誤字報告ありがとうございます。
誤字がないよう注意しますが、あればまたお願いします。
おねむのウルを抱えながら、ブルは宿屋へ戻ってきた。
出掛けてからそこまで時間が経っていない。
起きているだろうかと覗き見ると、ルサルナもクレアを抱きながら良く眠っていた。
日が落ちるまではまだ時間がある。
少し出ようかと思い、ウルをベットに寝かせようとしたが、服を握りしめ離れる様子がない。
まぁ急ぐ必要もないし、さっきのことも後で問題ないだろう。
ウルと一緒に布団へ潜り込みつつ、ブルはそう考えていた。
日がどっぷりと沈んでから、ブル達は同じくらいに目を覚ました。
実は大分前から起きていたクレアは寝たふりを続けていたが、ルサルナに起こされ渋々寝たふりを辞めた。
ウルは半分くらい寝たままである。
時折こっくりと頭が振られ、はっとしたように目を開いている。
「帰って来たなら起こしてくれて良かったのよ?」
「あぁ…まぁウルも眠そうだったし良いかと思ってな」
「まぁ何かあるわけでもないものね…んー、ご飯でも食べに行きましょ?」
「ごはん!」
「ウルちゃんいきなり起きたね」
うとうとしていたウルがご飯に反応してぱっちりと目を覚ます。
それを見てくすくす笑う三人。
一先ず食堂へと向かえば数人ほど食事を取っており、その中には老齢の男もいた。
その周囲は狙ったように空いている。
「あ…そういやそうだった」
「え?何かあったの?」
「あー…とりあえずあの爺さんのとこ座ろう」
後回しにして寝たために頭から抜け落ちていたブル。
説明のためにも席へ皆を誘導する。
「ほほ…よく休めたかの?」
「たっぷりな…悪いが爺さん、まだ説明してねぇんだ。寝て忘れてた」
「それは困るのぅ。いつ頃に闘技場へ向かうのか確認しに来たのでな」
「あぁ、ちょっと先に説明しとくわ」
そう言ってブルは疑問を浮かべている二人に説明する。
説明すると言っても、とても大雑把なものだ。
頭が痛そうにルサルナが話す。
「つまり昔の因縁のある奴が襲ってくるかもしれないと。それにあなた達が化け物すぎて、せめて闘技場でやって欲しいってことでいい?」
「ほほほ、そういうことじゃの。それで、やるならば何時にするのか聞きに来たのじゃ」
クレアは強者同士の戦いが見れるとあって興奮している。
何時やるのとキラキラとした目でブルを見ている。
ウルはしれっと料理を頼んでいた。
「あーまぁ、早いほうがいいだろ。明日の昼で良いんじゃないか?」
「あなたが良いのならね…」
正直なところやる気のないブル。
クレアの視線に耐えかね重い腰をあげている。
ルサルナはまた厄介事だと頭を抱えている。
「では、こちらから昼頃と伝えておくとしようかの。なに、戦えると分かればいきなり襲いかかってくることはないはずじゃ」
にこにこと話す老齢の男。
何時やるかなど聞くのも訳がある。
やはり住民が多いほどに、娯楽に飢えている者が増えるのだ。
死んでも自己責任だと周知しても見に来るものは多いだろう。
そうするとやはり金が動く。
どうせ幾らかは闘技場も破壊されるのだ。
金を集めるだけ集めないと損が増えるだけとなる。
ある程度事情を知っている者たちは、どうせ死にはしないと思ってる馬鹿どもから金を絞ることにしたのだ。
「監視は継続か?」
「それは少し我慢なされよ」
「監視ついてたの…?」
「部屋まで覗いておらんよ」
初耳だと眉間に皺を寄せるルサルナ。
覗いていたら去勢してやるつもりだった。
ウルは一人届いた料理を美味しそうに食べ始めている。
「では…儂はこれで帰らせてもらおうかの」
「ああ、じゃあな爺さん」
「ばいばいお爺ちゃん!」
「はぁ…」
ブルは平然と挨拶を交わしているが、ルサルナはそんな気分になれなかった。
クレアは面白いものが見られそうと上機嫌。
弾むような声でさよならを言っている。
「とりあえずご飯食べましょ?」
「そうだな」
「あれ!?ウルちゃんもう食べてる!」
各々注文し、食事を食べ始める。
ウルはぽっこりしたお腹を抱えながらブルの膝に座っている。
「ブル、大丈夫なの?」
「いけんだろ…多分」
「全力でぶっ飛ばしてね!」
ルサルナは心配そうにしており、クレアは楽しんでいる。
一方ブルはとても面倒そうな顔をしている。
「そうじゃなくて、怪我とか…心配なのよ?」
「あぁ、そうか。そうだな…多分怪我ぐらいはするかもな…」
「お兄さんが怪我…?」
「クレア?これも一応人なのよ?怪我ぐらいするわよ…恐らくね」
「すっごい疑わしいんですケド」
「お前の魔法で切り傷出来てたんだが…」
自分で言っておいて疑わしくなるルサルナ。
クレアはブルが怪我をする事が想像出来ない。
一応ブルの言う通り切り傷はつけたことがあるが、それでも疑わしかった。
ウルはあんまり心配していない。
ルサルナもクレアも、森の半分が吹き飛んだと聞いても実感が湧かない。
流石にある程度誇張されたものだろうと思っていた。
そして翌日、いつも通り起きて食事を取る一行には、緊張感も心配も見られない。
ルサルナもなんだかブルの心配をするのが馬鹿らしく思えていたのだ。
そのままのんびりと店を見て回ったりして過ごした一行は、闘技場へ向かっていく。
進むにつれ人が多くなり、闘技場の前は人の壁が出来上がるほどに住民が集まっていた。
どうするかと足を止める一行に、またも老齢の男が近づいてきた。
「ほっほっほ、すごい人集りじゃのぅ。ほれ、お主らは儂についてきなさい」
言うだけ言って歩いていく老齢の男。
ブル達は顔を見合わせ、ついて行くことに。
ついていった先には警備兵に守られた扉。
「ここから入れば特別な部屋まで行くことが出来るのじゃ。連れのおなごはそちらに案内しようぞ」
「俺はどうする?」
「お主もまずは同じとこじゃ。後から控室に案内するから安心なさいな」
そうして老齢の男は警備兵に何かを見せる。
警備兵はそれを確認し、頭を下げてから扉を開ける。
「お爺ちゃん偉い人なのかなー」
「まぁ最低でもそれなりの立場でしょうね」
少しばかり警戒しながらもついて行く一行。
案内された部屋は質の良さそうな調度品が数点置かれ、質素ではあるが居心地の良さそうな部屋だった。
闘技場内もよく見渡せる位置に作られている。
ついでに壁際には使用人と思われる人員もいる。
「お偉いさん専用の部屋じゃよ。飲み物や食べ物は壁際におるものに一声かければ良い」
「成金みたいな部屋じゃなくて良かったわ」
「いい感じだね!」
早速クレアは食べ物と飲み物を頼んでいる。
なかなかに図太い。
「ありがとよ、爺さん。ところで俺はいつ行けばいい?」
「今からでも良いぞ?相手はいつでもいけるようじゃからのぅ」
「なら行くか…ルサルナ、ウルを頼む」
「…気をつけてね」
「にぃ、かんばって?」
「頑張ってねー!」
「おう、見とけ兄ちゃんの勇姿を」
「ほほ、期待しとるぞ…そこの、案内してやれ」
使用人の一人がブルを案内する。
控室にも入らずそのまま舞台へ向かう。
ブルに気負いはない。
とはいえやる気はそこまでない。
殺しはなし、五体満足でとなると手加減が必要だろうとおもっている。
使用人に見送られ、廊下を歩いていくと舞台が見える。
舞台上には大男が一人。
「やっと…やっと会えたね?猪さん…」
はちきれんばかりの筋肉。
常人の男より頭二つは大きいかという身長。
鉄板をそのまま剣に加工したような荒々しい武器。
見た目にそぐわぬ高めの声。
「僕の憧れ、僕の夢、僕の…大好きな人」
「……ケツがぞわぞわしやがる…」
目の前の大男は体に似合わぬ童顔を紅潮させ、服の上から分かるほどに勃たせていた。
ブルはあまりに濃い見た目と発言に完全に引いていた。
戦意もかなり削られている。
「あ、は…あはっあはは!今日こそ僕が勝って、飼ってあげるよぉ!!」
地面が砕けるほどの踏み込み。
遠目に見る観客には一筋の線が走ったように見えるほどの速度。
ブルは咄嗟に金棒を振りかざし鉄板を受けるが、不十分な姿勢もあって踏ん張れずに吹き飛ばされる。
数秒滑空し、壁に罅が入るほどの勢いで叩きつけられる。
が、“寅”の猛攻は止まらない。
吹き飛ばした後直ぐに追撃し、膝を付くブルに勢いを乗せた振り下ろし。
後ろの壁ごと粉砕する一撃により粉塵が巻き起こり、観客からは全く見えない。
しかし凄まじい轟音のみ響き渡る。
何度目か響き渡った轟音とともに、舞台の中央まで吹き飛ばされる人影。
「え?にぃ…?」
「嘘でしょ…」
「お兄さん!?」
舞台の中央には血を流すブルが倒れていた。