2話投稿しています。
この話は後編になりますので、一つ前から読むようお願いします。
最後消えていたので追加してます。
クレアは体が震えるのを止められないでいた。
以前、真正面から受けたときは平気だった。
ルサルナの実力を知らなかったこともあるし、自分は強い方だと思っていたからだ。
完膚無きまで叩きのめされることを繰り返した今、ルサルナの怒気は震えるほどに恐ろしいことを改めて実感している。
「随分と観客がいるんだね。まぁいい、さぁ始めようか」
町から出るまでに、決闘だなんだと野次馬がぞろぞろと集まってきている。
それを見渡し、シャルは待ち切れないといったように話しかける。
その手には細い刀身の剣。
突く事に特化したであろうそれを抜き放つ。
「心配しなくとも殺しはしないよ。そこまで野蛮じゃないからね」
「ふふっ、言われてるわよ?ブル?」
「うぐぅ…」
「にぃ?」
ブルに刺さる言葉。
確かにちょっとやり過ぎることもあるが、最近は自重出来ているはず。
ウルの野蛮でも大丈夫だよ、とでも言いたげな視線も刺さる。
ルサルナに釘を刺そうとしていたが、それらにブルは沈黙せざるを得ない。
「さて、と。いつでもいいわよ?」
「この距離で?随分と自信過剰なんじゃない?」
ルサルナは明らかに前衛には見えない。
いかにもな服装、大きな杖、そして魔法が得意な自然の民。
足元は見えないが、腕はとても筋力があるようには思えない。
二人の距離は現在十歩といったところ。
これは普通の魔法使いの間合いには明らかに近すぎる。
そもそも魔法とは強力ではあるものの、単体での戦闘はあまり考えられていない。
大抵の者は発動までに数秒は要するし、一歩間違えれば使い手ごと巻き込む。
ルサルナが熟練の魔法使いであり、近接戦闘もある程度こなせると仮定しても、シャルには舐めているとしか思えなかった。
こつん、と頭に何かが当たる。
落ちる前にシャルがそれを掴む。
それは小さな氷だった。
「な…いつの間に」
「一回目」
もしかして野次馬の誰かが、と辺りを見るシャルにルサルナが声をかける。
「…何だって?」
「私が殺すつもりなら、あなたは一度死んだっていうことよ」
「今のは、君がやったのか?」
シャルは知らない。
ルサルナは既に周囲一帯を魔力で包み込んでいる。
そしてその中で、今のルサルナは好きな魔法を一呼吸すら置かずに放てることを。
「分からない?そう…その程度で実力行使だとか言うのね」
「なんだって…!」
めっちゃ煽るじゃんと、クレアは思った。
ブルも思ってたが、クレアと同じく口には出さない。
ウルはもぐもぐとパンを頬張り、食べかすをブルの服に少しずつ落としている。
苛立つシャルの脳天に、また氷の欠片が落ちる。
「う…」
「二回目。あなた、本当にやる気あるの?」
シャルは思う。
目の前の女は何なんだ、と。
シャルの足元が動き、咄嗟に飛び跳ねる。
着地する瞬間、足元が陥没し、姿勢が崩れる。喉元に伸びる土の棘。
「三回目」
ルサルナはそれだけ呟き、土を元に戻す。
「う、うわあぁぁ!」
恐怖を誤魔化すような絶叫とともに、シャルは飛び出す。
シャルは殺すつもりでルサルナの心臓を狙う。
クレアはいつかの自分と同じような行動を見て、どうなるか予想がついた。
後、頭一つ分といったところで細剣が上向きに弾かれ、勢いのままにシャルはそれにぶつかる。
下から伸びた土の柱だ。
「四回目」
ルサルナが呟いたとき、シャルは土の柱に拘束されていた。
シャルは暴れるが、拘束はびくともしない。
土の柱が崩れ、頭から土を被るシャル。
「うわぁ…」
「懐かしいな…なぁクレア」
「思い出したくないんだけど」
クレアと同じ状況に懐かしむブル。ドン引きするクレア。
「へたり込んで、どうしたの?まだたったの四回よ?」
最初はやいのやいの騒いでいた野次馬も、今は静かだ。
ぽつりぽつりと悪魔やら、魔王やらと囁いている。
ルサルナがその方向に目を向けると、一斉に目を逸らす。
「ねぇ、反応も出来ないの?…これならクレアの方が強かったわね」
「いやあのそれはちょっと…」
クレアが小さく抗議する。
ちょっとあのときとは強さも違うし、容赦もない気がするんですけど。
そう思うも、ちょっと怖くて言えない。
クレアは躾けられていた。
きっ、と顔を上げたシャルは火球を放つ。
ルサルナは水球で迎撃する。
互いの魔法は水蒸気だけ残し、見事に相殺される。
水蒸気に紛れ、駆けるシャル。
一瞬でも見えなくなれば、その隙に殺れる。
そういうふうにシャルは考えた。
だが、ルサルナは見えずとも範囲内は魔力で感知出来る。
「五回目。発想はまぁ、良いかもね」
足元が陥没し転ぶシャル。
受け身を取る前に土に拘束され、悠々と近付いてきたルサルナに杖を突きつけられる。
「吾輩、妹が悪いと言ってもここまで晒し者にされるのは我慢が出来ん」
「この子は私を晒し者にするつもりだったみたいだけど?」
「非礼を詫びる。そこまでにしてやってはくれんか?」
ジェロがルサルナの背後に立つ。
ルサルナは杖を向けたまま。
「止めないとあなたが私を晒し者にするということかしら?」
「流石に、吾輩も黙っておれんよ」
「そう言うなら、俺も黙ってられんなぁ」
ウルをクレアに預けたブルがジェロの肩に手を置く。
速すぎる、そうジェロは思った。
昨日の戦いは、手加減に手加減を重ねていたことを知る。
「…まぁいいわ。私にすら勝てないようなら、ブルにはあなた達が束になっても勝てないもの。その程度で実力行使なんて、笑っちゃうわ」
そう言ってルサルナは拘束を解き、ウルとクレアのもとへ歩き出す。ブルもそれに続く。
さぁ…と割れる野次馬の壁。
そんなもの気にせず一行は町に戻る。
いやー怖かったなーなどとクレアは思っていたが、ふとあることに気づく。
「あれ?さっきのってウルちゃんの事で怒ってたよね?私って、そんなに心配されてない…?」
「え、あ。そんなことないわよ?」
「あ、あぁもちろん心配してた」
ブルはもちろんだが、ルサルナもウルに比重が偏っている。
ちょっとくらい怒ってほしかった。
鼻をすすりながら、クレアは思った。