なんかよくある話   作:天和

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色々整える話

 

“あぁ、ここまで来ちまった”

 

昼頃に借りたばっかりの宿屋の前で男は思った。

本当に、どうしよう、と。しかし時刻はもう夕刻。

 

下を向き、目が合う。

服の裾はしっかりと握られている。

 

「とりあえず嬢ちゃん、腹減ってるだろ?なんか食おう。」

 

じーっと感じる視線をなんとか振り切り、意を決して扉を開ける。

開けた先には恰幅の良い女性がおり、掃除をしているところだった。

 

「いらっしゃい!ってあんたか。どうし…」

 

女将、絶句。男、冷や汗。なんとか言葉を絞り出す。

 

「い、色々あってな。ちび一人分追加しといてくれ。飯も頼む。」

「攫って来たわけじゃ、ないのかい?」

「断じて違う。なんと言うか…そう、成り行き。」

「そうはならんでしょ。」

 

なってんだよっと心の内で男はぼやきつつ席に座る。

少女はまだ服を離さないため、横に座らせる。

 

「とりあえず飯二人分、このちんちくりんでも食べれそうなの頼めるか?」

 

先払いだよっと言う声に硬貨を用意しつつ少女を見る。

薄汚れた肌、髪、襤褸切れのような服。

 

“飯食ったら適当に服買って身体も洗わんとな”

 

そんなことを考え、あれっと男は思った。

男は自然と世話のことを考えていた。

首を捻っていると、お待ちっと女将の声。

 

簡素なスープと硬いパン、ちょっとした肉と野菜。

 

「うし、食うか。嬢ちゃんも遠慮はいらんからな。」

 

考えごとを隅にやりまずは腹拵え。

少女は黙ってこっちを見ている。

 

「なんだ?もしかして腹減ってないか?」

 

くぅっと可愛らしい音が鳴る。腹は減ってるらしい。

スープを掬って口元に近づける。食べた。

どうやら食器よりも服の裾を持ちたいらしい。

 

「嬢ちゃん、もう逃げねぇからよ…服じゃなくてこっちを持ってくれ。」

「や」

「…そうですかい。」

 

色々と諦めて餌付けを進める。肉も野菜もしっかり食べる。

頬を膨らませて食べる様子になんか楽しくなってきた。

口元に近づけた肉を食べる瞬間に引いてみる。

 

空振る少女、一瞬不思議そうな顔。

それから少女はじぃっとこっちを見てくる。

 

笑いを噛み殺しながら続きを食べさせる。

また食べさせる。

引いてみる。空振り。少しだけ目を細めている気がする。

食べさせる。

引いてみる。がぶりっ。噛みつかれた!

 

「あいたたたっ、悪かった!もうしない!」

 

心なしかじとっとした目で見てくる。

速やかに次の一口を用意する。

 

「なんだい、仲いいねぇあんたたち。」

 

女将が呆れたように言ってくる。

うるせぇなどと思いつつ、無視して我儘姫の機嫌取りを続ける。

 

…お腹いっぱいになったらしい。

 

小さく欠伸して目を擦っている。と思えば膝の上に乗ってきて抱きつくように眠り始めた。

 

…なんで?

 

「なぁ女将さん、これおかしくないか?」

「悪い気持ちにはならんでしょ。拾ってきたんならちゃんと世話しなよ。」

「えっ」

「ほら部屋まで連れてってやりなよ!これ持ってってあげるから!」

 

追い立てられるように部屋へ移動する。後ろから水桶と服を持った女将。

 

「女将さん、それは?」

「古着だよ。うちの子らの昔のやつやるから着せてあげな。」

「ありがとう、助かる…俺がやんのか?」

「当たり前でしょ。さっさとしてやんな!」

 

女将に問答無用で部屋に押し込まれる。

男、呆然。仕方なし。

 

とはいえこうなればやるしかない。

 

「おい嬢ちゃん起きろ、寝る前に汚れ落とせ。」

「ん」

 

少女ようやく離れるも座り込んだままこちらに手を伸ばしている。

 

…襤褸切れを剥ぎ取るとこからやれと?

 

「自分で」

「や」

「……」

「ん」

 

男は長いため息を吐く。この我儘姫め、と。

 

襤褸切れみたいな服を引っぺがす。

頭の上には丸っこい耳。

痩せて貧相な身体付きだが、傷や痣等は見当たらない。

 

「嬢ちゃん、獣人かい。力が強いのも納得だな。」

 

それはともかくせっせと汚れを落としていく。

 

油やら垢やら、色んなもので酷い汚れだ。

身体が終われば髪もできるだけ。

こちらも酷く汚れている。

 

何度か女将に水を交換して貰いつつ、大方の汚れを落とすことが出来た。

 

男は思う。

 

冷たい水ではなく、お湯を用意してくれた女将には感謝しなければ。

肌も随分白くなったし、髪も煤やらが取れてきれいな茶色になった。

 

半分夢の中にいる我儘姫に服を着せてベッドに放り込もうとするが、がっちりと服を握られる。

寝かけのくせして離す気配がない。

 

寝るには少し早いが、諦めて一緒に横になる。すり寄ってきた。なんだかなぁと思っていると、やたらと暖かくて直ぐに眠気が襲ってきた。

くぅくぅと無防備に眠る少女を見て、僅かに抱き寄せる。

するとほんの少しだが、腕の中の少女が笑った気がする。

 

女将が言っていたように、確かに悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

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