なんかよくある話   作:天和

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仲直りと一歩踏み出す話。

 

ブルは意識を取り戻した。

 

いつの間に宿に帰ってきたんだ?

何かを忘れている気がする…

 

そんな事が頭を過る。

そのまま空を見上げていると、寝息や身動きする音が耳に入る。

 

何気なく音の方向を見る。

仲睦まじく、抱き合うように眠る三人。

 

ブルは雷に打たれたような衝撃を受けた。

 

 

尊いにすぎる…

 

 

ウルを真ん中に向かい合うルサルナとクレアの姿は、それはもう素晴らしいものだった。

ブルは何かを思い出す前に尊さの前にひれ伏した。

 

ありがたやありがたや…

 

拝むブルに何かを感じたのか、ルサルナとクレアが目を覚ます。

目を覚まして、頭一個分しかない距離で目が合い、びくりとして固まった。

 

目を見開いて固まる二人だったが、間のウルが不満そうにうにゃうにゃ寝言を発するのを聞いて視線を下げる。

 

二人してウルを抱くように寝ていた事に気付くと、ぽかんとして目を合わせ、どちらともなく笑い出した。

 

くすくすと笑う二人は再びウルが唸るのを聞いて、慌てて声と動きを止める。

寝ているのを確認しホッとした二人は目を合わせくすりと笑う。

 

口の動きだけで、後でと伝え合う姿は、似てはいないが仲の良い姉妹のようだった。

 

ブルは終始拝んでいた。

それに気付いたルサルナが水球をぶち当てるまで、あと少し。

 

 

 

起きたウルは不思議そうな顔で周りを見ていた。

口を半分開き、目も起きたばかりのためか半開きだ。

 

隣にはくすくすと笑い合うルサルナとクレア。

それに、なんでかびしょ濡れで椅子に座っているブル。

 

なんだかよく分からなかったが、楽しそうに笑う二人を見てどうでも良くなった。

 

ウルはとりあえずルサルナの胸に飛び込んで、嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

「あの、ごめんなさい…色々と…」

「私も…大人げなかったわ。ごめんなさい」

「ひどいこといってごめんなさい…」

 

落ち着いてから、三人は互いに謝った。

謝って、顔を見合わせて、また笑った。

 

楽しそうな三人を横目にしつつ、水を滴らせるブルは寂しそうに夕日を眺めていた。

 

 

 

「そろそろ飯でも食ってきたらどうだ?」

 

きゃっきゃと話し始めた三人にブルが言う。

 

「あ、確かにいい時間ね。」

「おなかへった」

「そういえば、昼も食べてなかったねー」

 

ブルの言葉で思い出した三人は食堂へ向かう。

 

話しながら出ていく三人を見送り、ブルは着替え始めた。

流石に水を滴らせながら食事をする気は起きない。

ついでに服も絞り、飛び散った水を拭く。

 

水桶に溜まった水を裏に流して一息つく。

疲れて飯を食う気にならねぇ、そうブルは思った。

 

そのまま散歩がてらに夜風にでも当たろうと歩き出す。

 

一人で行動するのは久しぶりだった。

思えばウルと出会ってからほとんど一人になったことがない。

以前は時々酒を飲んでいたが、それもなくなっていた。

 

強い寂しさと、少しだけ開放感がある。

ルサルナとクレアがウルと一緒にいるし、たまには酒でも飲むかと思いつく。

 

酒を飲んで馬鹿騒ぎする奴らを思い出す。

ウルと出会う前、酒は飲んでも旨いと思うだけで、別に楽しくはなかった。

今ならもしかして楽しいんじゃないかと思ったのだ。

 

ブルは寂しさを紛らわすように早足で歩いていった。

 

 

 

 

ブルが夜の町に消えていった頃。

 

「にぃがこない…」

「遅いわね」

「食べないこともあるんじゃないの?」

 

宿屋にいる三人は不思議に思っていた。

食事が運ばれてきても、まだブルが来ないのだ。

 

「いえ、ブルは自分が食べなくても来るわ…ウルの為に」

「そうなの?でもまぁ冷めちゃうし、食べながら待てばいいんじゃない?」

「そうね…ウル?食べながら待とうね」

「……うん」

 

ルサルナとクレアに促され、ウルも渋々食べ始める。

普段の倍ほど時間をかけて食べた三人だったが、最後までブルが来ることはなかった。

 

流石におかしいと思った三人は部屋に戻った。

 

「鍵が掛かってない…?」

「…何も無くなってないわね」

 

鍵は掛かっておらず、ブルはいない。

荷物が無くなっている様子もなく、水などが拭き取られている為、ブルが掃除したであろうことは分かった。

 

荷物と言っても、全て魔法の鞄に入っているが。

 

念のため鞄を持ち出し、宿の周辺を探すが見当たらない。

 

「どこに行ったのかしら?」 

「お兄さんも男だし…そういうのだったり?」

「私というものがいながら!?」

「そういう…?」

「男の人はねぇ」

「ちょっと!まだウルには早いわよ!」

「?」

 

ルサルナは焦る。

確かに妻だ嫁だと言いながらそういうことはしていない。

未だ手を繋ぐのが精一杯だった。

 

クレアは冗談で場を明るくしようとしたが、ルサルナの反応でなんとなく察する。

ルサルナに向ける視線が少しだけ哀れみを帯びている。

 

ウルは気になるが、ブルが近くにいない不安が勝っている。

 

「…一応、探してみましょう」

「そういう場所?」

「そういう?」

「……そうよ」

 

もしかしたらが捨てきれないルサルナ、苦渋の決断。

クレアは確信しているが、あまり突っつくのは可哀想だと思い、余計なことは口に出さない。

ウルはブルが見つかるならいいかと思っている。

 

「…行きましょう」

「にぃ、いるかな…?」

「いないほうがいいかもね…」

 

ルサルナは苦虫を噛み締めたような表情で歩き出す。

ウルは不安そうな顔。普段より強く手を握っている。

クレアはどうか見つかりませんようにと祈っている。

 

一行は重苦しい雰囲気で歩き出した。

 

その時ブルは酒を飲んでいた。

旨いが、楽しくはなっていない。

 

 

ルサルナ一行は遊郭へ来ていた。

子連れで、しかも三人とも女。

とても目立っていた。

 

好奇の眼差しを受けながらブルを探すが、いるのは着崩した格好の女性か、それを見て鼻の下を伸ばす男ばかり。

 

「すごいかっこう…」

「あれで男を悩殺するの」

「クレア!」

「にぃものうさつ?できるかな?」

「は、ぁ…!」

 

ウルの一言がルサルナに刺さる。

そういう格好をしてみるべきか…

 

クレアはその辺りしっかりと教えといた方がいいんじゃないかと思っている。

ルサルナはあんまり知識もなさそうだし。

 

ウルは意味は分からないが、男を悩殺すると聞いてブルを思い浮かべた。

可愛いとか褒めてくれるのかと思っている。

 

 

一通り見て回るも姿は見えない。

もし店に入っていれば分からないが、流石に中まで見て回ることは出来ない。

 

宿屋で待つことにして、とぼとぼと戻っていった。

 

 

 

 

 

酒を飲むブルは思った。

旨いが、やはり楽しいかと言えばそんなことはない。

寂しさだけが募り、ウルやルサルナの顔が思い浮かぶ。

 

もう戻ってウルに癒やされよう。

そう思い、金を払い店を出る。

 

はぁ…とため息。

旨いのは旨いが結局楽しくはなかった。

これなら宿屋の外で風に当たっているか、部屋で待っていたほうが良かった。

 

そうしてとぼとぼと歩いていると、後ろから走る音。

慌ててんなぁと思っていると、声が聞こえた。

 

「にぃ!」

 

聞こえた時には既に振り返り、受け止める姿勢になっていた。

そのまま飛び付いてくる小さな少女を受け止め、抱き上げる。

 

「えへへ…」

「もしかして探してたのか?ごめんなウル」

「すごくさがした…すてられたとおもった…」

「そんなこと絶対にしない!何があっても離さんからな…!」

 

頬ずりされ撫で回されるウルはものすごく嬉しそう。

きゃっきゃと笑いながらされるがまま。

 

「はぁ、どこ行ってたのよ?」

「お兄さん、探したんだよ?」

「ん?おう、ちょっと酒を飲みにな。もう戻るとこだったんだが」

「遊郭とか…行ってない?」

「行くわけないだろ」

 

ブルの言葉にホッとするルサルナ。

にやにやとそれを見るクレア。

 

何はともあれ合流したために宿屋へ戻ることになった。

クレアは途中で明日もまた来ると言い残して、自分の寝床へ帰っていった。

 

不安と探し回った疲れがあったウルは、一番安心できる場所に帰れた為か、早々に寝てしまった。

離れないとばかりに服を握りしめている。

 

ルサルナはこのままだとブルが他に靡くかもしれないことに気がついた。

ウルが離れることを嫌がるだろうが、ウルが懐いていれば、ブルは一緒にいても嫌がらない。

要するにクレアにブルを奪われるかもしれないのだ。

 

勢いで妻だ嫁だと言って否定されていないが、やはり夫婦っぽいことをするべきだろう。

ルサルナは恥ずかしさを捨てる覚悟を固めた。

 

宿屋に戻り、ウルが離れないためブルはそのままベッドに入ろうとしている。

ルサルナは勇気を振り絞り、行動に移した。

 

「ん゛っ゛!いったぁ…!」

「痛え!…え、なんで?」

 

甘い空気が欠片もない。あるのは困惑と痛みのみ。

勢い余ったルサルナはぶつけ合う事になり痛がっている。

ブルは突拍子もない行動に困惑している。

 

初めてのキスは痛みだけで甘酸っぱくない。

なんだか悲しくて情けないことになったとルサルナは思った。

 

「ルサルナ」

「なによぉ…ぁ、ん」

 

涙目で俯くルサルナは顔を上げられない。

 

すると片手でウルを抱いたブルに顎を上げられ、驚く間もなくキスを返される。

優しく行われたそれは、ルサルナに柔らかな感触と酒の苦味を残していった。

.

ブルは顔を背けている。

耳が赤く見えるのは気のせいだろうか。

 

「…おやすみ」

「え…あ、おやすみ…」

 

ブルは顔を背けたままベッドに横になる。

ぼんやりと返したルサルナは徐ろに唇を触る。

 

ゆっくりと撫でる間に頭の整理がつき、沸騰したように顔が赤くなる。

心臓が痛いほどに鳴っている。

 

ちょっとベッドに入れそうにない。

椅子に座り、手で顔を覆う。

 

 

ルサルナはもう眠れそうになかった。

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