大都市間の中継となる都市リロイ。
様々な品が集まるため、人が多く各地の情報も得やすい。
華やかである反面、貧富の差が大きく、都市の一部に貧民街が形成されている。
また、貿易により急速に発展したせいか、大部分が好き勝手に増設され迷路のようになっている。
貧民街や迷路のような造りを利用し潜伏する者も多く、力ないものがあちこちをうろつくのは推薦されない。
相応の者であれば、迷路のような町から様々な物や情報を得られるだろう。
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「迷った」
「まよった?」
ブルは途方に暮れていた。
以前暫く滞在したことがあったために、自信満々で案内役を買って出たのだ。
なお、実際はあまり記憶に残ってない。
思い出すだろうと高を括ったのだ。
嫌な予感がしたルサルナだが、とりあえず従った。
そして早々にブルと、その背中に貼り付いたウルはルサルナとはぐれた。
揚々と歩くブルと、好奇心で目をきらきらさせたウルは、はぐれたことに気付かず進み続け、やがて迷った。
宿屋の目星をつけていただけ、まだ良かった。
そうでなければ合流が面倒なことになっただろう。
「めいろみたい」
「みたいというか、迷路だな。考えなしに建てるからだな」
「にぃみたいだね」
ウルにもそう思われてるのか、と衝撃を受けるブル。
物理には強くとも精神はそれより脆い。特にウル関係。
賢くなってきたウルはからかって遊びたい年頃。
ブルの反応がよく、とても楽しんでいる。
二人はまだ抜け出せそうにない。
一方、二人が彷徨っている頃ルサルナは既に目星をつけた宿についていた。
暫く待っても来ないことから、迷子になったのだろうと推測している。
「……休も」
町に詳しくない自分が闇雲に探したところで、すれ違いお互いに疲れるだけ。
ならば先に宿を取っておき、のんびりと待つのが良い。
ルサルナのいつもの凛とした姿はない。
なんだか猫背で、目もじとりとしており、大きなため息を何度も吐いている。
決して面倒だ、とか思った訳ではないはず。
「にぃ、あっちは?」
「いや、さっき行った道だ…こっちは?」
「いったよ」
未だに迷っている二人。
ウルの好奇心で晴れ渡る空のような目は、既に曇天のよう。
ブルの背中で溶けかけている。
二人の周囲、その建物や路地の角から迷う二人を伺う無数の人影。
ここの住人からすればよくあることだ。
間抜けにも迷い込んだなら少しばかり脅して金を無心する。
迷い込んだ場所が悪ければ何もかも失う。
今回もカモがやってきたとばかりに集まってきている。
しかし多くの者は、迷い込んだただの子連れかと思ったが、男から何とも言えない危険そうな気配を感じており、見るだけに留まっていた。
ブルもウルも気がついていた。
何かしてくる様子がなく放置していたが。
今回はウルも我慢している。
この町へ来るまでに、とても穏やかな表情で静かに諭されたのだ。
たとえ相手に悪意あっても、問答無用にぶっ飛ばすのはやめましょう、と。
その時の二人は夜空の向こう側を考えるような、よく分からない怖さのようなものもあり、ウルは頷くことしか出来なかった。
しかし、そろそろなんとかしたいとブルは思った。
ウルのお腹から鳴き声が聞こえ始めている。
きらきらなお目々もどんよりしている。
まともな料理屋も見当たらず、同じ景色ばかり。
都市に来てまで保存食を食べさせるのは忍びない。
ブルは決心した。
「聞こうか、道」
「うん…おなかへった…」
背中でヘタれるウルも賛成する。
まともに聞こうとしても逃げられるだろう。
では、親切な間抜けを釣りだそうとブルは考えた。
そしてブルはしっかりとウルを背負い、駆け出した。
様子を伺っていた者も驚く。
うろうろと彷徨い歩いていた奴がいきなり走り出したのだ。
危険だという直感に従い動かないもの、追うべきか迷って動きの遅れたもの、わざわざ追うほどに切羽詰まっていないもの。
そして、焦って追いかけるものもいた。
二人、追いかけてくる。
簡単に釣れたことにブルはほくそ笑んだ。
すいと路地の影に身を滑り込ませ、大跳躍。
建物を蹴りつつ、屋根に上がる。
「ウル、奴らが路地に入ったら後ろに降りる。そしたら逃げられんよう壁を作ってほしい」
「っ…!やる!」
背中にへばりついていたウルのやる気が漲る。もしくは殺る気。
焦って追いかけてきた二人が路地に入り、見失ったことを悔しがる。
その後ろにブルが降り立つ。
物音にびくりとした二人はブルの姿を見て驚き、逃げようとするも土壁に阻まれる。
「ウル、完璧だ」
「んへへ…」
ウルは褒められ上機嫌。
ブルはそのままゆっくりと歩み寄る。
震え上がる小柄な二人。
少年と少女らしい。
「さて…親切なお前らに聞きたいことがある。」
「くそっ!」
少年が投げた石をブルは掴み取る。
あわよくば怯んだ隙に逃げようと考えた二人だが、逃げられそうもない。
「親切な、お前らに聞きたいことがあるんだ。」
親切という言葉を強調して、ブルが言う。
石を掴み取ったはずの手が握り込まれる。
ヤバい音が聞こえて二人は息を呑む。
開かれた手からは砂のように細かくなった石だったもの。
「ひゅ…」
「ひぇ…」
ゆっくりと二人の目の前まできたブルはそれぞれの頭に手を乗せ、話し出す。
「大通りまでの道を…教えてくれないか?」
壊れたように頷く二人にブルはにっこり。
二人は固まる。蛇に睨まれた蛙。
「案内料だ…さぁ、行こうか」
二人に小銭を握らせ、肩に手を置き直してブルは言う。逃がすことなどない。
錆びついた道具のようなぎこちない動きで二人は歩き出した。
一連を見ていたウルはまた賢くなった。
道を聞くときはこういうやり方も有り。ウル学んだ。
ちょっと叱られようと、特殊な知識を身に着ける強かさをウルは持っていた。
いつの間にかかなり離れていたようで、大通りまではかなりの距離があるらしい。
のんびりと歩いていると、不意に子供たちが口を開く。
「今更かもしれないけどお兄さん、気をつけてね」
「見つかったらボコボコにされちゃうから」
「あ?どういうことだ?」
子供たちは警戒はしているが、最初ほど怯えたりはしていない。
理不尽な暴力を振るわれることがないと分かったからだ。
そんな子供たちにブルは疑問を持つ。
「私たちの姉さん、怖いのよ」
「僕らの姉さんは有名だから」
「そりゃあ…ご忠告ありがとよ」
よく分からないがとりあえず返事する。
ウルはお腹が減って話す力もない。
「多分、問答無用だから」
「ふんっ」
申し訳なさそうな少女と生意気な少年。
ブルはなんとなく質問する。
「お前ら、その姉さんもだが…血の繋がりあんのか?」
「いえ…私とこの子はこの町で拾われたの」
「僕とこいつも別だよ」
「なんとなく気が合いそうだ」
ブルは背中で力なくへばりつくウルに意識をやる。
歳の近い知り合いや友達がいてもいいだろう。
そんなことをつらつらと考えていると、纏わりつくような敵意を感じた。後ろからだ。
振り向くと物々しい様子の少女。
メイスを腰に差し、独特な形の短剣と針のような武器をそれぞれの手に持っている。
「あ、姉さん!違うの!」
「あはっ、待っててね…そいつ、ぶっ殺すから…」
「やっぱ駄目だよ!離れよう!」
少女が声をかけるも聞く耳を持たない様子。
少年は堪らず離脱を提案する。
「やっぱ気が合いそうだな…」
「にぃみたいだね」
のほほんとしたブルとウル。危機感がない。
少年少女から離れ、物々しい少女と対峙する。
年の頃はルサルナより下に見える。
灰色の髪、焼けた肌、鋭い赤い瞳。
スラムの人間にしては身綺麗で、武器もなかなかに良いものを使っている。
「私の家族に手を出す奴は、死ねばいいのよ」
少女は目にも止まらぬ速さで襲いかかってきた。