奴隷というものがある。ほとんどは戦争での捕虜、その他に借金や犯罪での奴隷落ちがある。奴隷には特殊な手枷、もしくは足枷を着ける。この手枷は魔力に反応し、装着者へ苦痛を与える。
良からぬことを考えるものは多い。
騙して莫大な借金を負わせ、奴隷に落とそうとするものや、か弱そうなものを攫い、売りつけるもの。
ここは港町ポールン。
港には様々な商品が集まる。海産物を中心に、食料品、服飾雑貨、武器道具類。
当然、表に出せるものばかりではない。日向があれば影もある。
表に出せないものには勿論、人が含まれる。
港町ポールン、その市場にはたくさんの人が集まる。
「ふぁ…!にぃあれみて!きれぇ!」
「おお、確かにキレイだな!」
「すぐにお金出すんじゃないわよ!全く…」
市場には三人、まるで若い親子。
目を輝かせはしゃぐ娘に、娘にとても甘い父親。
それをたしなめる母親。
周りからとても微笑ましく思われていた。
「はぁぁ…何でもかんでも買おうとしないでよ、馬鹿。」
「いや、そのなぁ…あんなに喜ばれるとな…」
たしなめる母親のような女はルサルナ。早くも妻のような面構え。
尻に敷かれる父親のような男はブル。以前から甘々な父親、いやお兄ちゃんのような面構え。
二人はにこにこする娘のような少女、ウルを見る。
ルサルナは思う。この男に任せていると、将来ウルが超絶我儘娘になってしまう、と。
「とにかく、買うのはいいけどある程度絞らせてもらいます。いいわね?」
「仕方ねぇな…」
「はーい」
渋々なブル、素直に聞くウル。
普通、逆じゃない?とルサルナは思う。しかし悪いことではないので突っ込みはしない。
「はぁ、なんかお腹がすいた。一旦ご飯にしない?」
「ごはん?おさかなたべたい!」
「決まりだ。魚を、最高の魚料理を食おう。」
「全肯定しかできないの?まぁいいけど。」
可愛らしい提案をする少女と全肯定男。
ルサルナは呆れつつも魚料理が美味しいお店を探す。
「これすごい…!」
「こりゃ初めて食うな…」
「海が近いとこしか食べれないからね。」
思わずよだれを垂らすウル。目の前には生のまま盛り付けられた魚。脂が乗り、てらてらと輝いている。とても美味しそう。
「ね、ね!もうたべていい?」
「おう、しっかり味わえよ?」
飛びつくように食べ始めるウル。一口食べて全身で美味しいと表現している。
これには料理人もにっこり。これはおまけだ、持ってけ。
さらりと机に置かれる少なめの料理。子供用である。勿論、無料。
「ほぉ、こりゃウメェな。」
「そうね。当たりだわ。」
ガツガツと食べるブル。なんだか上品に食べるルサルナ。
それぞれ食べ方は違うも美味しそうに食べることは変わらなかった。
食事を終え、市場巡りを再開する三人。
同じような人が多いのか、先程よりも人が多い。
品物に興味が湧いたのか、ふらりと離れるウル。
ちょうどそのタイミングでブルは人にぶつかられる。ブルは強靭な体幹で弾き飛ばしてしまい、市場の品物が一部散らばる。
えらいこっちゃ、とルサルナは慌てて事態の収拾に動いていた。
一方のウル。離れたあとで人混みに流され、痛恨の迷子。
涙目で二人を探すも、いつの間にか人が少ない道に迷い込んでいた。
裏の住人は見ていた。見た目、良し。年は幼いが、好き者には高く売れる。
住人は最近、金に困っていた。好機。
住人は後ろから音もなく近づき、目隠しと猿轡を手際良く着け、薄暗い道へ入っていった。
ウルが道に迷い込んでいた頃、ブルとルサルナは事態を収拾しウルを探していた。
「ウル…?ウルが怖がってる…あっちだ!」
「あっち?分かったわ!」
ルサルナは迷わない。恐らくブルの言うことは合っている。
魔獣とウルについてこの男が言うことは間違いないだろうと、ルサルナはブルと一緒に人混みを縫うように駆けていた。
ウルと二人の距離は急速に縮んでいた。
「もうちょっと高くなんねぇのか?」
「あ?文句あんなら他を探せよ。」
ウルは驚きと恐怖に身がすくみ、魔力も上手く練ることが出来なかった。
しかし、ウルにはある予感がしている。にぃが近くにいる、と。
二人は建物の前に立っている。何でもないような普通の建物だ。
「ここ…ここだ、こん中だ。」
ブルは確信している。ルサルナはそれを信じている。
扉の前に座り込んだ男が立ち上がる。
「兄ちゃんここぅおわぁ!」
「死なない程度にね。」
全て言い切る前に、男は胸ぐらを捕まれ宙に浮いていた。
ルサルナの言葉にブルは頷く。
「おい、何すんだ離せ!」
暴れる男にブルは一言。
「邪魔だよ。」
言うやいなや地面に叩きつける。石畳に罅が入る。
ルサルナのため息。
「息はある。」
ブルの一言。
死んでないだけでは…?そうルサルナは思った。
ドアを蹴破り、檻に入れられたウルを見る。
金棒をゆっくりと構える。
青褪めるルサルナ、先んじて魔法を放つ。
男達、腰まで凍結。止まるブル。
ブルはため息を吐いて檻へ向かう。
檻を飴細工のように捻じ曲げて、ウルの拘束を解いていく。
「ぷはっ…ぅ、うあぁぁ…にぃぃ!」
「もう大丈夫だ…ウル、帰ろうな。」
「よかったわ…本当に…」
「そうだ、帰る前に後片付けをしないと駄目だな。」
「…え?」
その後、建物内の人員は片っ端から凍結され、捕らえられていた人が開放され、建物は瓦礫の山となった。ルサルナは渾身の拳骨をブルに放ち、拳を痛めていた。
衛兵が騒ぎに駆けつけたとき、そこにはえらいことになった現場だけ残っていた。大捕物である。
ウルはこの街にいる間、ブルの背中か腕の中から離れなかった。
ブルは不謹慎ながらも機嫌が良かった。
ルサルナは仕方ないと諦めた。