なんかよくある話   作:天和

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追い打ちをする話

 

きんっと銅貨の落ちる音。

 

先に動いたのはクレアだった。

魔力を練り上げながら稲妻のように駆ける。

 

ルサルナはその場から動かず、ただ静かに今まで使うことのなかった杖を地面へ突き立てる。

 

クレアが横に大きく跳ねる。

瞬間、クレアが進んでいた先に土柱が伸びる。

 

クレアは不規則に跳ね続け、時折牽制に風刃を放つ。

ルサルナは牽制を防ぎつつ、一瞬でも止まれば穿つと言わんばかりに土柱を生やしていく。

 

しかしクレアを捉えられない。

徐々にルサルナに近づくクレアは汗を流しながら冷静に機を待っていた。

 

まだ遠い…まだ…もう少し…後僅か。

 

一息で飛び掛かれる位置まで近づいていく。

ウルよりも速く鋭いが、連射はない。

舐めているのか、それとも出来ないのか。

あくまで焦らず、追い詰めていく。

 

……っ!ここ!

 

これまでより速く飛び出したクレアは瞬く間にルサルナへ肉薄し、鞘付きの短剣を突き立てる。

 

やれる!と確信した瞬間、思ってもみない速度で土柱が立ち上がり、短剣を大きく弾いた。

 

クレアは弾かれた衝撃を上手く利用し、後ろへ飛び下がる。

動揺が残るままに着地しようとしたその時、地面がほんの少し陥没する。

 

足を取られ体勢が崩れたクレアは咄嗟に転がり体勢を整えようとするが、既に遅い。

 

止まったかどうか怪しい程の僅かな間へ、差し込むように土柱が伸びていた。

 

顔面や胴体を掠めるように土柱が伸び、それはクレアを絡め取るように囲い込む。

当たるかどうかのところで伸びた土柱は、間違いなく絶技であった。

 

動きが鈍ったとはいえ、後出しで捉えきる速度。

動いている相手にぎりぎり当てない緻密な操作。

 

当てようと思えば駆け回るクレアにも当てられたのだろう。

わざわざ近接を許し、防いだ上での攻撃。

 

 

クレアは、相手にとって遊びにしかならなかったことを理解した。

勝ったとはいえ幼子にしてやられ、今もこうして遊ばれた。

悔しさと情けなさが一気に吹き出してくる。

 

クレアは静かに涙を零した。

 

 

 

ルサルナはクレアの動きを止め、とてもすっきりとしていた。

 

手を抜いたのはあるが、その中で全力を出せた。

自分の実力も概ね把握できた。

 

ルサルナはここ最近で実力が大きく増している。

元々高い腕前を持ったルサルナは、何かしらの刺激があればそれをさらに伸ばすことができる状態だった。

 

積み重ねた知識と実績はブル達と関わったことで一気に開花した。

 

しかし発揮する場所がなかったのだ。

魔獣相手に確認しようともブルが消し飛ばすので。

 

煽られたのもあるが渡りに船だったとも言える。

若干消化不良なのは否めないが。

 

 

もうちょっと付き合ってもらおうかしら。

 

 

そんなことを思いながら、爽やかな笑顔を浮かべたルサルナが見たのは静かに涙を流すクレアだった。

 

 

「……え?ちょ、え!?なんで!?」

 

全く想像していなかった状況に慌てるルサルナ。

魔力が乱れ、土柱が崩れる。

クレアはどっさりと土を被った。

 

遠巻きに眺めていたブルの言葉が耳に入る。

 

「うわぁ…追い打ちかよ」

「ち、ちち違うわよ!?」

 

ぶわりと汗が吹き出す。

おろおろとしながら駆け寄り、クレアの横にしゃがみ込み土を払う。

 

「や、あの…そのね?…ご、ごめんね…?」

 

それは傷口に塩を塗る行為だった。

思わず涙を流したところ土を被せられ、その後で謝られる。

 

内心嘲笑ってるのだ、この女は。

そう思っても無理はないだろう。

 

追い打ちに追い打ちを重ねられたクレアは、遂にしゃくりを上げ始める。

 

一層おろおろとするルサルナ。

 

「ウル、あれが死体蹴りっていう行為だ。敵にもやっちゃいけない下劣な行為だよ」

「げれつ…」

 

ルサルナの助けてという視線を見ないようにしながら、ウルに教えるブル。

ウルもしみじみと呟きながら頷いている。

 

悪くないのに怒られた事をしっかりと根に持っている。

ウルはご飯の時間を邪魔されたことを少し怒っている。

 

二人は暫くの間、なんとか慰めようとするルサルナを眺めていた。

 

 

 

ルサルナは俯き震えながら、正座をしていた。

 

目の前には幼子のように泣くクレア。

 

おろおろしながら慰めようとしたが、傷口に塩を塗りに塗ることになってしまった。

結果、余計に惨めな気持ちになったクレアは大泣きした。

 

そしてウルも下手に触れられず、ブルが慰めることになった。

とりあえず頭を撫でたブルは縋りつかれ困り果て、文句を言いたそうにルサルナをじっと見つめていた。

 

ウルはルサルナの横に立っている。

 

 

「死体蹴り…」

「したいげり…」

 

ボソボソと繰り出される言葉はルサルナの心に刺さっている。

 

これも死体蹴りのようなものだが、あえてブルはウルに言わない。

ここぞとばかりにやり返していた。大人げなし。

 

ルサルナは俯くことしかできなかった。

大人げなかったとか、恥ずかしいとか、申し訳ないとか様々な感情が渦巻いていた。

そこにブルとウルの言葉が突き刺さった。

 

ルサルナは震えながら泣き始めた。

 

 

ぎょっとするブルとウル。

二人ともどうしたらいいか分からない。

 

もしかして自分のせいなのかと、ウルは思った。

自分が言った言葉のせいで泣いたのかと。

ルサルナが大好きなウルは酷く動揺した。

 

何か言うべきか、何をすべきか。

 

何も分からなくなったウルは立ち尽くし、嗚咽を漏らしながら泣き出した。

 

 

ブルの思考は完全に止まった。

ルサルナにここぞとやり返したら泣いてしまい、しまいにウルまで泣き出した。

 

固まったブルは、何を思ったか宿屋に戻ろうと考えた。

 

金棒に座れるようにしてルサルナを背負い、両の手でウルとクレアを抱え上げた。

 

嗚咽やら鼻を啜る音やらを聞きながら、ブルは歩き出した。

思考が追いつかないのか、その表情からは感情が全く見えない。

 

 

町につく頃には、皆泣き疲れて眠っていた。

ブルは宿屋の前で立ち尽くしていたが、異様な雰囲気に宿屋の主人が気付き、慌てて中へ引き込んだ。

 

ブルは三人仲良くベットに寝かせ、優しく布団を被せた。

 

それから窓際まで椅子を静かに持っていき、空を見上げながら座りこんだ。

 

ブルは思考が未だに追いついていない。

ただ窓から空を見上げている。

 

やがて脳か精神かが過負荷に耐えられなかったのか、糸が切れたかのように眠りに落ちた。

 

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