ブルが闘技場めちゃくちゃにしてから数日。
ウルは非常に機嫌が良かった。
今は珍しく肩車をしてもらい、ブルの頭をここぞとばかりにわしゃわしゃとして遊んでいる。
驚くことに、出歩いていてもこそこそと何かを言われることがなかった。
闘技場をぶち壊し、そこそこの死者が出ているにも関わらず、都市リロイの時のような事になっていない。
ここまでくると逆に怖くなってきたと、ルサルナは思っている。
ブルは恐らく何も考えていない。
クレアはある程度分かっていて気にしていないのだろう。
何にせよ過ごしやすいことは良いことだと思うようにするルサルナだった。
「新しいの探さないとな」
頭に降り積もる焼き菓子の欠片を払いながら、ブルが呟く。
一応使えないことはないが、また同じような戦闘が起きてしまえば耐えられないだろう。
本気で使うことは少ないとはいえ、念のために持っておきたかった。
「お兄さん、また金棒にするの?」
「そりゃな…あれが一番強くて頑丈なんだよ」
「えー…かっこわるむぐ…」
「ひぐっ…」
背伸びしてウルの口を塞ぐルサルナ。
流石にブルが可哀想な気がした。
だが、若干間に合っていない。ブルの心の傷が少し開いている。
「あ、あれよブル、他の武器とか使ったことないの?」
「んむぅ…」
可哀想なので意識を逸らそうとするルサルナ。
ウルが少し唸っている。
「あ、あぁ…一通りは使ったことはあるはずだ」
「ぷはっ、けんとかつかわないの?」
ルサルナの手を剥がしたウルは言う。
格好良い武器を使ってほしいのだ。
剣とか槍とか、金棒以外で。
「剣か…剣は直ぐ折れるし、というより刃物類は綺麗に振れないんだ。どうしても刃筋をたてられないんだよな…槍は直ぐにひん曲がるか折れる。鎚も細い部分が耐えられん。」
「のうきん?」
「あーウル?どこでそんな言葉覚えたんだ?」
ブルは少し動揺する。
ウルの語彙力が上がるのはいいが、何だか偏っている気がする。
「くぅねえがいってた」
「ウルちゃん!?内緒だよって言ったよね!?」
「くぅねえわたしのおかしとったもん」
食い物の恨みは大抵強い。特にウルは。
クレアの目線はあらぬとこを彷徨っている。
「クレア、後で訓練に付き合ってやるよ」
「私もね」
「わぁ」
クレアの目の光が消える。
ガッツリと可愛がりを受けることが確定していた。
「とりあえず先に見に行きましょ?クレアのはいつでもできるから」
「そうだな、そうしよう」
「くぅねえよかったね」
「わぁい…」
肉にされる家畜のような雰囲気漂うクレア。
ウルは可愛らしく笑っている。いい気味だと。
ウルは三人を見て成長している。
良いところも悪いところもしっかりと吸収していた。
そんなこんなで金物屋へ来た一行。
ルサルナは特に買うものはないとブルについている。
クレアは予備や面白そうな物を探している。
ウルは器用にブルから降りて、クレアに引っ付いている。
「軽いんだよな…」
「これが…?」
残念なことに今使用しているような金棒がない。
全体的に細めで、甲羅のような段差があるものや、輪のような装飾が連なるものが置いてある。
「今使ってるのって金砕棒とか言うんだっけ?」
「あー、分からん。でもこういうのがいいんだよな」
「特注で作ってもらうしかないんじゃない?」
「そうなるよなぁ」
話す二人。
「特注にすんなら棘をいっぱいつけてほしいな」
「あなたの場合、棘なんてあってもなくても同じでしょ。どうせなら単純に太くて長いだけにしておけば?」
「ルナ姉、太くて長いのがいいんだ!」
クレアがルサルナの後ろからにょっきりと顔を出す。
にやにやと悪い顔。
ルサルナは顔が赤くなる。
「く、クレア!そういうことじゃないわよ!」
「んー?どうしたのルナ姉ぇ?金棒の話だよねぇ?」
「あ、いやそれはぁ…」
「ねぇねぇどうしたの?何を想像したのか教えてほしいなぁ?」
顔を真っ赤に染め上げあわあわするルサルナ。
もの凄く楽しそうなクレア。
「るぅねえとくぅねえはなにいってるの?」
「さぁ何だろうなぁ」
ブルは素早くウルを抱き上げ離れていた。
ウルは首を傾げてブルに聞いているが、誤魔化されている。
むっとする前に撫で回され、きゃいきゃい笑っている。
そのままブルは店主に特注をお願いしたのであった。
ちなみにお代は別から払われるらしい。
ブルは儲けたと思っているが、ルサルナはさらに怖くなった。
武器代が浮いたとはいえ、武器が出来上がるまで暫くかかる。
その間一行はいくつか依頼を受けて資金を貯めることにした。
とはいっても、食料や装飾品、衣服なども全て割引価格で提供されることになっており、都市にいる間不自由はなさそうだった。
しかしこの都市には、あの大男がいる。
現在は怪我の治療もあり動けないようだが、動けるようにようになればまた襲ってくる可能性が高い。
大男が場所を選ばなければ大きな被害が出るため、いつでも都市を離れられるようにしておかねばならない。
ブルが勢い余って殺りかけたので暫くは大丈夫だろうが。
後になって焦るのも馬鹿らしいので、先に準備を済ませて後はのんびり過ごすと決めた一行。
なんだか久し振りに穏やかな日々を送れていた。