なんかよくある話   作:天和

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決闘の決着の話

 

ウルの目が見開く。

その先には血を流し倒れるブル。

 

ぽつりと声が漏れる。

 

ウルの中ではブルは無敵だった。

 

家ほどある魔獣もただの一撃で叩き潰し、大勢の悪者もバッタバッタとなぎ倒す。

攫われてもあっという間に探し出し助けてくれる。

クレアとの戦いのときも片手に自分を抱えながら、連撃を躱し魔法を打ち消し、容易く勝利していた。

 

誰よりも強く優しくて、一番信頼するお兄さんだった。

 

 

 

ルサルナは今見ているものが信じられなかった。

 

思わず立ち上がり、呆然と呟く。

 

ルサルナはブルを容易く倒せる相手などいないと思っていた。

 

石を熟れた果物のように握り潰し、金棒を振れば地面に大穴を開ける。

旅の途中ではあり得ない距離から魔獣や人を感知し、そこらの石を投げるだけでそれらを葬る。

身のこなしも常人のそれではない。

魔法すら察知して、金棒を振り回すことでかき消してしまう。

 

人という枠に収まるか怪しいほどに強い男だった。

 

 

 

クレアは純粋に驚いた。

 

驚きために悲鳴のような声を上げる。

 

クレアはブルと会って間もない。

しかし、その力は身に沁みて分かっていたつもりだった。

最初に会ったとき、クレアはウルを庇いながら戦うブルに手も足も出なかった。

唯一当たった風刃は殺傷力が高く、視認も出来ないクレア自慢の魔法だった。

それが直撃しても薄皮一枚切れた程度。

素の防御力も異常に高いのだ。

その上怪力で機動力もあり、獣より鋭い感知能力を備えている。

その後も腕試しでボコボコにされている。

 

正直に言って化け物だった。

 

 

 

三人が呆然とする中、粉塵の中から現れる大男。

その顔は酷く歪み、耐え難い何かを耐えているようだ。

 

あまりに早い展開に、観客がようやく追いつく。

 

「おいおい!ふざけんなよ!」

「こんなしょっぱいの見に来たわけじゃねぇぞ!」

「金返せよおらぁ!」

「何が死んでも自己責任じゃ!」

 

観客の罵声と手に持ったゴミが舞台へ降り注ぐ。

大男はそれらに気が付かないように俯いている。

ぎちぎちと握り締められる両手。

 

 

「巫山戯るなぁ!!」

 

 

ビリビリと空間そのものが揺れるような大声。

あまりの絶叫に観客の動きが止まる。

 

「僕…僕の、憧れは…夢はこんなんじゃない!」

 

「腑抜けたのか…?あそこの奴らか?あなたをこんなつまらない男にしたのは…」

 

大男とウルの目が合う。

 

「お前…お前なのか?お前みたいなガキのためなのか!?」

「ひぅ…」

 

ウルはその狂気じみた瞳に見られ、縛り付けられたように動けなくなる。

 

ウル達がいる場所は飛びかかれる高さではない。

しかし今すぐにでも窓から乗り込んできそうな恐ろしさがある。

ルサルナとクレアは恐怖に駆られながらもウルを庇うように動く。

 

 

「こ、殺してやる…肉片一つ残らず消してやる…!」

 

ずん、と大男が踏み出した、その後ろ。

ブルが音もなく身体を起こしている。

 

「良い感じの連打じゃねぇの」

 

ばっと振り向く大男。

その顔は先程と違い、喜色に染まっている。

ブルはゆっくり立ち上がる。

 

「あぁ…!猪さん…!終わっちゃったかと思ったよ!」

 

ブルは聞いてないのか金棒を地面に突き刺す。

どん、と大きな音が鳴り、突き刺すなど出来ないはずの金棒が地面に突き立てられる。

ブルはそのまま身体を解すかのように首や肩を回し、乱雑に流れる血を拭う。

 

「ん、あー…まぁ肩こりがちょっと解れる程度には良かったかもな」

「へぇ…そんななりでよく言うね」

 

軽く調子を確かめ突き刺した金棒を抜き、構える。

 

「てめぇそういえばさっき俺の妹になんて言った?」

「あのガキ、妹なの?あんな貧弱そうなのが?」

「……」

 

ブルの目が細まる。

 

「殺してやるって言ったよ。猪さんには毒でしょ?」

「あ、そう…ふぅん」

 

金棒を担ぐ。前のめり。

防御など欠片も考えていない姿勢。

 

「じゃあ腑抜けた俺が遊んでやるよ…腑抜けてもお前にゃ遊ぶ程度で十分だろ」

「あはぁ…!いい…すごくいい…!それでこそ飼い甲斐があるよぉ!」

 

ブルの姿が消え、大男が武器を振り上げる。

がぉん!と大きな音。

武器がかち合った瞬間には、ブルの蹴りが大男に炸裂していた。

大男は先程のブルのように吹き飛び、壁を砕いて止まる。

その時には音すら置き去りにする振り下ろしが炸裂していた。

大男は間一髪避けたが、振り下ろしは壁を粉砕し、なお勢い衰えず地面に叩き込まれる。

 

轟音とともに崩れる壁、地面に作られる大穴。

 

「球遊びってやったことあるか?」

 

不思議と大男の耳に届く声。

 

ブルは間髪入れず、大男へ横薙ぎを放つ。

避けられないと大男が武器で受けるも、まるで玩具のように跳ね飛ばされ観客席に落ちる。

数人ほど押し潰され周囲も悲鳴を上げているが、二人とも知ったことではない。

 

既にブルは大男の頭上に迫っていた。

 

「お前が“球”な」

 

落下の勢いまで使った渾身の振り下ろし。

それは観客席の一部を崩落させるには十分すぎる一撃だった。

 

観客を悲鳴もろともに飲み込み崩れさる足元。

それらの瓦礫が落ちきる前に、大男は壁を粉砕しながら吹き飛んでいた。

 

 

「ひゅー!やれやれー!」

 

上から眺めるウル達の表情は先程と全く違う。

ウルは安心して泣きそうな顔で見ており、ルサルナはなんだか呆れた顔。

あーこうなるよねと、そんな顔をしている。

クレアはとても楽しげ。

安全そうなのを良いことに焚き付けるように応援している。

 

「やっちゃえー!」

 

クレアにつられてウルも声援を送る。

なんだか動きが激しくなった気がする。

 

大男が空を舞い、叩きつけられ、また空を舞う。

瞬く間に崩壊していく闘技場。

あまりの激しさに徐々に声が小さくなるクレアとウル。

 

 

「これじゃ。これこそ“猪”たる所以じゃよ」

 

老齢の男は呟く。

ただ只管に相手に真っ直ぐ飛び出し、叩く。

猪突猛進という言葉がこれほど似合う者はいないだろう。

 

しかしそんなことより…

 

「そろそろ逃げねば危ないかのぅ」

「…あ!確かにそうね!」

「だいじょうぶ」

「ウルちゃん?」

「にぃはわたしをまもってくれるもん」

 

ウルは断言する。

ブルはずっと守ってくれた。

今までも、これからも。

ならば、ここにいて大丈夫だと。

 

「ふふっ、まだまだウルには敵わないわね」

「えぇ…?ほんとに…?」

「ぜったいだいじょうぶ」

 

ルサルナはウルを抱きかかえ椅子に座りなおす。

クレアは半信半疑だが自分だけ逃げるのは、とルサルナに引っ付くように座る。

 

「なら儂もここにおろうかの」

 

そう老齢の男が言った瞬間、砕けた石が窓を割り、調度品の一つを粉砕する。

幸い窓や調度品の破片が誰かを傷つけることはなかったが…

 

使用人含め全員が言葉なく窓を見て、調度品だったものを見る。

 

「…ウル?」

「ウルちゃん?」

「お嬢ちゃん?」

「……だ、だいじょぶ」

 

誰もが冷や汗を流している。

 

ウルのブルに対する信頼が、ほんの少し揺らいだ瞬間だった。

 

 

 

未だに大男を蹴鞠でもするかのように飛ばし続けているブルは嫌な予感がした。

 

なんだかウルが怒っているような…

 

思わず手を止め、ぶるりと身を震わす。

改めて周りを見てみるとそこは地獄絵図だった。

 

既に闘技場の大半は崩れている。

無事なのはウル達がいる場所とその周囲のみ。

 

観客は瓦礫の下敷きになったり、ブルの攻撃による破片などを受けたりしており、死人は数え切れないほどだった。

ちらりとウル達がいる場所を見ると窓が割れている。

 

「あ、やっべ…」

 

あれが怒りの原因だと直感が囁きかけてくる。

割れてない窓越しにウルと目が合う。

じとりとした目。

 

ルサルナ達がいるから大丈夫だろうと早々に目を逸らし、大男の方を向く。

 

大男は既に全身血塗れになっていた。

 

「はぁ…猪、さん…や、やっぱり、はぁ…僕の、憧れだ…!」

 

武器を杖代わりにしながら、しかし倒れそうな様子はない。

これ以上壊す前にぶっ倒すかと、ブルは考える。

 

しぶとい野郎を手早く処理するには、締め技。

ブルは直ぐに行動に移した。

 

同じように飛び出し、今度は武器を狙い全力で金棒を振り抜いた。

 

がぎぃん!と凄まじい速度で飛んでいく大男の武器。

流石に大男も弱っているのか、動きに精彩を欠き、手には先程までの力もない。

 

ブルは流れるように首を掴む。

抵抗を受けるも、潰さぬ程度に締め上げながら大男を振り回し、地面や壁、瓦礫に叩きつける。

 

五回、十回、二十回と繰り返すうちに、いつの間にやら大男の抵抗がなくなっていた。

念のため追加で十回叩きつけてから、最後にもう一度、今度は渾身の力で足元に叩きつける。

 

「我ながら完璧な締め技だな…」

 

締め技とは…?と突っ込むものは誰もいない。

皆それどころではない。

 

ブルは足元の男を見る。

大男はぴくりともしない。

 

恐る恐る口元に手をかざす。

 

…呼吸はあるし、とりあえず生きてる。良し。

 

これでこいつも満足しただろうと思い、ブルはウル達を迎えに行くことにする。

ウルに勇姿を見せれたのでは?などと考えているその足取りは軽い。

 

 

 

 

 

迎えに行った先で、とってもご立腹なウルに思わず正座して許しを請うことになるとは思ってもいない。

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