どうだい!魔王様を描いた自信作!
こっちは魔王様の彫刻だよー!
魔王様の歌を聞いてくれー!
魔王様の演劇が近日公開予定でーす!
翌日、芸術の都は魔王の話題で溢れていた。
なんだか見覚えのある女性だ。見た目やら服装やら杖やら。
絵や彫刻は色んな種類があった。
跪く人々の前に佇むものだったり、魔獣を椅子代わりにしているものだったり、軍勢を率いているものだったり。
一日でよくここまでしたものである。
誰を描いたり彫ったりしたのかは知らないが。
にんまりしたクレアが出来の良い絵と彫刻を抱えている。
どちらも、とてもいい笑顔の見覚えのある女性だった。
ルサルナは白い肌を真っ赤にして俯いている。
「誰とは言わないけど、かっこいいよねーくふふっ」
「かっこいい…!」
「これは良いものだなぁ。誰とは言わんが」
誰とは言わないが、と言われるたびにルサルナが縮こまっていく。
「るぅねえ、かっこいいね!」
無垢なウルの口撃。純粋な気持ちからくる言葉は、時に単純な暴力に勝る。
ルサルナは顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。
「るぅねえ?どうしたの?」
「何でもないの…なんでも…」
暫くは再起不能だろう。
クレアは中々見ることの出来ないルサルナの姿に悦に浸っている。
「ウル、ルサルナは恥ずかしいんだ。怒っていたと言ってもやり過ぎたことを後悔しているんだ」
「…?よくわかんない」
「ブル…後で覚えときなさい…」
「ひぇ…」
一応ルサルナの擁護をしておこうとブル、図らずも追撃。
地の底から響くような声に小さく悲鳴を上げる。
そそくさと買ったものを鞄に詰めていくクレア、賢明な判断。
絵画や彫刻だけでなく、見たことのある杖を模した装飾具まで持っていた。
「クレア…今更隠しても遅いわよ…」
「ひきゅ…」
しかし遅かったらしい。
ルサルナは顔を覆う手の間からバッチリ見ていた。
恐ろしい見た目にクレアから鳥を絞めたかのような声が漏れる。
この光景をバッチリ見ていた住人は新たな発想を得た、かもしれない。
思いもよらず自ら新たな素材を提供するルサルナは、飢えた作家にとっての金の卵なのであろう。
あ、魔王様!
魔王様、お顔真っ赤にして可愛らしい…
お、見ろよ!魔王様御一行だ!
以前にも似たようなことがあったが、今回はルサルナ一人である。
なんとか立ち上がったルサルナだが、子鹿のように震えるその姿は、いつ膝をついてもおかしくはない。
「あー…その、なんだ?ほら、外套とか、買うか?顔を隠せるやつ」
恥ずかしさに泣き出しそうなルサルナを見かねてブルが言う。
からかったことも悪いとは思っている。ほんの少し。
「…お願い」
「じ、じゃあ私が買ってくるよ!急いで!」
消え入りそうな声にクレアが言う。
ほんのちょっと、さっきの事を帳消しにしてくれないかな、とか思っている。
風のように走り去るクレア。
昨日のこともありちょっと心配なブルだが、まぁいいかとルサルナに意識を向ける。
ウルも苦渋の決断か、焼き菓子をルサルナに差し出している。
「よくわかんないけど、これたべてげんきだして…?」
「…ありがとね」
もそもそと食べ始めるルサルナ。
ウルは心配そうにしている。
「見て!魔王様の義妹ってことでただで貰えた!…あ」
すぐにクレアは戻ってきた。余計な情報とともに。
その手には何やら凝った作りの外套がある。
黒地に金の刺繍が入ったもの。目立つこと間違いなし。
「もうやだぁ…」
クレアの発言とその手に持たれたものは、ルサルナに止めの一撃を与えた。
今にも零れそうな涙を湛え、ルサルナが再度しゃがみ込む。
「クレアお前…」
「そ、そんなつもりじゃ…」
犯人の言い草である。
そんなつもりはなかったと。
ウルが自分の小さな外套をそっと、ルサルナに被せる。
ルサルナから涙が零れ落ちた。
「おや、いらっしゃい。話題になっ、うわっちょっと!」
「馬鹿野郎、今それは駄目な話なんだ」
「それには触れちゃ駄目だから」
なんとかグリンの資料館に到着した一行。
知らずに禁忌に触れかけたグリンに、ブルとクレアが詰め寄る。
「はぁ、まぁ分かりました。ところで、まだ何か調べることがありますか?」
「あー、ウル?」
「あとちょっと」
「とのことだ」
「分かりました。ではごゆっくり」
ウルは読みかけの本の続きを読み始める。
ルサルナはその隣で机に突っ伏している。
互いに目配せするブルとクレア。
お前がお兄さんがと、慰める役を押し付けあっている。
「…外套」
「うっ…」
ボソッとブルが呟く。ルサルナには聞こえないように。
胸を抑え呻くクレア。
「嫁…旦那…」
「くっ…」
ボソボソ呟くクレア。
ほとんどルサルナが言っていることだが、ブル自身が否定していないところを突かれる。
流石にそれを言われては仕方がないと、ブルは諦める。
親指を立てるクレアに下向きにして返し、ルサルナの隣に座る。
座って、座って…なんて声をかければいい?
何を言っても逆効果な気がする。
クレアをちらりと見てみる。親指が下に向けられる。
使えねぇと自分を棚に上げてから悩み、閃く。
声をかけるのが逆効果なら、声をかけなければいいじゃないか、と。
ブルは閃きに従って寄り添い、軽く背中を擦る。
ルサルナに動きはない。
反応は特にないが、怒るよりはまぁマシだろうと思うことにする。
ブルの行動を見たクレアが、しれっと同じ事をし始める。
決して視線を合わせようとしない。
ブルはクレアをじろっと睨みながら誓う。
機会を見つけてボコってやろうと。
ウルはそれを横目に見ながら、黙々と資料を読んでいた。