なんかよくある話   作:天和

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背を見て育つという話

 

「おい旦那!良かったら寄っていきな!」

「嫁や娘に贈り物なんてどうだい?」

「悪者ぶっ飛ばした話聞かせておくれよ!」

「娘さん、うちの息子の嫁にどうだ?」

 

「ちょっとやることが…おい、いい度胸してるやつがいるじゃねぇか…!」

 

 

「あんた美人なんだから、もっと着飾りなさいな」

「ほれ、これなんかどうだい?旦那も惚れ直すよ」

「娘さんも可愛らしいねぇ…」

「これはねぇ、食べれば夜にすごいことになるから…」

 

「旦那…夜…ひゃぁぁ…」

 

小さな町であることも関係するのか、三人…正確には二人のやったことは誰もが知るものとなっていた。

三人は出歩けばたちまちに囲まれ、悪漢を探すことが出来ていなかった。

ブルもルサルナも、流石に善意からくるものを邪険には出来なかった。

ブルは悪鬼のような表情をしているが。

 

ルサルナは町の婦人たちに捕まり、あれこれ言われて壊れかけている。

 

次から次へ、わちゃわちゃと町民達に揉まれた三人は

「おいお前!おれとつきあえ!」

「にぃにかてたらかんがえてあげるね」

 

ウルも何やら絡まれているが、その返しが酷い。

そのままブルに飛びつき抱っこされている。

少年はウルが飛びついた阿修羅を見て無言になった。

 

ウルは自分に勝てたらと言おうと思ったが、それよりも効果的だと考えブルを出した。

ウルに勝つのも既に不可能であるのだが、より難易度を上げるウルは直接否定するより酷いことをしている。

 

強くなければ相手にされない。

少年は少しの学びを得た。

 

因みに、もしブルを打ち倒せたとしても、それはそれでウルの好感度が下がる。

残念ながら、何をしても無駄なことになる。

 

次から次へ、わちゃわちゃと町民達に揉まれた三人は、疲れた顔で料理屋にやって来た。

 

ごろつき達が居なくなったためか、店はとても繁盛している。

店の客が歓声を上げているが、三人の顔を見た店主はそっと奥の部屋へ誘導した。

客用の部屋ではないが、三人の状況を察した店主の計らいだった。

 

三人は歓声に軽く反応を返して奥の部屋に入り、ため息を吐いた。

 

「店主…助かるぜ…」

「見回りも全く出来ないわね…」

「ありがとー」 

「いえ、これくらいはさせてください。ごろつき達もいれば誰かが教えてくれますよ」

 

店主の言葉に二人はそれもそうかと納得する。

絡まれるのが面倒というのも多大にあるが。

 

「ごはんたべよ?」

「おお…そうだな」

 

疲れている二人に気を遣い、ウルが料理の催促をする。

お腹の獣が鳴いているが、決してお腹が減っているだけではないはず。

 

「気遣われてばかりだな」

「そうねぇ…成長が早いわよね」

 

二人がウルを見ると、店主の差し出したつまみに飛びついている。

 

「食べなきゃ大きくならんからな」

「…そうね」

 

美味しそうに食べるウルを見ながら話す。

勘違いしたかもとか思っていない。

 

「…旨いのいっぱい食べて大きくなるんだぞ」

「?うん!」

 

可愛いし、何でもいいかもしれない、そんな事を二人は考えていた。

 

 

 

翌朝、囲まれたりもありつつ、様子を見回る三人。

その三人を建物の影から伺う人影がある。

 

 

「好き勝手しやがって…」

「あのガキがいればあいつらも…」

 

 

小さな町とはいえ、そこに住む人数は数百人程度ではない。

その全てがブル達を賞賛や尊敬といった感情を向けるだろうか?

いや、あり得ない。

 

ブル達が叩きのめした悪漢達のような存在からすれば、気に食わないと思うのも多いだろう。

何らかのお零れを貰っていたり、利用していた者も少なからず存在した。

 

それらの者は子供をずっと連れ歩くとこに目を付けていた。

 

子供さえ捕まえれば、人質に取れれば、後は抵抗できない二人を痛めつけるだけ。

嫁の方は美人であるから、旦那の前で見せつけるように楽しむのも面白い。

 

そんなことを考えているが、素人がこそこそする程度では二人を出し抜けない。

 

全く意識が逸れていればなんとかなるが、二人はウルを構いつつも、見回りの為の警戒を解いていない。

 

ルサルナは以前も行っていた魔力の探知、しかも以前よりも練度が増し、範囲も広がっている。

 

ブルは直感。正しく化け物の類。

 

二人はつけられていることにとっくに気付いていた。

そしてウルに構いつつも様子を見ていたのだ。

離れるなら追い、最後までついてくるなら潰す。

 

そして、ブルもルサルナも気づいていないが、ウルも実は気づいていた。

二人が後ろを少しだけ警戒していたのに気づいて、抱っこしているブルの肩越しに後ろを見ていた。

コソコソと隠れる何かの魔力を感知し、場所も把握していた。

 

ウルは悪意を感じるのは慣れている。

悪意が分からなければ生きていけなかったからだ。

 

ここで二人から受けた影響が出た。

二人、特にブルだが、悪意ある相手に容赦しなかった。

 

つまり、それをやれば喜んでくれるのでは?

最近二人の真似をしているウルはそう思った。

 

ブルに抱えられながら腕を掲げる。

 

「ん?」

「あ」

 

ちっ、と指が擦れる音。鳴るほど上手く出来ていない。

しかし、起きた現象は劇的だった。

 

ルサルナほど早くはないが、物陰にいる者達の足元が盛り上がり、棒が形成される。

 

異変に気づき声を上げかけるも既に遅かった。

それぞれの股に、そそり立つように伸びた土の棒が直撃する。

 

絶叫が響き、ブルとルサルナは絶句する。

ウルは首を傾げて指を鳴らそうとしている。

 

「おいルサルナ…お前、やったな…?」

「ち、違うわよ!?それよりあなたの影響でしょ!とりあえず全部ぶっ飛ばすんだから!」

 

ブルは戦慄いている。ルサルナが使った無慈悲な攻撃をウルが真似している。これは許せない。

 

ルサルナは必死に否定している。

確かにやったが、教えてはいない。

それよりも見敵必殺とでも言わんばかりのウルの行動が、ブルのせいだと言っている。

 

どちらにせよ教育には良くなかった。

親の背を見て育つとは、よく言ったものである。

 

喜んでくれるかと思ったウルは少し困惑していた。

指は上手く鳴らなかったが、敵っぽいのは倒せた。

しかし二人は言い合いをしている。

 

「ね、わたしえらい?」

 

ブルとルサルナははっとした。

褒めたい、しかし…と悩む気持ちもある、が

 

「流石はウルだ!良くやった!」

「魔法、良かったわ!すごく上手よ!」

 

結局は褒めるのだ。

褒めたときにウルが嬉しそうにするから、なおさら言えなくなる。

自分がやっているだけに、言えない。

 

 

 

 

 

二人はウルが眠った後、自分達が蒔いた種をどうするか悩むことになる。

 

 

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