朝、珍しく最初に起きたウルは二人に挟まれ動けなかった。
それほど早く起きたわけではない。むしろいつも起こされる時間より遅かった。ブルとルサルナは様々なことで疲れて起きれなかったのだった。
ウルは二人に挟まれているのが嬉しくてそのままになっていたが、二人の温かさに、またつい寝入ってしまった。
三人は昼近くまで眠り続け、やがて心配になって様子を見に来た女将に叩き起こされた。
三人とも女将には頭が上がらなかった。
それから、三人は旅支度について話し合おうとしたが、以前買ったものがあり、保存食程度しか必要がないことに気付いた。
念のために荷物を漁るも、やはり必要なものはなかった。
なんだかおかしくなり、三人で笑いながら保存食を買いに行った。
ハスタは前方から歩いてくる三人組に気が付いた。
小石を砂に変えて脅してくるヤベぇ男。
可愛いの皮を被ったヤベぇ少女。
一緒に少女を慰めただけの知らないやつを冥府への道連れに引きずり込んだヤベぇ女。
ハスタは何事もなく通り過ぎようとした。
「あ、おじさん、こんにちは。」
「っ、」
流れるように。
「ウルが挨拶してんだろぉ…?」
「ひぇっ」
不意打ちのように発せられた挨拶に返答が出来なかったハスタ。
通り過ぎかけたハスタは肩を掴まれる。ハスタが悪かった。
挨拶は大事、例え関わりたくないものでも。
ハスタは学んだのだった。
「で、そこは大量に手に入ったらしくて、干し肉が安くなってんだ。」
「へぇ、良いことが聞けた。」
「そうね、節約出来るならしときたいものね。」
「おじさん、ものしりなんだね。」
ハスタは最近のお得な情報を話していた。早めに開放されたかっただけで、恐喝された訳ではない。ちょっと怖かったが。
「まぁ、そんなもんだな。」
「助かるぜ、ありがとよ。」
「私からも。ありがとう。」
「ありがと。」
礼を言う三人に手を振り、別れるハスタ。安堵のため息。
実は依頼を受けており、巻き込まれれば時間が掛かりそうだったために関わりたくなかったのだ。
依頼のことも言いづらかった。
ウルと依頼どっちが大事なんだ、とか言われそうと思っていた。
因みに依頼と答えれば握り潰されると思っている。
ある程度の保存食を買い込んだ三人は宿に戻っていた。
「じゃあ、準備できたし明日にでも出発しましょうか。」
「いや、明日はちょっと待ってくれないか?」
「にぃ、ようじ?」
「あぁ、この街でウルに会った。ここから始める。だから、最後にもう一度、しっかりと見て回りたい。」
「それなら、にぃがたすけてくれたところいきたい。」
「私とも会ったわよね?」
「そうだな、ウルと会った場所も見に行こう。」
「うん!」
「私との場所は?ねぇってば!」
騒ぐルサルナを尻目に二人は笑い合う。何気にウルも酷い。
涙目になってきたルサルナを慰めている間に夜は更けていった。
その翌日、三人は今度はしっかりと目を覚ましていた。
正確には二人。ウルは今日もわしゃわしゃ顔を拭かれ、ようやく目を覚ましていた。
三人は歩く。普段は行くことがない場所を。
中央から離れた場所。
貧しいながらも笑顔の人々がいた。
一生懸命お手伝いをする子どもたちや、それを優しく見守る人たち。
柄の悪い人もいて、怒鳴りつけたりしているところを見た。
少し中央に近くなれば、家が少し綺麗になり、屋台などの店も増え始めた。人にも余裕が見え始める。
それとは逆に物乞いなども増えていた。
余裕があるところから貰うのだろう。
中央から少し離れた場所、見慣れた景色がある。
いつもの宿屋や市場、たまに行く店もある。
ブルたちは屋台が並ぶ大通りで立ち止まる。
「ここで、ここからウルを見た。」
「うん…あそこからにぃをみつけた。」
二人は思い返している。
ルサルナはそこをじっと目に焼き付ける。
「あっち、いこ?」
「そうだな…」
二人は歩きだす。少し薄暗く細い道へ。
「ウルが攫われたのを見て、どうしても放っておけなかった。」
薄暗い道を歩きながら、ブルは話す。
「自分でも何でか分からんかったけどな…」
二人は静かに聞いている。
「ここで追いついたんだ。」
特に何かあるわけでもない、ただの薄暗く細い道。
そこでブルは立ち止まった。
「ここで、にぃがたすけてくれたの」
ウルもブルも、とある一点を見つめている。
「ここが…始まり…」
「助けたウルがずっと引っ付いてきてな。変なガキだと思ったよ。」
「にぃ、ひどい!」
じゃれつくウルをあやすブルを横目に、ルサルナは何でもない道を眺めていた。
始まりの場所。これがなければ誰も関わることはなかった。
「ははっ着替えも身体拭くのも、ご飯だって全部俺がやったからな。」
「ひとりでもできるもん。」
「あら?朝のねぼすけさんはやってもらってたけど?」
「たまにご飯とか身体拭くのもな。」
もー!と怒りながらも二人の手を離さないウルを見て、二人は顔を見合わせて笑う。
それを見たウルが一緒に笑い始め、薄暗い道を明るい雰囲気で満たしていた。
旅に出るまで、時間はあと少し。