「んぅぅ…みずぅ…」
うんうんと唸る少女、ウル。魔法少女見習い。
今日もウルは魔法を練習している。
「みぃずぅぅ…」
ぱしゃんと音を立てて落ちる水。概ねコップ一杯分。
「んー…ひぃもえてぇ…」
ゆらゆらと手の先に現れる火。ろうそく程度。
「にぃぃ」
瞬時に現れる召喚獣、ブル。戦闘力、城を落とす程度。
「よしよし、すげぇ上手くなってんぞ。ほれ、これ舐めてちょっと休憩しよう。」
流れるように抱き上げ、頭を撫で、飴を渡す。
「甘やかし過ぎでしょ。」
すぱんっとブルの頭を叩く女性、ルサルナ。魔女。
本日も三人は通常運転である。
「むずかしい…」
「他の人と比べたらとっても上手よ?それに、あんまり焦っても上手くいかないわ。」
ブルを背もたれ代わりに休むウル。口には追加の飴が入っている。
実際、ウルは尋常でない早さで習得している。通常であれば今頃、魔力を自覚する段階か、魔力を動かす段階だろう。しかし、ウルは他を知らない。早くブルの力になりたいと考えている。それらが焦りとなって現れている。
訓練を再開しても変わらない。早く上手くなりたいと肩に力が入っている。
「ほら、ウルちゃん、肩に力が入っているわ。もっと楽にやりましょう?」
「ん…」
しょんぼりが加速するウル。ここでブル、迷案。
するっとウルに近づき、さっと抱き上げる。ウルびっくり。
ルサルナはどうするのか気になっている様子。
「にぃ?」
「このまま魔法の練習しよう。俺がついてる。」
そう言って優しく頭を撫でるブル。なんだがよく分からないが嬉しげなウル。程よく力が抜けている。目を閉じ、大きく深呼吸。
「すー…はー…」
吐ききった息をまた少し吸い込み、腕を伸ばすウル。
「みず!」
ごぽりと現れる水の玉、頭ほどあるだろうか。
「とんでって!」
勢いよく的代わりの土棘に飛んでいき、ばしゃんと弾ける。
「あ…でき」
「うおぉぉお!流石ウル!すげぇ!最高!」
今までにない会心の出来にやや呆然と声を漏らすウル…を遮って男の咆哮が響き渡る。
びくりとウル。頭の丸い耳を抑える。じとっとした目をウルに向ける。
とても嬉しいはずだが、わしゃわしゃと己を撫で回しながら喜びの声をあげる男にすん、と気持ちが落ち着く。がぶり。
「あいたぁー!なんで!?」
「うれしいけど、にぃちょっとうるさい…」
さらさらと砂のように崩れるブル、ウルはするりと降り立つ。
膝を付き、嘆く男にふわりと抱きつく。
「でも、ありがと。だいすき」
一連を眺めてたルサルナはその手腕に慄く。
落としたところに致死の一撃、これは魔性。効果は抜群。
言葉なく意識を飛ばした男に手を合わせる。どうか安らかに。
暫くして、気が済んだのか男から離れて練習を再開するウル。その姿は生き生きとしており、魔法の完成度も先程とは比べ物にならない。あまりに早い習熟に冷や汗を垂らすルサルナ。教師役としてはまだ威厳を見せたい。
「ウルちゃん、ちょっといい?」
ウルを呼ぶルサルナ。なんとかして出来るお姉さんを見せつけたい。
「ウルちゃんすっごく上手だから、後は魔力を無駄なく使う使う練習をしましょう。ちょっと観ててね。」
そう言ったルサルナは、すっと水を生み出す。それを様々な形に変え始める。ウルの目はきらきら。
最後は花の形にした水を氷に変えてウルに手渡した。花は精巧に出来ている。ウルはぱぁっと顔を綻ばせる。
「分かったかな?ちゃんと魔力を操作すれば、あれだけ動かしても無駄に漏れ出すことはないの。これはちょっと難しいから、常日頃から意識して練習することが大事なの。根気よく頑張ってね。」
「がんばる…!」
まだお姉さんとして威厳を保てる、と思うルサルナ。少女には見栄を張りたい。
因みに、ちょっと難しいと言ったが、実際はちょっとどころではない。先達として、教師役としての意地だった。
ウルが魔力を使い果たし疲れ果て、ブルがようやく再起動したために帰路につく。くぅくぅと眠るウル、揺れなく歩くブル。見慣れた光景。
本日分の報酬を受け取り別れた後、ルサルナは考える。上には上がいるが、魔法には自信があった。自らより才ある者はそうそうにいないと。しかし明らかに自分より才の溢れる少女を見て、このままではいけないと考える。久しぶりに心に火が付いた。思わず溢れ出す魔力。吊り上がる口角。
ルサルナは燃える心を抑えながら歩いていった。
なお、傍から見ればよく分からない圧迫感のある、ギラついた顔のヤバい女である。
ルサルナは気付かない。