なんかよくある話   作:天和

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ちょろい男と天然少女の話

 

「ここが依頼屋だな。」

 

男は少女の手を引き扉を開ける。そこそこ騒々しい。

少女は男の手を強く握る。男は軽く頭を撫でる。

 

入って正面には受付がある。年配の男女が数人ほど書類の処理やそこに並んだ人の対応をしている。

奥には食事処が見える。大半の人はそちらにいるようで、朝から酒を飲み騒いでいるようだ。

受付の隣の壁には色々と張り紙がある。男はそれらを眺めている。

少女も見るが、なんと書いてあるか分からない。

 

「ん」

 

少女はそれが何なのか気になり、男の手を引く。

男はあぁっと声に出しながら少女を抱き上げる。

 

「これにな、色々なお願い事が書いてあんだよ。」

 

例えばこれにはなっと男が指差しながら少女に言う。

男は頭が良くないが、少女に少しでも分かりやすいよう言葉を選んで説明をしている。

少女は抱っこに満足しているのか、黙って聞いている。

普段では見られない光景に、受付にいるおっちゃんおばちゃんもほっこりとしている。

 

そんな温かな光景に歩み寄る男がいた。

 

「おい兄ちゃん、ここは子守するとこじゃねぇぞ。」

 

後ろから声を掛けられる。振り向くとニヤニヤと柄の悪そうな男。少女は男の肩越しに視線をやり、興味なさそうに視線を戻す。

男は男で、そんなことに構うなら少女に何か教える方が良いと思い流すことにした。

 

「そうかい、忠告ありがとよ。」

 

男はそれだけ言って一枚手に取る。それを持って受付へ。

受付にいるおばちゃんにカードと紙を渡している。流れるような動きだ。

おばちゃんはにこにこと何かにカードを差し込んでいる。

 

「なにしてるの?」

「あぁ、これはな」

「おい!無視すんじゃねぇよ!」

 

大きな声と同時に肩を掴まれる。男、小さく舌打ち。

 

「まだなんか用があんのかよ。」

「てめぇみてぇに舐めてるやつは久しぶりだよ…!子守しながら今の依頼するつもりか!?」

「そりゃあんた、当たり前だろ。」

「てめぇ…!」

 

不穏な空気が広がっていく。受付から近くの人に視線が飛ぶ。

視線を受けた者の少数が直ぐに抑えられるように動き始める。

少女の目が柄の悪い男に向く。

 

「ねぇ」

 

少女の声。不思議と皆の耳に入った小さな声に全員の動きが止まる。

 

「しんぱいしてくれてるの?」

 

真っ直ぐな視線を受けた柄の悪い男がたじろぐ。

 

「そりゃよぅお嬢ちゃん、心配するに決まってんだろう?わざわざ危ないことせんでも…」

 

この柄の悪い男は本気で少女を心配していた。確かに少女を抱えるこの男は腕が立ちそうだ。しかし絶対に安全などとは言えない。男に何かあっても少女に傷が残るだろう。

 

男が手にとった依頼は危険度の高い魔獣の討伐。

柄の悪い男はもっと安全な依頼を受けさせようとしていた。

 

言葉や態度と裏腹に。

 

 

「だいじょうぶ」

 

再び少女の声。

 

「にぃはぜったいまもってくれるもん。」

 

瞬間、男に衝撃が奔る。

 

俺が、お兄ちゃん…?

俺はお兄ちゃんだった…?

 

「あ、あぁ…俺が、俺が兄ちゃんだ…兄ちゃんが守ってやるからな…!」

 

衝撃の余波が男の瞳から溢れ出す。

いつの間にか兄になった男は少女をこれでもかと撫で回し、抱きしめている。

 

男はかなりちょろかった。少女もなんだか嬉しげである。

 

年配の方々も貰い泣きしている。手拭いが足りていない。

近くにいた者もなんだかよく分からないが拍手をしていた。

感動的なようでとても混沌としている。突っ込む者は誰もいない。

 

 

「…あぁ!分かったよ、たくっ。だがな!この依頼、俺もついていく。お嬢ちゃんがどんだけ信頼していようと俺は納得できねぇ!」

 

柄の悪い男は目の前のやり取りに完全に毒気を抜かれていた。

が、それはそれ、これはこれ。ついていって、何かあった際には守る、と決意を固めていた。

 

 

意気投合し始めた男達が依頼について話し合っている。

少女は満足気に男の胸元に収まったまま。お気に入りの場所となっている。

 

 

食事処から一連を眺めていた者たちが話している。

 

「なぁ、あいつあんな子供好きだったか?」

「いや、少女嗜好じゃねぇか?」

「えっまじか…5,6歳くらいじゃねぇの?あの子…」

 

 

 

柄の悪い男はこの日から‘子供好き’の渾名を付けられた。

良いように聞こえるがそういうことである。

 

これが良い意味になるかは、今後の行い次第となる。

 

 

 

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