なんかよくある話   作:天和

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実際と見た感じは違う話

 

カニスが一時的に一行に加わり、3日ほど。

 

ウルとルサルナがお休みの間、些細な失敗でそこらの虫より容易く握り潰される命を守りきったカニスは堪らず声を上げた。

 

「あぁ…!町、町だ…!俺はやった…生き残った!」

 

現序列最下位、カニス。

ヤバい奴ら以外の人の気配を感じ、感動に身を震わせている。

 

「あんなとこに町なんかあったか?」

「私は知らなーい。ルナ姉なら知ってんじゃない?」

 

元序列最下位のクレアと、序列概ね三位のブルの会話。

戦闘力と序列は若干異なっている。

 

「前はもう少し小さかったわね」

「起きたんだ。おはよールナ姉」

「はいはいおはよう」

 

馬車内から大きく伸びながら出てくる序列概ね二位のルサルナ。

ブルをある程度制御出来る恐ろしい女。

魔法の腕前も恐ろしい。

 

「ウル、町が見えたぞ?」

「ウルちゃーん、起きて起きて!」

「むぃ…ぅぅ」

 

ブルの背中で耳を伏せるおねむな幼子、ウル。序列不動の一位。

一帯を更地に出来る程の戦闘力と、韋駄天もかくやという機動力を備える守護者を侍らせる魔性の娘。

 

ブルの背中で、まだ寝ていたいと徹底抗戦の様相を醸し出している。

 

「町に入ったら飯でも食おうかと思ったんだが」

「たべるぅ…」

「あはっ、眠気より食い気が出てんじゃん」

 

飯という言葉に反応して、伏せられた丸っこい耳が立ち上がる。

キャスケットを被っているために周りから見えないのが残念である。

見えていればクレアがすかさず突っ込んでいるだろうが。

 

「結局あの一回だけだったわね」

「あの黒いのな。」

「あんなん出てこなくてもいいじゃん」

 

ルサルナ達の言葉を、膨れっ面のクレアがぶった切る。

よほど苦手意識がついたらしい。

 

「なんだ?お子様はお化けが怖ぇのか?」

「アレに対して役立たずのくせに…!」

「やくたたず…」

「かはっ」

 

ブルがむすっとしたクレアをからかおうとするが、クレアからの返しを寝ぼけたウルが繰り返したことにより撃沈される。

 

どれだけの戦闘力を誇ろうにも、心には柔らかい部分が存在する。

 

極太の刃を心に刺されたブルは沈黙し、大人しく馬車を引くことにした。

クレアは大層悪い顔をしているが、追撃はしない。

大抵の事は程々が良いのである。しっぺ返しが怖い訳では無い。

 

 

心なしか歩みが遅くなった馬車はなんとか町に到着する。

町には宿屋や屋台、馬小屋が目につく。

 

「宿場町って感じかなー」

「何でもいい…人がいれば…」

 

カニスの瞳は光を取り戻している。

この数日は恐らく人生で一番の山場だったのだろう。心労的な意味合いで。

 

「仲間を失い、ヤベェ奴らに拾われ…一時はどうなるかと…」

「全部聞こえてんぞ」

「私とルナ姉までヤバい奴になってない?」

「…えっ?私も?」

「ごはん…」

 

輝く瞳を再度濁らせ呟くカニス。万感の思いが目から滴る。

突っ込むブルとクレア、心外だと顔に出ているルサルナ、お腹ペコペコのウル。

 

やいのやいのと言い合う一行は傍から見れば仲の良い集団に見えるかもしれない。

実際は一人、哀れな子羊である。

 

「まぁカニ君は放っといて、まずはご飯だよねぇ」

「ごはん…!」

 

カニスに辛辣なクレアはある屋台に釘付けになっていた。

 

じゅうじゅうと肉の焼ける音、焼けた肉の香り、そして肉がなんとも大きいこと。

 

塩味の効きすぎた保存食の肉ではない。

熱々のデカい串焼き肉はそれはもう魅力的に見えた。

 

クレアの言葉に反応するウル。

その目はクレアと同じものを凝視している。

 

 

肉食系女子には抗えない魅力がそこには詰まっていた。

 

 

「ちょっと私、買ってきます」

「わ、わたしも!わたしも!」

 

真面目な顔してクレアが宣言する。便乗するウル。

両者口の端からよだれが見えている。

 

「せっかくだ。俺とウルの分も頼むわ」

「私もお願いしようかしら」

「俺も手伝いますね…」

 

ついでにお願いする保護者達。

自主的に使いに走るカニスは序列に相応しい動きであった。

 

 

 

 

「むぐぐぐ」

ふ、ふぁひひえはぃ(か、噛み切れない)…!」

「ウルはともかく、貧弱な顎だな」

「あなたと一緒にしないでよ」

「俺でも苦労するんだが…」

 

欲求に抗えず購入した肉は硬かった。

硬い上に妙な弾力まであり噛み切れない。

 

がじがじぐいぐいと悪戦苦闘するウル。

丸ごと頰張ってしまい、ひたすらに噛み切ろうと頑張っているクレア。

苦もなく噛み千切って食べるブル。

頑張って噛み千切るカニス。

 

ルサルナは真っ先にかぶり付いたウルとクレアを見て早々にブルに渡し、団子を買って食べている。

 

「嬢ちゃん、それこっちに置きな」

 

ウルの苦戦っぷりを見かねたのか、カニスが木の皿とナイフを取り出す。

一旦諦めたウルが皿の上に串焼きを置くと、手で触らないようにしつつも小さく切り分けていく。

 

「できるおとこ…!」

「おいクレア!また変な言葉を教えたのか!?」

「んぐっ!ん゛!!?」

「クレア!?ほら水飲んで!」

 

目を輝かせたウルの一言に、ブルがクレアを詰める。

クレアは焦って飲み込もうとして肉を喉に詰まらせている。

ルサルナが慌てている。

 

「はいよ嬢ちゃん」

「かにくん、ありがと」

 

それらを聞こえないふりして、カニスはウルに切り分けた肉を献上する。

変な言葉を覚えようと、食欲旺盛だろうと、ウルは感謝を忘れない。

にこにことお礼を言ってからお肉を頬張っている。

ずいっとカニスに近づくブル。

 

「おう、お前ウルに感謝されたからって調子に乗んじゃねぇぞ」

「嘘だろ…媚すら売れないのか…?」

「はぁ、はぁ…死ぬかと思った…こんなしょうもないことで…」

「ほら、切ってあげるからこっちに渡しなさい」

「うまうま」

 

善意と媚売りを試みたカニスはブルに詰め寄られる。

ブルはウルに感謝される新参者に、己の内なる暴が荒れ狂っている。

隣では危うく召されかけたクレアにルサルナが世話を焼き始めている。

ウルはご機嫌である。

 

 

子羊は哀れなまま、なんだかんだ一行はゆっくりと体を休めている。

わいわいと騒がしい集団ではあるが、周囲は微笑ましく思っていた。

 

 

 

 

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