ヘンドラーは呆然としていた。
夜に襲われることもなく、問題なく移動していた。和やかに会話をし、そろそろ休息を取ろうかと良い地形を探しながら進んでいた。その時、ブルが警告を出したのだ。空から来るぞ、と。
確かに前方の空に黒い影が見える。だんだんと大きくなってくる。そろそろ迎撃するのかとブルを見たとき、背中に背負われたウルが手をかざすのを見た。その先には水球ができ、無数に分かれ、見る間に氷の矢が作られ放たれていく。作られた矢が放ち切られる前に新しい矢が作られ、途切れることなく放たれている。
影、大きな鳥は躱しつつ近づくも、連射される矢に距離を詰めきれない。
そのうち避けそこねた矢が一発、二発と数を増やし、しまいに鳥を穴だらけにしてしまった。
ヘンドラーは呆然としていた。
褒めて!と全身で表現する少女と褒めちぎる男女を見て、ヘンドラーはようやく乾いた笑い声を上げた。
「正直、侮っていました申し訳ない。」
休息中、ヘンドラーは三人へ頭を下げた。出発前の男とのやり取りで少し不安になったのだ。ブルは世話に夢中、ウルは首を傾げている。口元に焼き菓子の欠片。ブルに拭われている。
「仕方ないんじゃない?小さな女の子だし、こんな甘えん坊な子が強いなんて言われても無理があるでしょ。」
ヘンドラーは少女を見る。男の膝に乗り、焼き菓子のお代わりを催促している。ずっと男にベッタリな姿。
「そうですね。私は悪くない。」
「いや、取り繕いなさいよ。」
「失礼。頼りにしています。」
「ちょっと遅いのよねぇ。」
全員が凄腕、ちょっとケチって不安なところも合ったが、これなら全く問題無い。
やはり私は運がいいな、とヘンドラーは考えている。図太い。
二日目が終わる。道程は問題なければ残り半分ほど。
焚き火の音が響く、静かな夜。
ブルは静かに座っていた。拾い集めた拳ほどの石を積み重ねている。
ふと、一人だった頃を思い出す。その時も夜は、焚き火の前で過ごしていた。魔獣の襲撃に備えるため浅い眠りしかとれず、度々起きては焚き火を眺めていた。気配を感知する能力はそれで鍛えられたものだった。
今考えりゃあのときは大変だったし、しかもつまらん生き方だったな、と思う。
徐ろに立ち上がり、持った石を勢いをつけ投げる。そのまま積み上げた石を拾い、もう一度。
ブルは何事もなかったかのように座り、また石を積み上げる。
少し離れた場所では魔獣が事切れていた。
「あなたねぇ、せめて私は起こしなさいよ。」
「馬鹿が、ウルが起きちまうだろうが。」
「あぁんもう!常識外れにも程があるわよ!ウルちゃんはあなたと違ってまだまともなの!普通は魔獣が近づいたら皆起こして対処するのよ!」
不寝番の交代のために起きたルサルナ。ブルと少し抑えめの声で言い争う。
知らないうちに二度の襲撃を受けていたが、原始的な方法で全て撃退されていた。この男、投石能力までイカれている。
「はぁ…おかげですっかり目が冴えたわ。」
「おう、どういたしまして。」
「馬鹿にしてる…?」
早く寝なさいとルサルナはブルを追い払う。るんるんとウルのもとへ向かう姿を見送る。
「はぁ…頭が痛いわ…」
ため息が止まらない。
三日目は出発早々に魔獣の襲撃があった。
「やぁ!えーい!」
「流石ねウルちゃん。私も負けてられないわっ!」
張り切るウル、張り合うルサルナ。飛び交う魔法、時々に石。
「いやぁなんと言いますか…凄まじいですね…」
ヘンドラーは最早何一つ心配していない。のんびり眺めながら干した果物を齧っている。
「にぃ、しっかりやっつけたよ!」
「はぁー…天使か?天使だったわ。」
「馬鹿言ってないで魔核取り出すの手伝ってよ。」
まるで散歩しているかのような気楽さで魔獣を駆逐する二人と一生懸命な少女。護衛は問題なく出来ている。
予定では明日には港町へ到着する。
依頼は残すところ、あと少し。