なんかよくある話   作:天和

3 / 129
お出かけする話

 

…暑い、それからちょっと苦しい。

 

目が覚めて見えたものは宿屋の天井…と、少女の頭。

こいつすり寄るだけじゃなくて乗り込んできやがった。

しかもよだれ垂らしてやがる。ため息。

 

「お嬢、起きろ。起きてだらしねぇ顔洗え。」

「…んや」

 

ぎゅぅっと服が握りこまれる。まだ寝足りないらしい。

ため息を吐いて起き上がる。

少女はしがみついてくる。

 

…仕方なし。

 

大きなナマモノを抱いたまま、部屋を出る。

 

「おはようさん。…あんたら親子だったっけ?」

「…とりあえず水くれ。目ぇ覚まさせる。」

 

女将は朝から元気いっぱいのようだ。

対して男はため息が止まらない。

水を貰って部屋に戻る。絞った布切れを少女に渡そうとする。

 

「こいつ寝てやがる…!」  

 

少女は抱かれたまま眠っていた。安らかな寝息が聞こえる。

今までどうやって生きてきたんだ。

男はそう思いつつ、呆れたまま少女の顔に布を押し付ける。

 

「おら、さっさと起きろっての。」

「ん、や、あぅ…」

 

わしゃわしゃと顔を拭き上げ、よだれも拭き取る。

なんとなく不機嫌そうな少女の視線を流しつつ自分も顔を拭く。

 

「うし、飯だ、飯食うぞ。」

 

じとっとした視線を感じつつ、部屋を出る。

女将に食事を頼み、自分で食べようとしない少女に餌付けしつつ今後について考える。

 

…考える、が。

 

どうにも少女をそこらに置いていくつもりになれない。

この警戒心やら危機感が全くなさそうな少女を。

 

“今までなんとかなったし、なんかちょっと楽しいし、まぁいいか”

 

男は考えるのは苦手であった。そこで今を楽しもうと思った。

とりあえず少女をからかおうと、口元に差し出したパンを引く。

少女は素晴らしい反応でパンに食いついた。

 

「お、いい反応じゃねぇあいたたた!」

「むー!」

 

少女はパンをしっかり飲み込むと間髪入れずに男の手に噛み付く。

昨日よりちょっと強い!

平謝りする男。既に尻に敷かれている。

女は強い。年齢に関係なく。男は一つ賢くなった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「さて、と。嬢ちゃん、ちょっと出かけんぞ。」

 

ワチャワチャしながら食事を済ませ、男は言った。

胸元にナマモノを抱っこしたまま外に出る。いい天気だ。

 

「どこ、行くの?」

 

小さいが、確かに少女の声。男は感激した。

 

「嬢ちゃん、お前話できるんだなぁ…!俺は嬉しい…!」

「む、あぅ」

 

感激のあまり頭を撫で回していると、ぺしっと手を叩かれる。

 

「おお、悪いな。感動のあまりに…今から行くのは金物屋と依頼屋のとこだよ。」

「かなものや?いらいや?」

「あー、金物屋は武器やら防具やら色々置いてるとこだよ。依頼屋は、あー、困ってる人達を助けるとこだな、うん。」

 

ぽやんとしている少女。男は困る。

 

「まぁ、見てたら分かる…多分。」

 

 

 

暫く歩いて。

 

 

 

「ここが金物屋だ。」

 

言いつつ男は中に入る。

そこそこ広い中には様々な物が置かれている。

少女の目は心なしか輝いている。

 

「お、良いのあんじゃねぇか。」

 

男の言葉に反応して少女が男の顔を見る。

視線を辿る。

顔を見る。

男がそれを手に取ったとき、少女の心なし輝いた目は曇った。

 

「ちょっと軽い…もうちょい重いほうが…でもなぁ…」

 

男は‘それ’を手に取りブツブツ言っている。

少女は流石に違うだろうと、‘それ’の横に置いてある剣だろうと思っていた。だって、そっちのがカッコいいから。

 

男が手にとった‘それ’は、強いて言うなら棒であった。

 

持ち手は握り易い太さに加工され、長さは男の半分以上あり、持ち手以外は太くなっていて、棘のような出っ張りがいくつもついている。

少女は一度目を擦り、もう一度男の持っているものを見る。

 

 

 

金属製の棒、だった。

 

 

 

「かっこわるい…」

 

少女はつい口に出してしまった。

でも隣の剣の方が間違いなくカッコいいもん。

 

ふと、男が静かになっていることに気付く。男の顔を見る。

…なんと言っていいか分からない顔をしている。

 

「こ、ここ!これだってなぁ!す、すごいんだからな!剣とか槍とかなんかより良いもんなんだよぉ!」

 

男は動揺している。子供だからこそ、その言葉は真っ直ぐなもの。

今までも色々と言われてきたが、一番心を抉る一言だった。

 

「でもかっこわるい。こっちのがいい。」

 

少女の指差す方は、剣。男、言葉なく撃沈。暫くは帰ってこないだろう。南無。

棍棒は優しく棚に戻されている。少女はさらっと男の手から降り、男をつついている。

 

「んっはっはっは!お嬢ちゃん、そんぐらいで勘弁してやりな!」

 

店の奥より髭面の男が大笑いしながら歩いてくる。

 

「ん?もしかしてあんた、“猪”か?」

「いのしし?」

「ん?あぁお嬢ちゃん。この男の渾名だよ、多分だが…ところでお嬢ちゃん、こいつの子供か?」

「ちがうよ?」

 

そうなのかと、髭面。男が再起動する。

 

「これを買いたい。いくらだ?」

 

男は少女の言葉を忘れることにした。あまりにも辛いので。

少女は男たちのやり取りを尻目に他の品物を見ることにした。

 

…かっこいいのがたくさん!

 

なお金棒等は除く。

 

 

 

うきうきしている男をじとっと見つめながら少女は歩く。

その手はしっかりと男の手を握っている。男はじとっとした目線には気付いていない。

 

 

 

少女は思う。

 

 

“やっぱりかっこわるい”

 

 

金棒は少女のお気に召していないようだった。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。