護衛当日、ウルはなんだか眠たげだった。
遠出が楽しみでなかなか寝付けなかったのだ。珍しくブルの方が早く寝ていた。
ウルはブルにすり寄ったり、ブルの腕を枕にしたり、ブルの身体の上に乗ったりしたが、なかなか眠れなかった。
「おはよう。なんだか眠そうね。」
「楽しみで寝付けなかったみたいだ。」
ウルはぼんやりしている。荷馬車が近づいてくる。
「あなた達が依頼を受けてくれた方ですか?」
近くまできた荷馬車から男が降りてくる。全体的に細長く、糸目の男。
「あぁ、そうだ。俺はブル、この子はウル、こっちはルサルナだ。よろしく頼む。」
「私はヘンドラーといいます。こちらこそよろしくお願いします。…ところでそちらの子は、護衛…なんですか?」
「この子はこう見えて凄腕の魔法使いよ。そこらへんのやつじゃ相手にならないわ。」
そうなんですか、とヘンドラーは言うも、不満そうな様子。
「おい、もし役立たずだと思ったのなら、この子の分の依頼料はいらねぇ。そうじゃなかったらきっちりと払えばいい。それで文句はねぇな?」
肩に手を置き詰め寄るブル。ちょっと青い顔のヘンドラー。
肩を握り潰すのかと冷や汗をかいたルサルナ。眠いウル。
恐らく良い出発ではない。
「そうなんですね…てっきり夫婦かと思っちゃいましたよ。」
「あ?夫婦?そんなふうに見てたのかよ。」
「これが夫…?」
ブルの背中で寝始めたウルはそのままに、三人は話しながら歩く。左右にブルとルサルナが分かれ、きっちりと警戒している。
「俺ぁそんなことより、こんな少人数しか護衛を依頼しなかったのかが気になるんだがよ。」
「それはその、色々ありまして…」
「単に依頼料渋っただけじゃないの?ねぇ?」
すいっと顔を背けるヘンドラー。素直な反応。商人としては良くなさそう。演技でなければ。
「なんかきてるな…こっちの方向に移動してきてるぞ。」
ブルが警告を発する。見える範囲にはおらず、森の方も静か。
「えっと、ブルさん…ほんとに来てるんですか?音も何もありませんが…」
「間違いない、五、六匹だな。」
ルサルナはいつでも魔法を放てるよう魔力を練っている。
ウルはよだれを垂らしている。
「そろそろだ。一旦止まれ。」
「本当かなぁ…」
荷馬車を止める。ルサルナに荷馬車の前に出るように指示する。
「ルサルナ、二時の方向だ。出てくるぞ。」
「っ!そこ!」
ルサルナが氷の槍を打ち込む。木の上から現れた猿のような魔獣に突き刺さる。一匹。
ブルも拾い上げていた小石を投げ放つ。ニ、三匹。
躍りかかってくる魔獣に金棒の振り下ろし。四匹。
逃げ出そうとした魔獣が地面から生える土棘に串刺しにされる。五匹。
「今ので最後だな…お疲れさん。」
「あっけなかったわね。」
「お、おぉ…凄まじいですね…」
僅かな時間で仕留めきった二人にヘンドラーは感嘆する。
驚異的な感知能力。強力な魔法。圧倒的身体能力。
背中で起きる様子のない圧倒的睡眠保持能力。…。
「あの、その子全然起きないですけど、大丈夫ですか?」
「あの背中はあの子にとって一、ニを争う安心な場所なの。仕方ないわね。」
「あぁ、仕方ないよな。なんたってお兄ちゃんの背中だからな。」
ヘンドラーは思う。ちゃんと話し通じてる?
手際よく魔核だけ取り出す姿を見る。
まぁ守ってくれるならいいか。
暫く経ってウルの目がうっすら開く。うにうに言いながらブルの背中にすり付いている。完全覚醒までもう少し。
昼時になり、一度休息を取ることに。
「にぃ、なんでおこしてくれなかったの…?」
悲しげに問うウル。上目遣い。ブルは堪らず目を逸らす。手はしっかりと頭を撫でている。
「にぃのおてつだい…」
ブル、早くも陥落。堪らず抱き上げる。
「悪かった、次は頼むぞ。兄ちゃんはウルを頼りにしてるからな…」
「ん…ほんと?」
勿論だ!などと言う声を聞きながらヘンドラー、やや不安。
あんな幼子が本当に役に立つのか、などと思っている。
「頼りにならなそうって顔してるわね。」
「あ、いや、そんなことは…」
この商人、素直がすぎる。
「魔獣が出れば手っ取り早いけど、なんなら今見せてもらえば?」
「いや、無駄に疲れる必要はないですし、必要ありませんよ。」
嘘である。しかし、他の二人が力を見せつけているので、それで十分とも考えている。役に立たなければ金は払わなくていいと言われているし…
「さて、そろそろ再開しましょうか。野営予定の位置までさっさと移動しときましょう。」
野営予定地まで何事もなく移動することが出来た。
歩き疲れ、ブルに抱っこされているウル。お手伝い出来ずやや不満。ルサルナが気を利かせ、一緒に天幕を張る。ブルは天幕を張り終え、黙々と枯れ木を拾っている。
ヘンドラーは早々に荷馬車で休んでいる。
食事を終え、焚き火を囲み一息つく。不寝番にウルも立候補していたが、ブルの腕の中で既におねむの様子。二人は顔を合わせ忍び笑う。そうこうしている間に、ウルは半分、夢の世界。
見張りをルサルナに任せ、ブルはウルを寝かしつけるため、天幕へ入った。
明日も楽しみでしょうがない、そう思った。