもんね、クレアの」

「あれ?こっちも敵かな?」

「えっ」

 

対峙する二人と一人の間で緊張感が増していく。

ついでに何でか二人の間もちょっとぴりついている。

 

ウルはお言葉に甘え何も聞かなかったことにして雪だるまを作ろうと奮闘を始めた。

 

「ふふっ…お前たちはどうせ、ここで俺が暴力に訴えると思っているんだろう」

「……」

 

一触即発の雰囲気の中、ブルが口を開いた。

正直なところ図星であるために二人は言葉を返せない。

 

「俺もまた、日々学びを得ている。問題を解決するのは何も暴力だけじゃない。ここは、そうだな…」

 

ブルはそう言って少しばかり屈み、雪を掬い取った。

 

「“雪合戦”で…決着を着けようじゃないか」

 

ぎゅちり。

 

ブルの両手に包まれた雪からなんとも奇妙な音。

そっとその手が開かれ現れたものは、なるほど確かに雪玉と表現すべきもの。

 

「ゆき…がっせん…?」

「ゆきがっせん…合戦…?つまり、殺し合い…?つまり…暴力!?」

 

しかし雪玉と呼ぶにはあまりにも物々しい。

容易く頭をかち割れるであろう硬度があることは想像に難くない。

 

ブルからの提案が故か、それとも雪玉の放つ禍々しさか、はたまた両方か。

クレアとアメリアの脳は理解を拒んでいる。

 

「呆けている暇があるのか?」

 

二人の足元が弾ける。

反射的に散開した二人の目に映るのは、何かを投げ放った姿勢のブル。

 

 

「遊びだからこそ…本気(ガチ)でいくぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

雪玉の硬さは本気(ガチ)じゃ駄目だって!?

こんなの結局暴力じゃないですかー!?あいたっ!?

 

 

「にぃ!あたった!」

「おぉーよしよしウルは凄いなぁ!」

 

泣き言が響く中ほのぼのとした空気が流れている。

 

楽しそうにブル手製の雪玉を投げているのはウル。

隣には制作途中の雪だるま。

 

どうやら一人より皆と遊びたかったらしい。

 

 

楽しそうなウルを撫でくり回すのはブル。

撫でながらも反撃で飛んできた雪玉を雪玉で撃ち落としている。

 

勿論飛んでくる倍の雪玉を投げつけてもいる。

 

 

そしてそんな光景を見ながらお茶を飲むルサルナと老人たち。

抑圧ばかりでは駄目だと考え、脱走のことは黙認している。

 

しかしそれもある程度のこと。

雪遊びが長引く前に制圧にかかるだろう。

 

 

ルサルナたちの過保護が牙を剥くまで、後少し。

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