「こいつで終わりだな」
狼の魔獣を叩き潰したブルは返り血を拭う。
目の前にはブル達の物とは違う馬車があり、その周辺には数人が血塗れで倒れている。
「んー残念、間に合わなかったねー」
「助けられたのは一人、ね」
残念じゃなさそうなクレアは無視して、ルサルナが言う。
血塗れの亡骸の下敷きになり、気を失っている人物が一人。
「上手いこと隠れた感じになったのね」
「これがねウルちゃん…かくれんぼっていう遊びだよ」
「こ、これがかくれんぼ…」
「クレアてめぇ…」
ウルに変なことを教え込むクレア。すぐ後ろに鬼が迫っている。
あまりに危険な遊びに生唾を飲み込むウル。
「丁度いい、俺も一つ遊びを教えよう…鬼ごっこだ」
「ウ、ウルちゃん!助けて!」
「おにごっこもいのちがけ…」
「ウル、あれは嘘よ。後で本当の事を教えるわ。あぁもう、重たい…」
鬼気迫る表情で走り回るクレアの背後にピッタリ張り付き、たまに肩に手を置くブル。
時折、これがお前の未来だと言わんばかりに石を握り潰している。
本来は体に触れれば交代のはずだが、交代など言える雰囲気ではない。
ウルは捕まればただでは済まなさそうな様子にまたも生唾を飲む。
ルサルナはウルに言いながら、生存者を引きずり出そうと頑張っている。
ルサルナが魔法でやればいいと思いついたとき、クレアは顔面を鷲掴みにされ泣いて謝っていた。
「ちょっと跡になってない?大丈夫?」
「くふっ、かっこいいもようになってるよ?んふふ」
「大丈夫じゃない!?」
ちょっと悪い子のウルがクレアをからかっている。
ブルは跡を残さない程度の力加減でクレアを痛めつけていた。
鏡はどこだと探すクレアを眺めつつ、ブルとルサルナは話す。
「で、こいつどうしようか」
「そうねぇ…別に困るわけでもないし乗せても良いと思うけど」
「せめて馬とか残ってりゃ良かったのにな」
血塗れで気絶したままの人物を見る。
獣人らしく、三角のピンと立った耳と長めの尻尾が生えている。
中性的な顔立ちで厚めの服装を身に着けているために性別は不明。
「一応、縄とかあったか?」
「あの子がそういうのもいっぱい買ってるわよ。ほらこれ」
「助かる。そしたら…巻くか」
「あ、私がやるわ。あなただとちょっと力が…」
「ははっ、力加減ぐらい余裕だっての」
「待ってそれ食い込み過ぎじゃない?え、緩められない!?」
ぎゅうっと結ぶブル。明らかに過剰な出力。
尋常ではない力で締められた縄を緩めようとするも一般人並みの筋力では太刀打ち出来そうにない。
結局縄を切り、ルサルナが良い感じに結ぶことになった。
ブルが正座で怒られてから少し。
一行は少し離れた位置に移動していた。
なお、遺体はルサルナが一息の内に埋葬している。
「ぅぅ…」
「ウル、あんまつんつんするなよ。ばっちぃだろ」
「杖で突いてることを叱りなさいよ」
なかなか起きない獣人をウルが杖で突付いている。
獣人は顔をしかめているが、まだ起きない。
隣でにこにことクレアが笑っている。
乾いているとはいえ、血で汚れているために注意するブル。
そもそも気絶している人を突くなとルサルナ。
こしょこしょとウルに耳打ちするクレア。
ウルはくすぐったそうに聞いている。
「クレア、そんなに鬼ごっこがしたいのか?」
「ち、違うし!今のは寝ている人を起こす方法を…あっ」
クレアが気づいたときにはウルの頭上に大きな水球が浮かんでいた。
ウルは戸惑うことなく、勢い良く獣人の顔にぶつける。
「っ!?ぶっ、がはっごほ」
「おー、おきた」
「なるほど、そんな手があったか…」
大量の水をぶっかけられた獣人は激しく咳き込み、何がなんだか分からない様子。
ウルはクレアの言ったことが正しいことを知り、ブルは感心している。
ルサルナは捕まえた賊にでもするような仕打ちに絶句している。
「叩くよりよっぽど良いな。叩くと大体起きるんだが、下手すりゃ首がなぁ」
「お兄さん、加減って知ってる…?」
よほど感心しているのか、起こすためのビンタで首をへし折ることを漏らしてしまうブル。ウルをよしよしと撫でている。
ブルが次々と首をへし折っていく姿を想像してしまったクレア。
ブルにだけは起こされたくないと心底思う。
「ごほっ、はぁ…あ、あんたらは、一体…?」
「はぁ?見りゃ分かんだろ。天使だ」
「てん…は、え?」
「通りすがりにたまたま助けただけよ」
全く分からないが、容易く首をへし折る天使とか嫌だ。
獣人はそう思った。
ルサルナはこれ以上混乱させる前に口を挟む。
ウルもツンツンすることを再開しようとして、同じようにルサルナに止められた。
「ごめんなさい。うちの人は皆からかうのが好きなの」
「え…あ、はい…?」
水をぶっかけられ飛び起きれると体は縛られており、物騒な話をしている男は話が通じない。
獣人はまだどういうことが起きているのか理解出来ていなかった。
「気配も匂いも、何もなかったんだ…真っ黒で、気づいたときにはそこにいた。殴ろうにもすり抜けるしさ、そのうち一人が気が触れたようにおかしくなって…そこからはもう滅茶苦茶だよ」
暫くして、落ち着いた獣人から何があったのかをルサルナが聞き取っていた。
獣人を縛っていた縄は解かれている。
「聞いたことないわね。また新手の魔獣なのかしら?」
「どうだろうな…俺もそんなのには会ったことねぇが」
話が本当なら厄介そうな魔獣にため息が出そうになる二人。
殴ろうにも効かないのであれば、ブルに出来ることはない。
「お化けみたいだねぇ。ウルちゃんくらいの大きさなら頭からガブッといかれるかもよー?」
「くぅねぇのうしろにいるよ?」
「あはは!ベタ過ぎるよウルちゃん!」
「え?でもくろいのうしろにいるよ?」
「んふふ、お望み通り見てあげ…る?」
振り返ったクレアの目の前に黒い塊。
確かに真っ黒で、目の前にいるにも関わらず匂いも気配もない。
クレアは驚きのあまり固まる。
「クレア!」
叫ぶルサルナ、飛び出すブル。
横薙ぎに振られる金棒に手応えはない。
「マジかよ…!」
「ブル!離れて!」
ルサルナの言葉に即座に反応し、金棒を収納しウルとクレアを抱えあげる。
それを見たルサルナは大きな火球を黒い塊の位置に作り上げる。
「くぅねぇだいじょうぶ?」
「だいじょばない…」
「動けるか?」
「こ、こしがぬけて…」
距離を取り、ルサルナの大火球を見る三人、
クレアは予想外すぎる事態に完全に戦意が喪失している。
火球が消えると、黒い塊はいなくなっていた。
「た、倒した…のか?」
「そうね、とりあえず見つけ方と倒し方は多分分かったわ」
「あの一瞬で…あんたすごいな…」
ルサルナはため息を吐いた。
これに関してブルは太刀打ちできない。
さらに言うならブルでは視認が出来ても気配は感じ取れない。
情報の共有は大事だが、とりあえずすることがある。
少し漏らしてしまったらしいクレアの後始末である。