ウルの朝は早い。
「んむぅ…」
「ウルちゃーん…あはっ!またよだれ垂らしてる、お兄さんに」
「あー、盛大ね。でも、うふふ…幸せそうよね」
「そうだねー…お兄さんは毎度のように苦しんでそうだけど」
「ゔゔん…」
この世界で一番安全であろう場所をベッドにするのが、最近のお気に入りである。
朝の日差しが眩しく、周りもちょっと煩い。
そんなときは体を丸め、毛布に潜り込むのが一番なのだ。
ついでに、ブルの腕を枕代わりに引き寄せつつ…
ウルの朝は優しい人達に起こされて始まる。
「ほら、そろそろ起きなさい」
「ウルちゃん意地でも起きようとしないよねぇ」
毛布を剥がされ、ベッド代わりのブルが起きれば、夢の中にいるのもそこまで。
しかしブルに抱っこされて揺られるのも、また良いものである。
「あぁ乾いてカピカピになってるじゃねぇか…こら逃げるな逃げるな」
「むんぃぅぅ…」
でもガッチリと捕まえられて、わしわしと顔を拭かれるのはちょっと嫌なものだ。
されることは嬉しいが、もうちょっと微睡みの中に揺られていたい。
それが終わればご飯である。
これは欠いてはいけない。
「ほらウル、朝ご飯だぞー」
「熱いから気をつけてね」
「んふふ、可愛いなー…あいたぁ!」
ぱっちりと目が覚めたものの、やっぱりもうちょっと微睡みにいたかった。
そんなときはブルかルサルナの膝の上で食べさせてもらうに限る。
大体はやっぱりブルだ。ここが一番安全なのだ。
頬を突いてくる不埒者には噛み付きで返事をしておく。
自分で食べれるものの、食べさせて貰うご飯の味は別格である。
干し肉でさえ上質なお肉のよう。言い過ぎた。
「ウル?肉だぞー」
「はむっ」
「ウル、野菜もよ」
「んむむ…」
「私にはー?」
「仕方ないわね…」
「わぁい」
ウルに今のところ好き嫌いはない。
今このように食べられる事がありがたい。
それに食事の雰囲気もある。
そこまで騒がしくないが、静かでもない。
皆で食べている、そんな雰囲気がウルは好きで、またなによりもそれがご飯を美味しくさせるのだ。
ご飯を食べ終えれば、どう動くか分かれてくる。
依頼を受ける、もしくは受けているならばそのために。
何もなければゴロゴロとしているか、散策に出かけるか。
まぁ本日は何もない日である。
お腹いっぱいのウルは、ブルの腕の中で早々に目を閉じた。
「ウルちゃん?ウールちゃーん?あ、もう寝てるし…」
「おお、早いな…もうよだれが…」
「ほらブル、手拭い」
「ありがとな」
「私が拭いてあげるよー!…い゛っ゛!!」
「最近寝ててもクレアには噛みつくな」
「ちょっかい出し過ぎじゃない?」
「仲良いじゃねぇか」
「離すの手伝ってよぉ!!」
何よりも安全な場所でウルは微睡む。
なんだか変な串焼きの夢を見ていた。固いし煩いしなんか逃げる。
逃さないようにしっかりと捕まえつつ、ウルは夢の中へ旅立っていった。
「めっちゃ噛まれてる!と、とられる!!」
変な串焼き…
散策する日であれば、特に目的なくぶらつく事が多い。
必要な物はほとんど先に購入しており、後は気に入った物や保存食くらいしか買うものがないからである。
ウルは優しく頬を撫でる感覚と、甘い匂いに誘われ起きる。
寝ぼけ眼で周りを見ると、どうやら時計塔の付近らしい。
近くのお店から焼き菓子の良い匂いが漂ってくる。
ウルのお腹の魔獣が鳴き始める…
「お?起きたか」
「あはっ!分かりやすいね!」
「ふふ、何か食べよっか」
「にぃ…かたのりたい」
バッチリ目を覚ましたウルの、これまた最近のお気に入りは肩車だ。
とても高く、それでいて安全安定な場所なのだ。
そこで周りを見渡しつつ頬張る焼き菓子が美味しいのだ。
ポロポロとブルの頭に落ちる欠片には目を背けている。
「最近そこ好きよね」
「いっぱい落ちてるけどね」
「いいんだ…いいんだよ…」
「ふぉいひい…」
口いっぱいに頬張る焼き菓子のなんと贅沢なことか。
今日もウルは満喫している。
お菓子を食べるが、ご飯も欠かせない。
変わらない幸せを満喫して、お昼ご飯もしっかり食べる。
「ほんとよく食べるねー」
「良いことじゃない」
「成長に必要だからな」
午前中存分に甘えたときは、自分で食べるようにしている。
ルサルナに甘やかし過ぎだとブルが叱られていたのも、ちょっとある。
それはそれとしてお昼が終われば、また甘えるが。
「食べ過ぎてもちもちになってるけどねー」
「そうやって突っつくから」
「危なっ!」
「ちっ、惜しいな…」
結局甘えてなくても雰囲気は変わらない。
それが楽しく、また美味しく感じるのだ。
まぁ甘えた方が美味しく感じるのだが。
ちょっかいを出してくるクレアに時折反撃をしながら、午後も散策したり、そのまま宿屋へ帰ってゆっくりする。
大抵はお腹いっぱいになったウルが眠気に負けるため、宿屋へ帰ることになる。
本日もウルは、ブルを揺り籠代わりに眠っていた。
「こうやってよく食べて、よく寝るから大きくなるんだよな」
「最初より随分大きくなったものね」
「横にもね」
そうして宿屋へ戻り、ある程度寝かせた後にお勉強を行う。
ウルは勉強することに前向きだった。
「これなんてよむの?」
「これはね…」
お勉強は様々だが、本日は本を読んでいる。
本は本でも魔法に関するもので、それもウルのような幼子が読むものではない。
ウルは砂漠に水を垂らすように知識を吸収していた。
「おやすみぃ…」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみー!」
勉強が終われば晩ごはんを食べ、体を清めればあっという間に眠気に負ける。
ウルが眠りにつくのはいつも早めだ。
今日もブルをベッドまで引っ張り、一緒に毛布に潜り込んで眠る。
ブルもそれには慣れたもので、直ぐに眠りにつく。
ウルの毎日は温かさに溢れている。