なんかよくある話   作:天和

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旅の準備をする話

 

とある日、男と少女は部屋の中で向かい合っていた。外は叩きつけるような雨が振っている。

 

「なぁウル。ちょっと遠出してみたくないか?」

「とおで?」

 

流石に本日は休日とした男、ブル。ブルは目の前で読み書きを頑張る少女に言う。

うにうにと悩む声を上げながら頑張る少女、ウル。ウルは心なししんなりとした耳をピンと立たせる。

 

「どこいくの?」

「ここからずっと東にポールンって港町が合ってな。三日後にそこまでの護衛の依頼が出てたんだ。海だぞ海。」

「うみ…!みてみたい…!」

 

おぉー、と目を輝かせるウル。うみうみと紙にまで書き始める。

皆さん、これがうちの子ですよ、讃えよ。とどこかに思念を飛ばすブル。

雨も吹き飛ばすようなほんわかとした空気がここには合った。

 

そうと決まれば、とブルは立ち上がった。今までの反省を活かし、いきなり動くことはない。ちょっと出かけるからなーと、動く前にウルを撫で回し、目の前にそっと焼き菓子を置いて機嫌を取っている。良し。

行ってきます。ブルは風になった。

 

ルサルナのいる宿に行き事情を説明して、依頼屋に行き手続きを行い、またルサルナのとこに行き野営の相談をした。買いに行くぞと引っ張り出そうとして雷を落とされる。魔法で実際に。

怒られたブルは一旦、少し痺れる体を引きずりながらウルのもとへ帰っていった。

 

次の日、怪しい天気ながら雨は降っていない。ブルはウルを連れてルサルナのもとへと向かった。ウルは弾むように歩いている。もちろん手はぎゅっと繋いでいる。

 

「いやぁ、助かるぜ。俺ぁ大体飯と水さえあればなんとかなったからよ。」

 

ブル、あまりに無頓着。ルサルナは呆れる。ウルはあっちこっちに目をやっている。屋台から美味しそうな匂いがする。

 

「これからはウルちゃんもいるんだから、しっかりしてよね。馬鹿なことしたら雷落とすわよ?」

 

無論、実際に。ルサルナは流れるようにウルに商品を買うブルを見て言った。

二人が戻ってくる。ウルは口いっぱいに串焼きを頬張り幸せそうな様子を振りまいている。

 

「おう、勿論だ。今日は頼んだ。」

「ひぇっ…」

 

肩をぽんっと叩かれるルサルナ。砂になった小石が思い出される。条件反射。

 

「まままかせななさい」

「お、おう。どした?」

「へんなの」

 

口がうまく回らないルサルナ。戸惑うブル。無垢なウル。

ブルの行いのせいだが、本人は分かっていない。無自覚の恐喝。

 

ギクシャクしたルサルナについて回りながら必要なものを買い集める。ウルは楽しげ。その手には焼き菓子。

 

「へぇ、こんな便利な物もあんのか。ずっと一人だったし、魔法具なんざ使えねぇから知らなかったぜ…」

「まぁ仕方ないわよ。それに結構高いからね。今ならウルちゃんが使えるし、持ってても良いんじゃない?」

「そうだな…」

 

ブルが見ている魔法具は肩掛けの鞄だった。それは見かけによらない大容量をしまうことが出来るらしい。また、重量も変わらない。とても便利。ただし、中の時間は普通に経過する。

 

おぉ…と、目を輝かせるウルを見る。買った。

 

 

ウルは鞄をにこにこと抱きしめている。物を入れて出してと遊んでいる。

 

「さて、その鞄もあるなら、あったら便利なのも色々買っときましょうか。ウルちゃんも女の子だし、服の予備も多めにあった方がいいでしょ?」

「そうだな!では早速…」

「あなたはお留守番よ。ウルちゃん、行きましょ?」

 

そこで待ってなさい、とルサルナ。そんなぁ…とブル。

ウルは鞄をにこにこと抱きしめている。

そんな姿に、ウルも成長しているんだなぁ、と感慨深いブル。ウルに対しては全肯定お兄さんである。

 

少し経って、ウルとルサルナは戻ってきた。ウルはブルに飛びつく。ブルは甘んじて体当たりを受け止める。

 

「良いの買えたか?」

「ん!にぃみて!」

 

鞄からにゅっと大きな袋を取り出すウル。あれこれ広げようとするのを慌てて止めるルサルナ。にこにこのブル。

 

「はぁ…全くもう。後は食料くらいかしらね。まぁ今買ってもなんだし、これはもういいかな。良し、こんなものでしょ。」

「いやぁ、本当に助かった。こんな色々と必要なんだな。」

「まぁ、その鞄があるからちょっと多くなっているけど、普通は必要なの。皆があなたみたいに頑丈じゃないのよ。」

 

ルサルナ、ここでふと思う。このままこの男と少女を二人で旅させていいのか、と。戦闘力、イカれている。生活力、底辺。

砂になった小石が思い浮かぶ。同時に、ひと月ほど魔法を教えた少女との思い出。

 

“この二人だけで野に解き放つのは、人としていいことなのか?”と。

 

ルサルナは思う。いや、ヤバいでしょ。

 

一瞬、廃墟になった町並みに立ち尽くす少女が思い浮かんだ。あり得る。

 

ルサルナは決断した。少女の心を守るため、この化け物のブレーキになってやろう、と。大きく深呼吸。

 

「。」

 

やっぱりちょっと怖かった。か細い吐息が漏れた。やり直し。

 

「ああのあのあの…」

「えぇ…?」

「おねぇちゃん、だいじょうぶ?」

 

ブル、困惑。ウル、心配。

 

ウルの顔を見る。深呼吸。

 

「ふぅ…私もあなた達についていくわ。だってなんだかウルちゃんが心配だし…」

「いっしょ?とおでもいっしょなの?」

 

嬉しそうにはしゃぐウル。

 

「そりゃこっちとしても助かるんだが…いいのか?」

「ええ、勿論。腹は括ったわ。」

「そうか…いや、ありがとな。」

「ぴっ」 

 

ぽんと頭に置かれる手。怖いものは怖かった。

 

 

宿に戻った後、ちょっとだけルサルナは後悔していた。

しかし少女の嬉しげな様子を思い出し心を奮い立たせる。

男の手は努めて思い出さないようにする。怖いので。

 

 

寝れそうにない。ルサルナはそう思った。

 

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