なんかよくある話   作:天和

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言葉の話

 

「そういやぁ、変な魔獣が増えてる感じしねぇか?」

 

猪っぽい魔獣を解体し、焼肉祭りを開催するかと準備に勤しんでいると、ブルが唐突に切り出した。

ウルは新鮮なお肉に釘付けになっている。

 

「変なって…さっきの妙に強い魔獣みたいなのこと?」

 

ルサルナが返事する。

 

魔獣は既存の動物を模した姿をしており、大抵は元になった動物より凶暴になり、強く大きい。

強いといっても手に負えないものではない。

ほとんどは剣や槍で傷付けられるし、弱いものだと子供でも勝てる。

元になった動物が大きなものは相応に巨大化するが、鼠が成人を超えるほど大きくなることは基本的にない。

 

しかし極稀にそれらから外れた個体が現れる。

尋常ではない巨大化だったり、明らかにおかしな姿になっていたり、並外れた能力を身につけていたり。

 

先程の魔獣も、普通では考えられない程に頑丈だった。

脳筋は投げと踏みつけだけで始末していたが。

 

「あぁ、あれは硬かったな」

「硬いどころじゃなかったんですケド」

「おにく…」

 

 

ルサルナの放つ土魔法は並ではないと言えるほどに強力である。

それを大した傷を負うことなく、体当たりで正面から粉砕するのは異常である。

クレアの魔法など傷一つ付かなかった。

異常なブルでも流石に出来ない。

硬いで済ませるブルにクレアは呆れる。

ウルは切なげに呟いている。

 

「一緒に行動するようになってからは、さっきのが初めてだったけど」

 

魔獣の大群を除けば、とルサルナ。

明確におかしなことはそれ以外にない。

返事をしながらテキパキと肉を焼き始めている。

ウルはじっと焼ける様子を見つめている。

 

「最近のはルサルナに会う前に二回だ。都市に入る少し前と、ウルに出会ってすぐの依頼の時だな」

「多いけど、でもブルだし…元々魔獣を殺し尽くす勢いで暴れてた奴だし…」

 

ルサルナは悩んでいる。

異常な個体は数が少なく、滅多に出会うことはない。ルサルナも先程の魔獣を除けば一度だけである。

 

しかし相手はブルである。

十二支の猪を冠するこの男は、なかなかにイカれた野郎である。

ある程度詳しい者達の中では有名な話だった。

 

ウルに会う前まではただ只管に魔獣と野盗を殺す男であったために、そのくらい遭遇していてもおかしくはなかった。

 

焼けた肉をウルとクレアがくすねている。

 

「美味しいねー」

「かみごたえばつぐん」

「順調に語彙力がついてるな…」

 

悩むルサルナを尻目に美味しいそうに肉を食べるクレア。

噛み切るのにやや苦戦しているウル。

知識面でも成長を実感しているブル。

 

「一応報告しておきましょうか。次の都市に着いたらだけど」

「そうだな…とりあえずそうするか」

 

今は連絡手段がないために後回しにする二人。

焼けた肉は片っ端から食われていくため、またせっせと焼き始める。

二人が食べられるようになるのは、まだまだ掛かりそうだった。

 

 

 

 

「むふー」

「おぉ…なんか弾けそうだな」

「随分食べたわね」

「丸くなったねー」

 

日が落ちかけて、辺りが徐々に暗くなってきた。

思う存分肉を食べたウルは満足しきっており、今はブルを椅子代わりにデロンと伸びている。

三人から代わる代わるお腹を突かれても気にならない程緩みきっていた。

ウルのぽよぽよにクレアがだんだん夢中になってきている。

ルサルナがそのまま野営の準備を始めた。

 

「む、う、お」

「癖になる感触…」

「クレア、ウル頼むわ。片付ける」

「えっ」

「いいの?ふへへぇ…ウルちゃーん」

「うぇぇぇ…」

 

ルサルナだけに任せるわけにはいかず、すっとウルを差し出すブル。

ニンマリとウルを抱っこして撫で回すクレア。

まさかの生贄に大きな衝撃を受けるウル。

 

ブルに手を伸ばすも、それは届かない。

 

 

「ウルといても良かったのよ?」

「いや、流石にな…」

「ふふ、ありがとう」

 

ブルにルサルナが寄り添い、ほんのり甘い空気が流れる。

ウルからはジメジメした空気が流れている。

クレアはそんなもの意にも介さない。

 

ウルの目が何かを諦めたものに変わった。

 

 

 

「ウルちゃん機嫌直してよー」

「よしよし、悪かったよウル。ごめんな?」

「がるる…」

「すごく怒ってるわね…」

 

べっとりとブルの胸元に張り付くウル。ぎゅっと服を握り締め離す様子がない。

差し出したのはブルなのだが…

 

どうすっかなー、とブルは撫でながら考えている。

ウルに構おうとするクレアを押し退けながら。

 

そんなことをしていると胸元に違和感。

目を向けるとよだれを垂らして寝ているウル。

 

「これは……天使?」

「馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ」

「寝るの早すぎじゃん、おもしろ」

 

突然の天使降臨に打ち震えるブル。

対応する二人は慣れたものだ。

 

「ところでルナ姉、まだ次のとこ着かないの?」

「後三日くらいで着くはずよ…何もなければね」

「何もなければ、か」

「そういうこと言うと何か起きちゃうんだよね…」

 

 

 

 

 

言霊というものがある。

 

言葉には神秘的な力があり、発した言葉の通りに物事が起きるというのは、広く信じられていることだ。

魔法も出来ると強く信じ、念を込めて発した言葉により生まれたと考えられている。

 

実際、言葉にすることで無意識的に言葉に沿った行動を起こしたり、些細なことでも意識してしまうことになり、言葉通りになったと考えることがある。

 

言葉には何かを動かしたり、引き寄せる不思議な効果があるのだ。

 

 

翌日の日が真上に上がった頃、一行は魔獣に襲われる若い男女を助ける。

大袈裟なほどに感謝する男女は、お礼をさせてほしいと一行をとある村に案内した。

 

とても穏やかで、村人は皆笑顔を浮かべる、子供が一人もいない小さな村に。

 

 

 

 

柔らかい笑顔を浮かべた若い男女がブル達に声をかける。

 

「旅人さん、歓迎しますよ。名前もない小さな村ですが…どうぞゆっくり、していってください」

 

 

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