なんかよくある話   作:天和

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何かしら爪痕を残す話

 

そろそろお日様が現れようかという時間帯。

夜逃げかのようにこそこそと町を出ようとしている人達がいる。

全員が外套を羽織り、顔も出来るだけ隠して足早に歩いていた。

 

先頭は何やら大きな杖を背負った小柄な人物。

後ろにはちんまりした何かを背負いつつ馬車を引く人物と、ちんまりしたのよりかは大きい人物が追随している。

 

魔王様御一行であった。

 

 

 

 

 

 

時間は少し遡り、二日前。

 

ウルとルサルナはグリンの資料を読み終えた。

そして行き道と同様、帰り道も恥ずかしい目にあったルサルナは宿屋に着くなり言った。

 

 

早く町から出ましょう、と。

 

 

白い肌を真っ赤に染め、涙目での発言はブルの心すらも揺さぶった。

クレアは言わずもがな、ウルは空腹でそれどころではなかったが。

 

すぐにでも出たいルサルナだったが、保存食等の購入を訴えたクレアにより一日は買い物、出発は二日後ということになった。

 

町を出たがっていたはずのクレアから出た提案は、ブルとルサルナからの株を上げることになった。

 

クレアも早く出たいだろうに、ちゃんと先を見据えているのだな、と。

 

しかしクレア自身そんなことは考えていなかった。

 

クレアはまだ買いたかったのだ。

魔王様関連の絵や彫刻、装飾具等を。

 

ルサルナの様子から恐らくお留守番するだろうと予測し、買い漁る好機だと考えた。

それを素直に言っても怒られるだろうから、保存食などと言ったのだ。

最悪、バレてもウルが気に入っているため、ウルのためといえばなんとかなりそうだが。

 

予測は的中し、ルサルナはお留守番を宣言する。

クレアはめちゃくちゃ良い笑顔になった。

 

 

とてもきれいな笑顔を見せるクレアは、悪知恵の働く少女だった。

 

 

翌日、ぐっすり眠り、朝食をたらふく食べたことで英気を養ったクレアは意気揚々と出発する。

 

ウルは珍しくブルではなく、クレアの背中にぶら下がっている。

あまりに元気な様子に惹かれたらしい。

 

ブルは寂しいながらも大人ぶって二人を見ている。

ウルの全てを肯定する男である。

 

ルサルナは宿屋から一歩も出ずに見送っていた。

 

 

ルサルナの目が届かない今、もはややりたい放題であることは確定している。

じっくりと品物を吟味しつつ、気に入った物を購入していくクレア。

もちろん戻ったときにやることはやりましたと証明するため、保存食の購入も忘れない。

ただ、それだけで長々買い物を続けるのも怪しく思われるだろう。

 

クレアには考えがあった。

 

 

買い物を提案した際、一人で行動するのは正直怖いとクレアは思っていた。

あれからシャルとジェロは見かけないが、どこから湧いてきてもおかしくはないのだ。

 

ブルとウルを連れ回してもおかしくない理由があれば、と考えるクレアの目にウルの鞄が映る。

 

 

魔法具もついでに見て回れば、時間が掛かっていても仕方ないよね。

 

 

使えるものは買えばいいし、何も買わなくても問題ない。

クレアの頭はかつてないほどに良く回った。

 

 

そして今、クレアの目の前には鞄の魔法具が二つ売られている。

 

ブル一行が所持する鞄の魔法具は二つ。

地竜の素材をある程度売ったためにお金はたんまりある。

 

保存食用、素材用、各人の物と分けても良いんじゃないか?と、クレアは思う。

そうすればルサルナにバレないように、大量に持っていられる。

 

欲望に忠実なクレアは二つとも買った。

ブルとウル用、自分とルサルナ用という体で。

 

当初はブルとルサルナ、ウルとクレアで分けようとしていた。

そうしなければクレアのお宝を隠しにくくなるために。

 

ウルがブルに頼られることが減ると思い、フグのように頬を膨らました結果、ブルは阿修羅となり、クレアは泣く泣く分け方を変えた。

 

せめてもとウルにお菓子を貢ぎ、お宝を預かってもらうクレアだった。

 

 

 

 

「帰ったよー!」

「お疲れ様。…遅かったのね」

「ま、魔法具も見てたからね…ほらこれ!せっかくお金あるしこういうのとか!」

 

ルサルナはウルを見ていた。

見覚えある杖の模造品を嬉しそうに持つウルを。

感情を何処かに落としてしまったのか、無表情である。

 

クレアはギョッとした。

お菓子を貢ぎ預かってもらったクレアだが、残念なことに口止めは忘れていた。

突っ込まれまいとクレアは強引に話題を変える。

これに突っ込まれると雪崩のようにボロが出てきそうなので。

 

なんとなく察したルサルナだが、自分の視界に入らなければまだ問題ない。

実際はボロボロと自分関連の品が出てくれば、理性を保てる自信がないというだけである。

 

クレアとルサルナの視界の端では、ウルが彫刻を取り出し嬉しそうにしている。

 

ルサルナの理性に罅が入り、クレアから冷や汗が溢れ出る。

 

「あ…あー、歩き回ったせいで腹減ったなー。片付けて飯食べるか」

「たべる!」

 

飛び火を恐れたブルの援護射撃。

ウルが間髪入れずに飛びつく。

 

そうかそうかと言いながらウルを抱き上げ出ていくブル。迅速な避難行動。

 

「……」

「あ、の…ルナ姉も食べよ…?」

「…そうね」

 

無表情のままのっそりと立ち上がるルサルナ。

顔面を引き攣らせしずしずと後ろについていくクレア。

 

なんとか食事を詰め込んだクレアだが、味はもう分からなかった。

 

 

 

 

「明日は日が出る前に出ましょう」

「はい」

「あ、ああ…」

 

部屋に戻っての第一声である。

ノソノソと布団に潜り込んでいくルサルナを見送る。

 

顔を見合わせる二人。ウルは既に眠そう。

そのまま無言で横になった。

 

 

そして今、外への門まで後少しというところ。

 

「あ、魔王様が来たぞ」

「お忍びでの姿も良い…」

「魔王様に劇を見て頂きたかった…!」

「なんて力だ…魔王様の腹心は…」

 

人がいた。わざわざ人目につかないようにしたのに、たくさん。

ルサルナがまさかの事態に固まる。

馬車を個人で引くような人物がいれば目立つだろう。

 

諦めろと言わんばかりにブルとクレアが背中を押す。

 

ルサルナはブル達を呆然と見た後、何かが振り切れたのか、それとも諦めたのか、堂々と歩き出した。

 

「これは…!描かざるをえない…!」

「あぁ…私達のために!ありがとうございますぅ…!」

「劇の最後に加えなければ…」

 

声が届く度に動きがぎこちなくなっていく。

背筋も心なしか曲がり始めている。

 

 

馬車の中に隠れていれば良かった。

そう思うも手遅れだった。

 

 

 

芸術の都アール。

様々な芸術に溢れた都市。

 

ここで起きた出来事は芸術とともに美化されて伝わっていく。

人の話など大抵は大袈裟に伝わるもの。ましてや売り物となると一層に。

 

 

ルサルナが悶絶する未来は近い。

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