ウルとブルが出会った町の名はアルヒ。
森林を半ば開拓して作られた町。
元々は大都市間の中継地として発展した町だった。
特に特産物はなく、強いて言うなら昔ながらの果樹園がある。
現在は街道の整備が進み、中継地としての強みはあまりない。
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鼻歌交じりに歩く少女、ウル。
どこで拾ったのか、いい感じに真っ直ぐな棒を振りながら歩いている。棍棒ではない。
旅は始まったばかり、意気衝天。
キラキラした目で弾むように歩いている。
それをにこにこと眺めながら歩く男女、ブルとルサルナ。
夫婦のように寄り添い歩いている。
ブルが特に何も言わないことをいいことに、ルサルナは順調に距離を詰めていた。
まるで年若い夫婦のように見える三人。
目的地はスメイル。出発した町であるアルヒに比べれば、小さな町である。
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それなりの距離を歩いた頃。
「うぅ…つかれた」
上機嫌に歩いていたウルは疲れていた。
ウルは幼いために、どうしても体力が少ない。
棒が鞄に放り込まれ、鼻歌が止まり、跳ねるような歩き方は既にない。とぼとぼしている。
ギリギリまで見守っているブルとルサルナ。
ブルが抱き上げようとするのをルサルナは止めている。
複数人で旅をするとなると、助け合いが大切だとルサルナは考える。
そのために助けられるのではなく、自分の弱さを認め、助けを求めることをしてほしい。
甘えすぎるのも問題になるため、鋼の意志でその辺りの調整していくことをルサルナは決めていた。
隣から聞こえる歯を食いしばる音を聞こえないふりして。
「にぃ、おねぇちゃん…」
疲れたウルは迷っている。
休憩を言い出して言いのか、それとももう少し頑張るべきか。
聡明なウルは理解している。
自分の体力に合わせると、旅が全く進まなくなること。
長く続ければそれなりに体力はつくだろうが、それでも二人からすれば、まだまだ足りない。
自分のために考えてくれて、自分も望んだ旅であるために、なおさら自分からは言い出し辛い。
もう甘えたい、でも頑張りたい。でも、でも…
そうして思考の板挟みになったウルは静かに泣き出した。
ブルとルサルナは首を傾げる。
俯いてとぼとぼと歩くウルが小さく震えたのだ。
様子が気になり、隣まで足を進める。
そして二人してぎょっとした。
ウルは声も出さずに涙を流していた。
「ウ、ウル!どうしたんた!?」
「どうしたの!?」
思わず抱き上げるブル、覗き込むルサルナ。
小さく嗚咽を漏らすウルは言葉が出ない。
慌てるブルはウルとルサルナを交互に見る。
ルサルナもまさか泣き出すとは思わず、わたわたしている。
暫く二人してあわあわとしていたが、ウルがつっかえながら話し出すのを聞き、静かにする。
「わ、わたしが…っく、あしをひっ…ひっぱるから、っ…がんばろうって…おもっ、おもったのにっ…」
泣きながら話す言葉は酷く聞きづらい。
聞きづらいが、ウルがこの短時間でとても悩んだことがよく伝わってくる。
ブルはそっと抱き締め、ルサルナは優しく撫でた。
「ごめんね、ウルちゃん。私が言い出したの。早いうちに助けを求められることも大事だからって。」
「俺も確かにって思ったんだ。俺は何も分からなくて、甘やかすことしか頭になかった。」
「ひっく…」
ウルは黙って聞いていた。
申し訳ない気持ちと嬉しいという気持ちが、ぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。
「疲れたら言っても大丈夫なの。甘えすぎるのは駄目だけどね。
その辺りは…お互い少しずつ学べはいいから。」
「そうだな…俺もなるべく我慢する。だから遠慮せずに言ってくれ。」
「うん…!」
二人が自分を想っていることが嬉しくて、気遣わせるのが申し訳なくて、ウルは涙を流しながら笑ってみせた。
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ウルは疲れから、そのままブルの腕の中で眠っている。
二人はそんなウルを見ながら微笑んでいる。
旅はまだ始まったばかりだった。