なんかよくある話   作:天和

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解決には暴力が最適という話

 

 

多くの人が空を見上げている。

その全てに共通しているのは、祈っていることだろう。

 

膝を付き、棒立ちで、ひれ伏して。

思い思いの格好で、それぞれが祈りを捧げている。

 

空は分厚い雲で覆われているが、ある一点から光が差し込んでいる。

その光に乗るように何かが降りてくる。

 

近づいてくる姿に目を凝らす。

 

人、だろうか。

人のような形の何かが、何かを抱えて降りてきている。

祈りを捧げていた人々が歓呼の声を上げる。

 

「神が降臨なさるぞ!」

「あぁ…神よ…!」

「救われる、我々は救われるんだ!」

 

焦点の合ってないような目で、降りてくる何かに熱狂する人々はなんとも悍ましい。

 

ぞっとしつつ、降りてくる神やらに再度目を向ける。

いつの間にか随分と近くまで降りてきていた。

 

見覚えがある姿。毎日見ているような…

 

 

というかブルだった。

ご丁寧にウルを抱っこしている。

お眠なウルを見せつけるように空から降りてくる。

 

周りの熱狂と意味の分からない状況についていけず、気が遠くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで!?」

 

がばっと布団を跳ね除け、ルサルナが起き上がる。

自分の現状に混乱し硬直する。

 

「ぅぅぅ…」

「ふへへ…」

 

すぐ近くから唸る声とだらしない声。

ウルとクレアが眠っている。

いつぞやのようにウルを抱きしめて眠るクレア。

ウルは非常に寝心地が悪そう。

 

固いからか、急に布団を跳ね除けられたからか、唸るウルは明かりを避けるようにもぞもぞと体をくねらせている。

 

「はぁ…夢かぁ。……夢で良かったわ」

 

あんなのが崇められるようになれば、世界は暴力で満たされるだろう。

 

ウルを崇めなければ死ねとか普通に言いそう。いや、それは今もあんまり変わらないか。

 

この世の終わりのような夢を見たせいか、あんまり眠れた気がしない。

そうして改めて周りを見ると、ブルがいないことに気づく。

 

悲鳴も、平手打ちの音も聞こえない。

どうやら夜通しではなかったらしい。

 

そういえば家の周りを土壁で覆っていた。

高めに生やして、ついでにところどころ棘も生やした嫌らしさ満載の土壁だ。

 

もしやそれでブルも登れなかったのだろうか。

それはちょっと、ほんの少しだけ悪いことをした気がしないでもない。

 

ルサルナは外に出ることにした。

 

土壁の一部を元に戻し、ぐるりと周りを見て回る。ブルはいない。

 

そのままブルを探そうかと考え、僅かに声が聞こえることに気づく。

会話をしているような感じではない。

向かった先にはブルと村人達、それから家ほどある大きさの馬鹿デカいトカゲ。

 

「ブル…あなたそれ…」

 

少し震える声でルサルナが尋ねる。

 

「ルサルナ、起きたか。このトカゲがこいつらの神様のらしいぞ。トカゲ風情がウルより尊いなんて馬鹿らしいからぶち殺してやったが」

 

ブルは何でもないように語る。

村人達は啜り泣いている。

 

「ブル、あなたそれ…地竜じゃないの…?」

「地竜…?ただのトカゲじゃねぇか」

 

ルサルナは頭を抱える。

 

確かにデカいトカゲと言える見た目をしているが、格が違う。

竜と呼ばれる魔獣は数は少ないが、基本的に強い。

 

力強さも、しぶとさも随一である。

火を吐いたり、空を飛ぶものもいる。

 

地竜は空を飛んだり火を吹くことはないが、力としぶとさは尋常ではない。

 

「とりあえず、竜の素材は高く売れるから…解体しましょうか」

 

まぁブルだしそういうこともあるだろうと、ルサルナは思考を放棄した。

ルサルナの言葉に啜り泣くことすら止め、絶望する村人達。

 

「悪魔だ…悪魔がいる…」

「神様…!」

「お前ら、文句あんのか?」

 

ぼそぼそと口にする村人達にブルが一言。

 

「いえ、なんでもないですぅ…」

「ウル様万歳…」

 

腫れ上がった顔は、涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃになっている。

口々にウルを讃えるその様子に、ルサルナはドン引きする。

 

「昨日はまともなもん食えてねぇし、早くバラして肉食うか」

 

村人達は思う。神様はいない。

あるのは理不尽な現実だけだと。

 

その後に振る舞われた肉は非常に美味だった。

 

 

 

 

 

「美味しそうなお肉!」

「にぃー…」

 

地竜を解体しつつ、村人に肉を焼かせていると、ウルとクレアが起きてきた。

 

クレアに抱きしめられているウルから救助を求める視線を感じる。

クレアにも解体を手伝わせることにすると、ウルはブルの背中に避難してきた。

 

「おはようクレア。こっち手伝ってね」

「えぇぇ…起きたばっかなのにぃ…」

「ウル、よく眠れたか?」

「びみょう…」

 

ウルはまだ眠そうにしている。やはり同じ固いでも寝心地は違うらしい。

 

「天使様、こちらをどうぞ」

 

腫れ上がった顔の村人から飲み物と焼いた肉が差し出される。

ウルはぷいっと顔を背ける。

 

「クレア、出番だ」

「待ってました!…んぐんぐ、ふぁいひょうふ!」

「飲み込んでから喋りなさいよ…」

 

ブルの言葉に飛びつくクレア。

毒見のはずが食べる手が止まらない。ついでに飲む手も。

腫れ上がった顔のために分からないが、村人は複雑な表情をしているはず。

 

大丈夫そうな様子にウルも物欲しそうな視線を向ける。

 

「ウルちゃん、あーん」

「あー、んむ…」

 

クレアから差し出されるお肉にたまらずぱくつくウル。

焼いただけのお肉が非常に美味。ほっぺが落ちそう。

 

結局クレアは食べることに夢中になったために、ウルと一緒に食べさせる。

ウルはブルの背中から離れないので、その横で。

 

そのうち解体も終わり、ブルとルサルナも食事を始める。

ウルはブルの膝の上、クレアはルサルナの隣で満足そうにお腹をさすっている。

 

「バラしたのはいいけどよ、こんな大量なのどうする?」

「荷台でも貰って運びましょ。生贄にしようとしたのよ、そのくらいしてもらいましょう。」

「なるほど、確かに。おい、聞いてたか?」

「は、はい!聞いてました!しかし、その…すぐに用意できるのは馬車だけでして…」

「馬なんかいなかったよねー?」

 

クレアの指摘に俯く村人。

非常に言いづらそうな村人にブルの視線が突き刺さる。

思い出される平手打ち。

 

「い、以前、村に来た行商が、その、神…魔獣に食べられてしまい…」

「で、馬車は貰ったと?」

「は、はぃ…」

 

恐らく生贄にしたのだろうが、まぁ過ぎたことはどうでもいい。

その馬車が使えるのならば貰うことにして、ブルは神様だったものを頬張った。

 

とても旨い。

 

 

 

首尾よく手に入れた馬車に乗り、一行は村を出る。

馬車の大半は地竜の素材でいっぱいになっているので、ルサルナとクレアは操縦席に座っている。

 

「やっぱり何か起こるんだよねー」

「まぁいい素材も手に入ったし、馬車も貰えたしいいんじゃない?棚ぼたよ、棚ぼた」

「お兄さんが馬になってるけどね…」

 

クレアは見る。

まるで荷車を引くように軽々と引っ張るブルを。

 

ウルは御者のようにブルの肩に座り、鼻歌を歌っている。

 

「でもまぁ、一つ勉強になったよ」

「勉強になること…?暴力しかなかったような…」

 

クレアの言葉に疑問しかないルサルナ。

 

今回はよく分からないままに、よく分からない解決をしてしまった。

圧倒的な暴力は全てを解決することを改めて学んだのだろうか。

 

「確かに暴力だけどさー。」

「暴力なのね」

 

そこを学ぶのは切実にやめて欲しい。

 

「今回みたいな訳の分からないこと言ってくるやつにはさ、こっちも訳の分からないこと言って、理不尽な暴力振るえばなんとかなるってこと」

「お願いだからそんなこと学ばないで…」

 

ルサルナは胃が痛くなった。

 

徐々に暴力的な思考が皆に広がっている。

自分も最近そんなふうに考えることもあるが、それは何か大切なものを捨ててしまうような気がするのだ。

 

クレアはもとよりブルに近い性質なのだが、ルサルナは思い出したくないらしい。

 

ルサルナは空を仰いだ後、静かに目を閉じた。

 

 

 

次の都市まで、後二日ほどである。

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