なんかよくある話   作:天和

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得意不得意は人によって違う話

 

「いやぁ!吾輩の勘違いであった!申し訳ない!」

「あー…まぁ気にすんなよ。俺は気にしてない」

「いや、というかもう大丈夫なの?本当に人?」

 

引きずるか、置いていくか。

言ったクレアが面倒になり、やっぱり置いていこうと決めるまでの短い時間で男は復活していた。

 

ブルとクレアの様子から、勘違いを悟った男はからからと笑いながら謝罪する。

ブルは気にせず、クレアはそんなことより、けろりとしている男を訝しんでいる。

 

「なはは!丈夫さが吾輩の取り柄でな!」

「声デカいよ、小さくできないなら黙ってて」

「失敬。あなたの美しさに、つい大きくなってしまった」

「うわわわわわあ」

「おい、どうした?」

 

にこぉ…と笑みを向ける男に、足先から頭の先まで鳥肌が駆け回るクレア。

大きくなったのは声だけだと思うも、一応見えないようにブルを盾にした。

あんまり聞いていなかったブルはよく分からず、困惑している。

 

クレアは見ないようにするだけでなく、出来るだけ見えないようにもすることにした。

実際そんなことなくとも、なんだか視線も声もねっとりしているように思ってしまったのだ。

 

 

 

 

「おらああぁぁ!」

「なんだか気合入ってんな…」

 

さらりと依頼を受け、ついて行きたそうな男を無視して町の外に出た二人。

ブルお得意の感知で魔獣を見つけると、クレアは雄たけびとともに襲いかかった。

何も知らないものが見れば、どちらが獣か分からない。

 

クレアは鬱憤が溜まりに溜まっていた。

旅で思う存分暴れられないことも若干ある。

 

町の雰囲気もそうだ。

芸術だのなんだの面白くない。音楽だってあんな堅いのばっかりでつまらない。

 

しかしそれ以上に、自分の自慢であった魔法が全く効かない魔獣との戦闘や、生理的にちょっと無理そうな男とブルの小競り合いのことだ。

 

自分の未熟さを、これでもかと叩きつけられた気持ちになった。

ついでにねっとりと何がが絡んでいる気がして、それを振り払いたいのもあるが。

 

とにかくクレアの鬱憤は八割、いや七割ほど悔しさからきていた。

 

「はぁ…はぁ…んぐっ、ふぅー…」

「うし、お疲れさん。水飲むか?」

「ふぅ…ありがと」

 

いつもと違う様子にブルも気遣う。

クレアはまだ少し息が乱れているが、水を受け取り一息つく。

 

「そういえばさぁ、あの男の一撃流したのってどうやったの?」

「あれか?まぁこうきたやつをこうやって」

「あ、ゆっくりでいいから分かりやすくお願い」

「えぇ…?」

 

分かりやすいと思うんだけどな、とか思いつつ、ブルは考える。

 

動きと言葉で説明する?自分でやったことを分かりやすく…やっぱり、これしかない。

 

「こう…殴りかかってきたのを横から掴んで曲げた」

「化け物じゃん」

 

ブルはだらりと垂らした腕をゆっくり動かし、何かを掴んで横に逸らすように動かす。

クレアの本音が零れ落ちた。

 

あの最後の攻防、クレアの目には当たったようにしか見えなかった。

この化け物のことを信じると、当たるか当たらないかの直前で腕を掴み、強引に逸したことになる。

この動きはクレアにも見えなかったし、対峙した男の反応的にも何が起こったのか分からなかっただろう。

 

技術の欠片もない圧倒的な身体能力によって行われたもの。

猪を受け流したのとは、まるで対極。

 

結局、有り余る力は技術を凌駕するのか。

そんなことをクレアは考えた。

 

これを目指すなら、ルナ姉に魔法を教わったほうが明らかに有意義。

それはそれとして盗めそうなものは頑張ろう。

 

クレアは前向きだった。

 

 

 

 

「おぉ!帰られたか!」

「ひぇ…」

 

そこそこに鬱憤を晴らし、必要な分を狩った二人は戻ってきた。

依頼屋に入った途端にかけられる声。

クレアから小さな悲鳴が出る。

 

「なんだ?お前ずっと待ってたのか?」

「いや!偶然である!たまたまこちらに寄ったところよ!」

 

また声が大きくなっている。

クレアはそっとブルの影に隠れた。

 

「可憐な少女よ、無事であるか?」

「ひぇぇぇ…」

 

覗き込むように見てくる男に、ゾワゾワと鳥肌が立つ。

やっぱりなんだか、ねっとりしているような気がする。

 

「すまんな、こいつは人見知りだからよ」

 

ブルがクレアの様子を見て気を遣う。

すっと男の視線から隠すように体を動かし、話す。

 

「む、そうであったか。それは申し訳ない。詫びに食事でも、と思っていたが…」

「無理無理無理無理生理的に無理…」

「悪いな、こいつはそういうの苦手なんだ。また縁があればな」

 

小刻みに震える体に、ブルにだけ聞こえる本気の拒否。

ブル、渾身の気遣いを発動する。

 

「仕方なし…縁が、あると良いな」

「あぁ、そういうことにしてくれ」

 

さっさと報告し、ウルとルサルナのもとに帰りたい。

ブルとクレアは過程は違えども、同じ事を思っていた。

 

 

「にぃ!」

「あら、どうしたの?まるでウルが二人になったみたい」

「いや、まぁ…なんて説明すりゃいいんだか…」

 

ブルは飛びついてきたウルを片手で抱き上げ、もう片手に顔色の悪いクレアを引っ付けている。

 

べったりなところだけを見れば、ルサルナの言ったようにも見える。顔色は悪いし、若干震えているが。

 

「や、ヤバい奴いたの…生理的に無理…」

「ブル、何があったの?」

 

ただ事ではない感じを受け、ブルに説明を求めるルサルナ。

ウルは様子のおかしなクレアを上から突っついている。

 

かくかくしかじか、ブルはあったことを説明する。

クレアは早々にルサルナに抱きついて無言。

 

「んー、まぁなんとなく?分かったような…とりあえずこの子がこんな調子だし…」

「俺には分からんが、何か感じるものがあったんだろう。とりあえずさっさと宿に戻って、飯食って休もう」

「ごはん!くぅねえもごはんたべたらげんきでるよ?」

 

ウルの言葉に小さく頷くクレア。

ルサルナに引っ付いたまま、ご飯を食べ、眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、宿屋にて。

 

「やぁ!奇遇であるな!」

「もういやぁ…」

 

 

 

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