大体2000〜3000文字を目標で書いてますが、長くなった為に分割しています。
目が覚める。
隣のベッドには静かに眠るルサルナ、ちょっと魘されているクレア。
こちらにはデロンと寄りかかるようにウル。時折もそもそ動いている。
今日も良い日になりそうだ。
そうブルは思った。
「にぃー…てつだって…」
「仕方ないなぁ!」
やはり良いことがあった。
最近、ウルが朝に甘えることは少なくなっている。
たまにこうして甘えられると嬉々として飛びつくブルである。
「ぅぅ…」
「ほら、寝るのは良いけど離してね」
クレアは甘え気味というより弱り果てている。
夢の中でさえも追いかけられ、あまり寝れていなかった。
ルサルナもちょっと可哀想とは思いつつ引きはがしている。
よろよろと名残惜しげに伸びる手がなんと憐れなことか。
暫く宙を彷徨った手がポテリと落ちる。
それを見ていたウルが、すっと毛布を被せる。
「ぅぅぅぅ」
「……んふ」
毛布の中から響く声にウルが吹き出す。
ウルは時々クレアに対して辛辣である。
「…嘲笑った?今、嘲笑ったよね?」
「わらってない」
「気の所為…?」
「くふっ」
「笑ってんじゃん!」
「あ、あ、すいこまれる…!」
つい笑ってしまったウルを布団の悪魔が呑み込んでいく。
ウルもきゃーきゃー笑いながら抵抗するが、あまりに非力。
布団の下で暫くもぞもぞと動いていたが、やがて静かになる。
ウルを捕獲し、二度寝を決め込んだクレアと、逃げることを諦めたウルは仲良く寝始めた。
「今日も良い日だなぁ」
「可愛らしいじゃれ合いよね」
子供達のじゃれ合いを微笑ましく見守った二人は、飯でも食うかと部屋から出ていった。
「やぁおはよう!昨日ぶりであるな!」
宿屋の食堂に来た二人は揃って同じ事を考えた。
あ、こういうのあったな、と。
食堂には声のデカい男。その隣に見知らぬ女。
ルサルナは知らないが、男の方はきっとクレアの調子が悪い原因だと確信した。
ブルは以前味わった恐怖を思い出して軽く震えている。
「お、お前、なんでここにいるんだ?」
「偶然宿屋を変えただけである!偶然な!なはは!」
「ねぇブル。この人もしかしてヤバいんじゃない?」
明らかに偶然ではなさそうな様子にルサルナも一言。
クレアが起きてきたらどうなるか、それが心配である。
「とりあえず、座ったらどうだい?僕は君たちと初対面だからね。自己紹介でもしようじゃないか」
「そういえばお互い名前も知らぬな!なはは!」
見知らぬ女が言う。男もデカい声で言う。
ブルもルサルナも、ものすごく気が進まないが、断っても面倒そうなので二人は大人しく席につく。
「ごめんね。面倒だって顔に出てるよ」
「いえ、まぁ…」
「面倒に決まってんだろ」
「はっきり言いおる!なはは!」
言い淀むルサルナにきっぱりと言い切るブル。
女は苦笑いし、男はからからと笑う。
「はは…まぁここまではっきり言われると傷つくね」
「はっきりしている方が良いだろう!」
「てめぇはうるせぇよ」
「これは失敬」
ズバズバと言うブル。申し訳なさそうなルサルナ。
ただ二人とも朝一から面倒だとは思っている。
「僕はシャル。こっちはジェロ。見えないかもだけど兄妹なんだ」
「確かに見えねぇ」
「ブル!…ごめんね?私はルサルナ、こっちはブルよ。後は二人まだ寝てるわ」
「まだ寝ているのか…」
男、ジェロは残念そう。クレアを早く見たいのだろう。
「後二人…その子がジェロの言ってた子ね」
「恐らく!ブルの連れなのであろう?」
「まぁ、そうだな」
「やはり!吾輩の天使…」
ルサルナはドン引きする。
ブルという身内も同じ事を言っているが、他人が同じ事を言っていると中々に気持ち悪い。
言われている本人の様子を知っていると尚更。
「ねぇ、ルサルナはブルとどういう関係なの?恋人?」
「夫婦よ」
「なんと、そうであったか。つまり彼女はそなたらの娘か?」
「娘というより妹が近いかしら。血の繋がりはないわ」
さらりと妻を自称するルサルナ。
ブルは何も言わない。
文句はないし、ウルの次くらいに大切思っている。クレアも同様に。
「へぇ、お似合いだね」
「ありがとう」
「血の繋がりはないが妹のようなもの…」
社交辞令を交わしつつ二人は話す。
ジェロはブツブツと何か言っている。
ブルは興味なさげに朝食を注文している。
「後二人は?」
「起きてきたら紹介するわ」
「名前だけでも教えてくれないか?」
「起きてきたらね」
先に教えると良くないことになる。クレアからの信頼的に。
そうルサルナは思った。
目線で教えてと訴えられるブルも見ないふりをしている。
男はまた残念そうにため息を吐いた。
「それで、この馬鹿兄ときたら…」
「そんなことが…」
朝食も食べ終え、ルサルナとシャルが話すだけとなっている。
ブルは時たま相槌を打つ程度、ジェロはまだかまだかとそわそわしている。
ブルが何かに反応し、立ち上がる。
シャルもジェロも何事かと反応するが、ルサルナは分かっている。
ウルが降りてきたのだ、と。
「ルナ姉!お兄さん!おはよー!…え?」
「おなかすいた…」
ウルを抱えながら元気よく挨拶するクレア。
お腹が空いて力がでないウル。
ウルのお陰で元気が出たはずのクレアは、目の前の光景に呆然とし、抱えるウルを力なく降ろす。
降ろされたウルはすぐにブルに抱え上げられている。
「やぁ!奇遇であるな!」
「もういやぁ…」
いつかの自分の行動を思い出す。
ルナ姉もきっと嫌だったんだな、と。
「そ、その子は…」
シャルの目がウルに釘付けになる。
視線に気づいたウルとシャルの目が合う。
「ルサルナ、教えてほしい。あの子は…?」
「え…えぇ、あの子はウルよ。もう一人がクレアね」
「クレアと言うのか!名前まで素晴らしい…!」
耳聡いジェロ、呆然とウルを見つめるシャル。
なんでこうも、面倒事が湧き出てくるんだろう。
ルサルナは思った。
ブルとルサルナの間にクレア、ブルの膝の上にウルが座る。
機嫌良くご飯を食べるウルに対し、中々手が進まないクレア。
そんな様子をじぃっと眺めるシャルとジェロ。
「そんなに見ないであげて。食べにくそうでしょ」
「む、申し訳ない。あまりの可憐さに目が離せなくてな」
「ぅぇ…」
ますます青くなるクレア。
聞こえないていないかのようにウルを眺め続けるシャル。
兄も兄だけど、妹もこうなのねと、ルサルナは思う。
「ところで、ウルは君たちの子供なのかい?」
「その通りだ」
「その通りよ」
即答するブル。いつの間にかパパ面になっている。
流れるように嘘を吐くルサルナ。
二人から生まれるならば獣人は有りえないのだが、帽子で獣耳が隠れている為、ぱっと見では分からない。
さらりと吐かれた嘘に気づかず、シャルは言う。
「娘さんを僕にください」
「ぶっ殺すぞ」
「寝言は寝て言いなさい」
机に頭を打ち付けて言うシャル。
反射的に辛辣な言葉を返す二人。
「あぁウル、びっくりしたな…よしよし」
ウルは頭を打ち付けた音にびっくりしていた。
ブルはすかさずウルを撫でている。
「吾輩もクレア殿を嫁に迎えたく」
「絶対嫌!」
便乗して声を上げたジェロにクレアが叫ぶ。
顔を上げ、二人をきっと睨みつけるように見るシャル。
あまりにはっきりとした拒絶に動揺するジェロ。
「そんな言い方はないんじゃないかな?」
「一目見ただけで幼い娘を下さいっていう人に、優しく言葉を返す必要があるかしら?」
「ウル、気にするな。これも旨かったぞ?」
「そんなに嫌なのか…?」
「嫌に決まってるでしょ!気持ち悪い!」
勃発する言い合い。
ウルは目を白黒させている。
ブルは気を逸らそうとウルに話しかけている。
やいのやいの言い合いが続く。
ウルはちょっと怖くなってしまい、食べる手を止めブルに抱きつく。
ウルが怖がっていることに苛立つブル。
「おい」
静かな、それでいて誰の耳にも入り込む声。
「ウルが怖がってるんだ。やるなら全員表に出ろ」
ルサルナ達だけでなく他の利用者も黙り込む。
文句を言えば問答無用で叩き出される。
この男は間違いなくそうする、そう誰もが思った。
「ちっ、飯食う雰囲気じゃなくなったな。ウルもクレアも外で食おう。ルサルナ、良いか?」
「…えぇ、問題ないわ。ウル、ごめんね?」
「私も…ごめんね…」
「ん、だいじょうぶ」
ウルを抱き上げ、席を立つブルは前に座る二人を睨みつける。
意気消沈した二人を連れ、外に出る。
「ルサルナ、クレア、すまんな」
「いえ、私もちょっと熱くなって…」
「私も…」
ウルを撫でながらブルは謝る。
あの場はそうなっても仕方ないと思う。
自分もウルがいたから一言で止めたものの、ウルがいなければ同じく熱くなっていただろう。
「まっ、とりあえず飯食って、グリンのとこに行こう。ウルもまだ知りたいことあるんだろう?」
「うん」
「そうね、そうしましょう」
そうして歩き出そうとした矢先、声がかかる。
「待ちなよ、希望通り表に出てきたよ」
「吾輩は傷心を癒やしたいのだが…」
シャルとジェロだ。
「なら出てこないでよ…」
はっきり拒否して、さらには罵倒を吐いたのにと、クレアがぼやく。
ブルが面倒臭そうに呟く。
「消えろって言うべきだったか」
「僕、欲しいものは何が何でも手に入れたい人なんだ」
「実力行使ってことかしら?」
「穏便に済むならそれに越したことはないね」
ルサルナとシャルの間でバチバチと火花が飛ぶ。
「クレア…朝飯買ってきてくれ。ウルと二人分」
「はぁい…」
気持ち的に疲れ果てたクレアがとぼとぼと歩いていく。
ジェロの顔が、より一層悲しみに染まる。
「で?実力行使だったか。出来るとでも?」
「出来る出来ないじゃないよ。やるんだ」
「ブル、私に任せて」
堂々と言い切るシャル。言葉はともかく内容は良くない。
ルサルナが前に出る。
「やるなら町の外に出ましょう」
「へぇ、言うね。ブルは有名なあの“猪”でしょ?それにくっついてるあなたも大層な実力なのかな?」
「さぁ?けど、娘に近づく悪い虫にはおっかなくなるかもね」
ブルはため息を吐く。
巫山戯たことを抜かすものだからブチのめそうと思っていたが、ルサルナが思いの外熱くなっている。
怒れるルサルナはおっかない。ブルは既に学んでいる。
いつもは釘を刺される側だが、今日は刺す側になりそうだとブルは思う。
クレアが戻り、ルサルナの怒気に以前と違って震え上がるまで、あと少し。