なんかよくある話   作:天和

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ブルの武器を棍棒と表記していましたが、金棒に変えています。
イメージは鬼が持っているやつです。


好みはそれぞれという話

 

小さな町スメイル。

 

そこは特産品などなく、魔獣に襲われやすかったり、犯罪者が跋扈しているようなこともない、ただの平和な町。

 

しかし町にはとびきりの美人が看板娘をしている料理屋があり、そこの料理もとても旨いと言う。

 

それと、この町にはある噂がある。

この町の美人を無理矢理手籠めにしようとすると、罰が当たるのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「また来てくれよな!」

「いつでも歓迎するぜー!」

「旦那と上手くヤりなさいよー!」

「本当にお世話になりました!」

「ありがとうございました!」

 

声援やら余計な世話やら感謝やらを受けながら、三人は旅を再開した。

 

元々ウルが持っている魔法の鞄は土産でいっぱいになっているが、町の人達が感謝の品として新しい鞄を渡している。

 

真新しい背負う型の鞄を抱えながら、ウルはるんるんと歩いている。

その鞄には店主が作った弁当だけが入っている。

 

ふんふんと鼻歌交じりに歩くウルと手を繋ぐ男女の顔はとても、とても穏やかだ。

 

何一つ悩みも心配もなさそうな顔で歩く男女はブルとルサルナ。

無垢な少女を広範囲殲滅型に育成している罪人である。

 

二人は昨夜、穏やかな顔で眠り、そして清々しい顔で朝を迎えていた。

波一つ立たない心でウルを愛で、歓声を受け、そして歩いている。

二人は、なるようにしかならないということが分かったのだ。

 

無論、ぶっ飛ばす前に考える事は教えるが、自分達の背を見て育つのだ。

本当に駄目なことを真似したら叱ろうと考えた。

 

ある意味での悟りであった。

 

 

そんな三人に近づく影。

魔獣である。

 

ブルとルサルナはいち早く気付いており、迎撃の態勢を既に取っている。

 

ウルは後ろに庇われながらも小石を拾っている。

 

その行動に疑問を抱いた二人だが、ものすごく嫌な予感がしていた。

 

ウルはそのまま大きく腕を振りかぶり、勢いそのままに小石を投げ放った。

投げられた小石は凄まじい速度で魔獣に突き刺さる。

 

 

なんてことはなく、へろへろと飛んで二人の少し前で転がった。

 

「にぃみたいにできない…」

 

ポツリと呟くウル。

もしや出来てしまうのかと凄まじい緊張感から開放された二人。

 

八つ当たりのように魔法を撃たれ、金棒を振るわれた魔獣は魔核すらも残らなかった。

 

昼頃になり、貰った弁当を食べたウルは疲れもあり、お昼寝に入っている。

 

そんなウルを背負いながら、ブルは呟く。

 

「敢えて聞いてなかったが…ウルの身体能力はどうだ?」

「多分、魔法に特化してると思うから…そこまで強くならないはず…獣人だからそこそこあるとは思うけど」

「…俺の真似が出来る可能性は?」

「…ないとは、言えない」

 

そっと二人して眠るウルを伺う。

ウルはブルの背中によだれを垂らしている。

 

 

「…やらしてみるか?」

「ウルが自分の身を守るためだもんね…仕方ないわよね…」

 

二人は決断する。

少しだけ楽しげに見えるのは間違っていない。

 

「ちゃんと常識も教えるわよ」

「…それは頼んだ」

 

ブルは目を背ける。

ルサルナは呆れてため息を吐く。

 

なんだかんだで相性の良い二人だった。

 

 

 

 

「ウルは武器を持つなら何がいい?」

「大きくなったらだけどね」

「ぶき…?」

 

ウルが起きてから暫くして、二人はウルに問いかける。

 

 

ウルは自分が武器を持つ姿があまり想像出来なかった。

出来なかったが、分かることはある。

 

 

「よくわかんないけど、にぃのそれはやだ」

「ぁ…ぇ…?」

「あはははは!」

 

金棒を指差し断言するウル。だってかっこわるいもん。

声にならない声を漏らして立ち尽くすブル。今にも崩れ去りそう。

弾けたように笑うルサルナ。腹を抑えての爆笑。

 

「なんで…?」

 

つい口から零れた言葉とともにブルは思い出した。

ウルと出会ってすぐのこと。

 

いや、言わないでくれ…頼む…!

 

「にぃはかっこいいけど、それはかっこわるいもん」

「っ」

「っふ!けほっあは!ごほっこほ」

 

さらりと崩れ去るブル。波打ち際の砂山よりも脆い。

既に呼吸が怪しくなっているルサルナ。畳み掛けるような連撃に膝をついている。

 

ウルは遥か格上を纏めて撃沈する偉業を成した。

 

 

 

「もう…このことに触れるのは辞めよう…いいな?」

「あ、はい」

 

暫くして幽鬼のように立ち上がったブルは言った。

あまりの哀れさに頷くルサルナ。

ウルは空気を読んで黙っていた。

 

言うべき意見ははっきりと言い、余計な事は口にしない。

ウルは優しく、そして賢かった。 

 

ウルはそっとブルの手を握りながら見上げ、笑いかける。

なんの悪気もないが、それは追撃であった。

 

 

ブルが顔を背け、少し涙を零したとき、ルサルナはそっと手拭いを手渡し、言った。

 

「好みは人それぞれだから」

 

ブルは小さく頷いた。

いつも大きな背中が、なんだか小さく、そして煤けて見える。

 

ここまでくると、笑えないくらい哀れなものね

 

そんなことをルサルナは思った。

 

 

 

あまりにも動揺が大きいのか、やや覚束ない足取りのブルとそれを引っ張るように歩くウル。

二人を眺めながら歩くルサルナ。

 

三人は次の町を目指す。

 

 

行き先は大都市間の中継を担う都市、リロイ。

 

商人の力が強い都市である。

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