なんかよくある話   作:天和

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急に伸びてびっくりしてます…
作品を読んで頂きありがとうございます。
誤字報告も助かっています。

よろしければ感想などもお願いします。


技術よりも力づくという話

 

気持ち覚束ない足取りで歩く二人と、しっかりとした足取りで進む男。

まだちょっと頬を膨らましたまま男の背中に張り付く少女。

 

未だにちょっとビリビリしている少女はウル。

最近仕返しに雷魔法を使い始めている。

 

張り付かれたまま電気を流されている男はブル。

既に耐性が付いたのか、多少の電気では意にも介さない。

 

ぎこちなく歩く二人はそれぞれルサルナとクレア。

電気の影響で跳ね回った髪の毛をなんとかしようと頑張っている。

 

 

四人は今、旅をしている。

 

 

 

「ウル、ほら焼き菓子だぞー。」

「むぅぅ…」

 

ご機嫌取りに出された焼き菓子に、ウルの目は釘付けとなっている。

まだ少し怒っているためにギリギリ受け取るには至らない。

 

左右に振られる焼き菓子に連動して顔が動いていく。ついでによだれも垂れかけている。

 

「ウルちゃんが要らないなら私が食べよっかなー?」

「ぅぅぅ…」

 

ウルは美味しいものを食べれば、とりあえず機嫌が回復する。

そのためにクレアもわざとらしく挑発している。

 

「いいのかなー?食べちゃうからねー!」

 

挑発ではなく、本当に食べたかったらしい。

素早い身のこなしでブルから焼き菓子を奪おうとする。

しかし、そう簡単にブルが渡す訳がない。

 

「あ、ちょ、お兄さんガチじゃん!」

「これはウルのだ。お前にはやらん」

 

一切焼き菓子を崩すことなく守り続けるブル。やたら高い技術を変なことに使っている。

そしてクレアが頑張る姿を見て思わず口角が上がるウル。によによしている。

 

「ちょっと!ウルちゃん笑ってるじゃん!」

「なにっ!」

「隙あり!って何で取れないのよ!」

 

ブルがウルを見ようと顔を背けた瞬間、クレアは飛び掛かるも容易く躱される。やはり無駄な高等技術。

ウルはブルが振り向く前に、ブルの背中に顔を埋めている。

 

「はいはいクレアもそこまでにしなさい。これ食べていいから」

「くぅぅ…なんか悔しい…!」

「ウル?顔見せてくれよ」

「や」

 

一連の様子を見て、ウルの怒りが収まったことに気づいたルサルナが動く。

とりあえず不憫なクレアに焼き菓子を、と。

 

ブルはブルで再度焼き菓子で釣ろうと試みている。

ウルの耳が頻りに動いている。ついでによだれも。

 

「ほんと、緊張感ないわよね…」

 

ルサルナはぼやく。

焼き菓子を頬張るクレアに片腕を絡め取られながら。

ため息を吐いていると、ご機嫌取り中のブルが何かに感づく。

 

「…近づいてきてるな、魔獣」

「数は?」

「多分一匹、そこそこ速いな…ほとんど真っ直ぐ走ってきてるぞ」

 

ブルは動きを止めたまま何かの動きを探っている。

その警告にルサルナとクレアは警戒を強めている。

ウルは好機とばかりにそろそろと焼き菓子に手を伸ばしている。

 

「…全然分かんない。ほんとお兄さんヤバイよね」

「まぁブルだから…たまに人かどうか疑わしいけど…」

 

気配もまだ分からず、何かしらの音も聞こえてこない。

クレア自身鋭い方だと思うが、ブルの感知力は群を抜いている。

ルサルナはそういうものだと思うことにしている。

ウルはそろりとブルの手から焼き菓子を取り上げていた。

どこから取り出したのか、ブルの手には新たな焼き菓子がある。

 

「あぁ…ウルは可愛らしいなぁ…」

「ほんとヤバイよね」

「さっきのヤバいと意味が違うわよ、全然」

 

ブルは焼き菓子に夢中になっているウルを、これまたいつ取り出したのか鏡で見ている。

ドン引くクレア。目から光がなくなったルサルナ。

 

戦意がみるみる萎んでいくルサルナとクレアだが、二人の感覚が魔獣を捉えた途端、意識が切り替わる。

 

ひとまずアレを殺らねばならない、と。

 

それぞれの獲物を構え、魔力を練り上げる。

いつでも、どこからでも対応出来ると言わんばかり。

ウルはおかわりを頬張っている。

 

「っ!クレア!」

「合点だよルナ姉!」

 

現れた魔獣は人の背丈ほどある巨大な猪のよう。

それは脇目も振らず突っ込んでくる。

 

ルサルナが杖で地面を突く。迫り上がる無数の土棘。

クレアはいくつもの風刃を猪に放っていく。

 

猪は風刃を気にも留めず、そして躊躇なく土棘に突撃する。

まるで飴細工のように粉砕される土棘。

猪の足は鈍らない。若干の出血が見られる程度

 

「嘘でしょ!?」

「クレア!次よ!」

 

驚愕に思わず動きを止めるクレア。

ルサルナはクレアに声を掛けつつ、火球を放っていく。

 

高熱や爆破の衝撃を受け、身を焦がしつつも猪にブレはない。

散開しているルサルナやクレアを無視し、向かう先はウルとブル。

 

「ブル!ごめんなさい!」

「止まんない!」

 

いつの間にかウルは背中からブルの胸元に移っている。

ウルを愛でていたブルは面倒そうに突っ込んでくる猪に視線を向ける。

 

猪は既に目と鼻の先。

放たれた矢より鋭い動きで超重量が迫る。

ブルは金棒すら構えず、ウルを片手に自然体で佇んでいる。

 

直撃する、そうルサルナとクレアは思った。

思った瞬間には、猪がブルの後ろに叩きつけられたのを見て脳が混乱した。

 

「え…クレア、何が起こったか分かる?」

「わたしわかんない」

 

混乱する二人を尻目に、ブルは仰向けに倒れて痙攣する猪の頭を踏みつける。

 

どん、と鈍い音が響き、猪の頭が地面にめり込む。おかわり。

 

「クレア?ブルに踏まれて潰れないみたいよ?」

「そんな生き物が存在するんだね」

 

どん、と二度目の音を聞きながら話す二人。

今回の魔獣はヤバかったが、それを虫を払うように排除したブルはやっぱりヤバい。

 

ウルを守るとき天井知らずに強くなる男、それがブルだった。

 

 

 

 

 

「お兄さん、さっきのどうやったの?魔獣を後ろ側に叩きつけたやつ」

「あれ、あれは…なんというかこう、相手の勢いをこう、グイッと曲げてだな…」

「あ、やっぱ言葉の説明はいいです」

 

匂い立つ感覚派の説明にクレアは早めに諦めた。

グイッとしてグワッといってバーンと叩きつけるんだね、と。

ウルは眠そうに目を擦っている。

 

「鍛錬のときに教えて!」

「それはいいんだが、死ぬなよ?」

「やっぱりいいです」

「冗談だ。加減くらいできる」

「欠片も信用出来ないんですケド」

 

実際受けて確かめようとしたらこの発言。

クレアは叩きつけられて飛び散る自分を想像した。

加減と言われても、飛び散るのがなんとか原型を保つ程度の違いにしか思えない。

 

「ブルもああいう技って言えばいいのかしら?そういうことも出来るのね」

「力づくで叩き潰すのが楽なんだがな。ウルに万が一があっても困るだろ」

「脳筋じゃん…」

「くぅ…」

 

人は圧倒的な筋力があれば、小手先の技術など無意味であることをクレアは知った。

それは魔獣の戦い方と何ら違いがないが。

 

クレアは目指すものが魔獣と同類であるように感じ、ちょっと後悔し始めた。

ウルはそれらを尻目におやすみしている。

 

実力者であろうともすり潰されるような魔獣と出会っても、一行は変わらない。

 

ちょっと怪しい天気の中、旅はまだ続いていく。

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