なんかよくある話   作:天和

58 / 129

大体2000〜3000文字を目標で書いてますが、長くなった為に分割しています。



身内の為に怒る人は怖いという話

 

目が覚める。

隣のベッドには静かに眠るルサルナ、ちょっと魘されているクレア。

こちらにはデロンと寄りかかるようにウル。時折もそもそ動いている。

 

今日も良い日になりそうだ。

そうブルは思った。

 

 

 

 

「にぃー…てつだって…」

「仕方ないなぁ!」

 

やはり良いことがあった。

最近、ウルが朝に甘えることは少なくなっている。

たまにこうして甘えられると嬉々として飛びつくブルである。

 

「ぅぅ…」

「ほら、寝るのは良いけど離してね」

 

クレアは甘え気味というより弱り果てている。

夢の中でさえも追いかけられ、あまり寝れていなかった。

ルサルナもちょっと可哀想とは思いつつ引きはがしている。

よろよろと名残惜しげに伸びる手がなんと憐れなことか。

 

暫く宙を彷徨った手がポテリと落ちる。

それを見ていたウルが、すっと毛布を被せる。

 

「ぅぅぅぅ」

「……んふ」

 

毛布の中から響く声にウルが吹き出す。

ウルは時々クレアに対して辛辣である。

 

「…嘲笑った?今、嘲笑ったよね?」

「わらってない」

「気の所為…?」

「くふっ」

「笑ってんじゃん!」

「あ、あ、すいこまれる…!」

 

つい笑ってしまったウルを布団の悪魔が呑み込んでいく。

ウルもきゃーきゃー笑いながら抵抗するが、あまりに非力。

 

布団の下で暫くもぞもぞと動いていたが、やがて静かになる。

 

ウルを捕獲し、二度寝を決め込んだクレアと、逃げることを諦めたウルは仲良く寝始めた。

 

「今日も良い日だなぁ」

「可愛らしいじゃれ合いよね」

 

子供達のじゃれ合いを微笑ましく見守った二人は、飯でも食うかと部屋から出ていった。

 

 

「やぁおはよう!昨日ぶりであるな!」

 

宿屋の食堂に来た二人は揃って同じ事を考えた。

あ、こういうのあったな、と。

 

食堂には声のデカい男。その隣に見知らぬ女。

ルサルナは知らないが、男の方はきっとクレアの調子が悪い原因だと確信した。

ブルは以前味わった恐怖を思い出して軽く震えている。

 

「お、お前、なんでここにいるんだ?」

「偶然宿屋を変えただけである!偶然な!なはは!」

「ねぇブル。この人もしかしてヤバいんじゃない?」

 

明らかに偶然ではなさそうな様子にルサルナも一言。

クレアが起きてきたらどうなるか、それが心配である。

 

「とりあえず、座ったらどうだい?僕は君たちと初対面だからね。自己紹介でもしようじゃないか」

「そういえばお互い名前も知らぬな!なはは!」

 

見知らぬ女が言う。男もデカい声で言う。

ブルもルサルナも、ものすごく気が進まないが、断っても面倒そうなので二人は大人しく席につく。

 

「ごめんね。面倒だって顔に出てるよ」

「いえ、まぁ…」

「面倒に決まってんだろ」

「はっきり言いおる!なはは!」

 

言い淀むルサルナにきっぱりと言い切るブル。

女は苦笑いし、男はからからと笑う。

 

「はは…まぁここまではっきり言われると傷つくね」

「はっきりしている方が良いだろう!」

「てめぇはうるせぇよ」

「これは失敬」

 

ズバズバと言うブル。申し訳なさそうなルサルナ。

ただ二人とも朝一から面倒だとは思っている。

 

「僕はシャル。こっちはジェロ。見えないかもだけど兄妹なんだ」

「確かに見えねぇ」

「ブル!…ごめんね?私はルサルナ、こっちはブルよ。後は二人まだ寝てるわ」 

「まだ寝ているのか…」

 

男、ジェロは残念そう。クレアを早く見たいのだろう。

 

「後二人…その子がジェロの言ってた子ね」

「恐らく!ブルの連れなのであろう?」

「まぁ、そうだな」

「やはり!吾輩の天使…」

 

ルサルナはドン引きする。

ブルという身内も同じ事を言っているが、他人が同じ事を言っていると中々に気持ち悪い。

言われている本人の様子を知っていると尚更。

 

「ねぇ、ルサルナはブルとどういう関係なの?恋人?」

「夫婦よ」

「なんと、そうであったか。つまり彼女はそなたらの娘か?」

「娘というより妹が近いかしら。血の繋がりはないわ」

 

さらりと妻を自称するルサルナ。

 

ブルは何も言わない。

文句はないし、ウルの次くらいに大切思っている。クレアも同様に。

 

「へぇ、お似合いだね」

「ありがとう」

「血の繋がりはないが妹のようなもの…」

 

社交辞令を交わしつつ二人は話す。

ジェロはブツブツと何か言っている。

ブルは興味なさげに朝食を注文している。

 

「後二人は?」

「起きてきたら紹介するわ」

「名前だけでも教えてくれないか?」

「起きてきたらね」

 

先に教えると良くないことになる。クレアからの信頼的に。

そうルサルナは思った。

目線で教えてと訴えられるブルも見ないふりをしている。

 

男はまた残念そうにため息を吐いた。

 

 

「それで、この馬鹿兄ときたら…」

「そんなことが…」

 

朝食も食べ終え、ルサルナとシャルが話すだけとなっている。

ブルは時たま相槌を打つ程度、ジェロはまだかまだかとそわそわしている。

 

ブルが何かに反応し、立ち上がる。

シャルもジェロも何事かと反応するが、ルサルナは分かっている。

 

ウルが降りてきたのだ、と。

 

 

「ルナ姉!お兄さん!おはよー!…え?」

「おなかすいた…」

 

ウルを抱えながら元気よく挨拶するクレア。

お腹が空いて力がでないウル。

 

ウルのお陰で元気が出たはずのクレアは、目の前の光景に呆然とし、抱えるウルを力なく降ろす。

降ろされたウルはすぐにブルに抱え上げられている。

 

「やぁ!奇遇であるな!」

「もういやぁ…」

 

いつかの自分の行動を思い出す。

ルナ姉もきっと嫌だったんだな、と。

 

「そ、その子は…」

 

シャルの目がウルに釘付けになる。

視線に気づいたウルとシャルの目が合う。

 

「ルサルナ、教えてほしい。あの子は…?」

「え…えぇ、あの子はウルよ。もう一人がクレアね」

「クレアと言うのか!名前まで素晴らしい…!」

 

耳聡いジェロ、呆然とウルを見つめるシャル。

 

 

なんでこうも、面倒事が湧き出てくるんだろう。

ルサルナは思った。

 

 

ブルとルサルナの間にクレア、ブルの膝の上にウルが座る。

機嫌良くご飯を食べるウルに対し、中々手が進まないクレア。

 

そんな様子をじぃっと眺めるシャルとジェロ。

 

「そんなに見ないであげて。食べにくそうでしょ」

「む、申し訳ない。あまりの可憐さに目が離せなくてな」

「ぅぇ…」

 

ますます青くなるクレア。

聞こえないていないかのようにウルを眺め続けるシャル。

 

兄も兄だけど、妹もこうなのねと、ルサルナは思う。

 

「ところで、ウルは君たちの子供なのかい?」

「その通りだ」

「その通りよ」

 

即答するブル。いつの間にかパパ面になっている。

流れるように嘘を吐くルサルナ。

 

二人から生まれるならば獣人は有りえないのだが、帽子で獣耳が隠れている為、ぱっと見では分からない。

 

さらりと吐かれた嘘に気づかず、シャルは言う。

 

「娘さんを僕にください」

「ぶっ殺すぞ」

「寝言は寝て言いなさい」

 

机に頭を打ち付けて言うシャル。

反射的に辛辣な言葉を返す二人。

 

「あぁウル、びっくりしたな…よしよし」

 

ウルは頭を打ち付けた音にびっくりしていた。

ブルはすかさずウルを撫でている。

 

「吾輩もクレア殿を嫁に迎えたく」

「絶対嫌!」

 

便乗して声を上げたジェロにクレアが叫ぶ。

 

顔を上げ、二人をきっと睨みつけるように見るシャル。

あまりにはっきりとした拒絶に動揺するジェロ。

 

「そんな言い方はないんじゃないかな?」

「一目見ただけで幼い娘を下さいっていう人に、優しく言葉を返す必要があるかしら?」

「ウル、気にするな。これも旨かったぞ?」

 

「そんなに嫌なのか…?」

「嫌に決まってるでしょ!気持ち悪い!」

 

勃発する言い合い。

 

ウルは目を白黒させている。

ブルは気を逸らそうとウルに話しかけている。

 

やいのやいの言い合いが続く。

ウルはちょっと怖くなってしまい、食べる手を止めブルに抱きつく。

ウルが怖がっていることに苛立つブル。

 

「おい」

 

静かな、それでいて誰の耳にも入り込む声。

 

「ウルが怖がってるんだ。やるなら全員表に出ろ」

 

ルサルナ達だけでなく他の利用者も黙り込む。

 

文句を言えば問答無用で叩き出される。

この男は間違いなくそうする、そう誰もが思った。

 

「ちっ、飯食う雰囲気じゃなくなったな。ウルもクレアも外で食おう。ルサルナ、良いか?」

「…えぇ、問題ないわ。ウル、ごめんね?」

「私も…ごめんね…」

「ん、だいじょうぶ」

 

ウルを抱き上げ、席を立つブルは前に座る二人を睨みつける。

意気消沈した二人を連れ、外に出る。

 

「ルサルナ、クレア、すまんな」

「いえ、私もちょっと熱くなって…」

「私も…」

 

ウルを撫でながらブルは謝る。

あの場はそうなっても仕方ないと思う。

自分もウルがいたから一言で止めたものの、ウルがいなければ同じく熱くなっていただろう。

 

「まっ、とりあえず飯食って、グリンのとこに行こう。ウルもまだ知りたいことあるんだろう?」

「うん」

「そうね、そうしましょう」

 

そうして歩き出そうとした矢先、声がかかる。

 

「待ちなよ、希望通り表に出てきたよ」

「吾輩は傷心を癒やしたいのだが…」

 

シャルとジェロだ。

 

 

「なら出てこないでよ…」

 

はっきり拒否して、さらには罵倒を吐いたのにと、クレアがぼやく。

ブルが面倒臭そうに呟く。

 

「消えろって言うべきだったか」

「僕、欲しいものは何が何でも手に入れたい人なんだ」

「実力行使ってことかしら?」

「穏便に済むならそれに越したことはないね」

 

ルサルナとシャルの間でバチバチと火花が飛ぶ。

 

「クレア…朝飯買ってきてくれ。ウルと二人分」

「はぁい…」

 

気持ち的に疲れ果てたクレアがとぼとぼと歩いていく。

ジェロの顔が、より一層悲しみに染まる。

 

「で?実力行使だったか。出来るとでも?」

「出来る出来ないじゃないよ。やるんだ」

「ブル、私に任せて」

 

堂々と言い切るシャル。言葉はともかく内容は良くない。

ルサルナが前に出る。

 

「やるなら町の外に出ましょう」

「へぇ、言うね。ブルは有名なあの“猪”でしょ?それにくっついてるあなたも大層な実力なのかな?」

「さぁ?けど、娘に近づく悪い虫にはおっかなくなるかもね」

 

ブルはため息を吐く。

巫山戯たことを抜かすものだからブチのめそうと思っていたが、ルサルナが思いの外熱くなっている。

 

怒れるルサルナはおっかない。ブルは既に学んでいる。

 

いつもは釘を刺される側だが、今日は刺す側になりそうだとブルは思う。

 

クレアが戻り、ルサルナの怒気に以前と違って震え上がるまで、あと少し。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。