今日も魔法の訓練を行う少女、ウル。なんだか不貞腐れた様子。
そんなウルを見守る男女。ルサルナとブル…ではなくハスタ。
本日は依頼のため、ブルは不在である。どうせ爆速で終わらせてくるが。
今日は前回の別行動から七日後である。
そして、断腸の思いでブルは決断する。もう一度、と。
前回の失敗を全く活かせず、またもや依頼屋でそのことを告げ、ウルに盛大に泣かれている。
たまたま居合わせたハスタを巻き込む形で宥めすかし撫で回し、何でもお願いを聞くことを条件にお許しをいただいたのだった。
ハスタはルサルナに引きずられ同行していた。
なお別れる際には道端の小石がまたもや犠牲となった。
死なばもろとも、とルサルナはハスタを巻き込んでいる。
ハスタは神につばを吐きつけた。
そして今、死んだ目でウルを見ている。
「俺が知ってるウルちゃんはよぉ、ブルにベッタリのただの子供だったんだ…俺ぁあの時、この子を守ってやらねばって思ったんだ…」
「そう…多分、見間違えたんじゃない?」
冷たいルサルナ。
天を仰ぐハスタ。数秒で視線を戻す。
「ぅぅうっ!」
叩きつけるように踏み鳴らす足。数秒後、十歩程先に大人ほどの大きさの土棘が生える。
「にぃの…!」
両手を上に、頭ほどの水玉。ゆっくりと槍のようになり、凍りついていく。
「ばかぁ!」
勢いよく振り下ろされる両手。勢いよく突き刺さる氷の槍。
勢いそのままに両手をまた上に。今度は火球、これも頭ほど。
「おおばかぁ!」
振り下ろされる両手、弾ける火球。土棘、怒りを一身に受け、爆散。
「うぅぅ…!」
バチバチと弾ける音、髪がざわざわと浮き上がっている。手を前に掲げる。
ぴしゃんと大きな音。雷のようだ。
ウルは十日ほどで並の魔法使いを超えていた。
「はいウルちゃん、もう三回目だし、ちょっと休憩ね。スッキリした?」
「…ちょっとだけ」
死んだ目のハスタは置いといて、ルサルナはウルに声を掛ける。
優しく頭を撫で、用意した焼き菓子と飲み物を出す。
「ほら、どうせ買ってくるだろうけど、ちょっと甘いもの一緒に食べよ?」
「…ん」
ちまちまと食べ始めるウル。再起動したハスタ、ようやく近づいてくる。
「いやぁウルちゃん、随分すごくなったなぁ、俺ぁ見違えたよ。」
「ん、そう?」
「自信もって大丈夫よ。こんなに早く上手になる子なんて、他にいないわよ?」
「そう、かな?…えへへ」
はにかむウル。顔を見合わせるハスタとルサルナ。
即興の甘いものと煽てる作戦は上手くいっている。
ふわぁと大きなあくび。眠くなってきたウル。膝へ誘導するルサルナ。
「ふふっ、寝ても大丈夫よ?ブルが帰ってきた起こしてあげる。」
「あぁ、ちょっとくれぇ大丈夫だ。寝ちまいな。」
「…ん」
暖かな感触に抗えずウル、就寝。
二人は可愛らしい寝顔に笑みを浮かべつつ、安堵。
「あの馬鹿、帰ってきたらぶん殴ってやるわ。」
「俺もだ…いや、大丈夫か?あの小石みてぇにされねぇか?」
ハスタの言葉に揃って沈黙。さらさらと手からこぼれ落ちる砂を思い出す。
「さ、流石に大丈夫でしょ?まぁ、ここは男のあなたからするべきよね。」
「いや、言い出しっぺがやるべきだろう。」
醜いなすり付け。
一発は一発だよな!と殴りかかってくる姿が二人の脳内に映されている。殴られた相手は死ぬ。弾けて。
見るに堪えない争いは暫く続いていた。
不毛な争いが終わり暫くして、風が吹き付ける。振り向けば息の荒いブルがいた。まだ日は真上ほどにある。あまりに早い。
「終わらせて、ごほっはぁ、きた…」
息も絶え絶えな様子。ウルを起こす前に息を整えさせる。
早すぎだろ、と二人は思ったが、まぁこれだし、とも思っていた。
「ふぅー…もう大丈夫だ。助かったぜ、二人とも。」
「問題ないわ。ただ、一発殴らせろってハスタが」
「ちょ、てめっ」
「いや、流石に今回は俺が悪い。甘んじて受けよう。」
おっマジか。二人は思った。ルサルナはそろっと自分の膝と外套を入れ替えた。よく眠っている。
「じゃ、一発な。…一発は一発とか言って殴り返さねぇよな…?」
「…俺はどんなふうに見られてんだ?」
そんなふうにだよ、と二人は思う。
「どらぁ!」
ハスタは腹をぶん殴る。積み上げた土のうのような感触。なんという重量感。
ハスタ、言葉なくルサルナへ交代。
「やぁ!」
気合満点の拳。腹に打ち当たる。ルサルナ拳を抑え崩れ落ちる。
ニヤニヤとハスタ。悪辣。
「良し、済んだか。さぁウルだウル。」
生半可な物理は聞かないブル、さっさとウルのもとへ。
ハスタはニヤニヤとルサルナを見下ろしている。
なぁどんな気分だ?などと聞いているハスタを尻目に、ブルは寝ているウルの隣に座り、優しく頭を撫でる。
寝ながらも察知したのか、ウルはブルにしがみつく。
ばかぁ…と寝言にやや傷つくも甘んじて受け入れるブル。自業自得。
復活したルサルナとハスタのぎゃいぎゃいと騒ぐ声で、ウルは目を覚ます。寝ぼけ眼をブルに向け、言い争う二人に向け、もう一度ブルに向ける。
はっとした様子で少し離れるウル。やや恥ずかしげにむくれている。苦笑いのブル。後ろから持ち上げ、膝の上に運ぶ。
「次は事前に伝えるから。ごめんな。」
「…ぎゅってして」
「仰せのままに。」
「あたまも」
「はいよ。」
お姫様の機嫌は暫く直りそうもない。
それはそれとして、むくれるウルは可愛いなぁとブルは思っていた。反省の色、あんまりなし。