なんかよくある話   作:天和

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下剋上の話

 

「四人で頑張れば、お兄さんに一矢報いれるんじゃないかとこのクレア、思いついたのです」

 

ブルが用を足しに離れたのを見計らい、下剋上を狙うクレアが話し出す。

 

クレアは余裕がある時に行われる手合わせにて数え切れないほどボコボコにされていた。

 

せっかく一時的にでもカニスが加入したのだ。

遠近揃った四人がかりならば、少しくらい勝ち目があるだろうと思ったクレアである。

 

「にぃとけんかするの…?」

「違うよーウルちゃん。お兄さんに成長をお披露目するの。ウルちゃんの成長はお兄さんも喜んでくれるよ?」

「むぅ…それは、みりょくてきな…」

 

ものは言いようである。

難しそうな言葉を使いたい年頃のウル、言葉に惑わされ賛成に傾く。

 

「俺は拾った命を無為に散らさなきゃ駄目なのか…?」

「流石に模擬戦なんかで殺ったりしないよー。大丈夫大丈夫ウルちゃんいれば」

 

多分と心の中で付け足すクレア。

青い顔で震えるカニスを無理矢理にでも駆り出すつもりである。

 

「まぁ私はやったことないし、いい機会じゃない?」

 

ブルの化け物っぷりを再認識するのに、とは思っても口には出さないルサルナ。

 

「だよね!ルナ姉とウルちゃんが要だよ!」

 

案外乗り気のルサルナに喜ぶクレア。

ルサルナの内心までは読めていない。

 

「で、作戦会議は必要か?」

「もっちろん!お兄さんを上手いこと、ウルちゃんから…離して…」

「ほう…そこまで気合が入ってるとは…楽しみじゃねぇか」

 

いつの間にか背後を取られていたクレアから威勢が抜けていく。

クレアの頭をぽんぽんと叩くように撫でるブル。

 

「たまには気分転換もしねぇとな。ウルの成長も見れるとは、柄にもなく高揚しちまうな…」

 

ウルに関することはいつも高揚してんじゃん、とはクレアも口には出さない。

 

「にぃ、たのしみにしてて?」

「あぁ…!こんなに、立派になって…!」

「早いわよ。分かったから暫く食堂で待ってて」

 

ウルの言葉に泣き出すブル。

面倒そうにルサルナが追い出していく。

 

 

「さて、作戦と言っても…カニスも入るなら今更どうしようもないわね。私とクレアとウルなら即興でもいけそうだけど」

「ウルちゃんが好きに撃ちまくれば、私とカニ君が合わせるよ?」

「うちまくり…いいひびき!」

「それで私がそれらに合わせる感じね…もう駄目そうな感じしかしないけど?」

「まとめて屠られるんだ…俺は見せしめ…」

「決まった!作戦は…物量で押し込もう!」

 

悲観的なカニスは置いておいて、作戦と言えない作戦が決定した。

 

要は皆それぞれ、好きに攻めましょう。

 

 

 

 

「今日こそ大地を味あわせてやる!」

「いや早すぎるだろ。話し合いはどうした」

「察して」

 

何故か自信満々のクレアと、横にふんすと胸を張るウル。

あまりに短い作戦会議にブルが堪らず突っ込むが、ルサルナの呆れたような一言に納得するブル。

とりあえずウルの可愛らしい姿に拝んでおく。

 

「さぁ!町の外に出発!」

「おー!」

 

意気揚々と歩く後ろを拝みながらついていくブル。

ため息を吐きながらついていくのはルサルナ。

生きるか死ぬかと言わんばかりのカニス。

 

 

おい、聞いたか?なんかおもしれぇことするらしいぞ

なんだそれ?暇だし見に行くか

 

娯楽を求める野次馬がそれに続く。

なんだなんだと増えている。

 

 

 

 

 

今から何すんだ?

模擬戦だってよ。

魔法有りで近くじゃ危ないらしいぞ。

 

わらわら、とまではいかないもののそれなりの野次馬が集まっている。

 

それらが見る先には五人の姿。

 

「さぁ、いつでもいいぞ?」

「ウルちゃん、始まりは任せたよー」

「かしこまり!」

「また変な言葉覚えてる…」

 

締まらない言葉と裏腹に、ウルの激しい連射が始まる。

ウルお得意の氷の玉の連射である。

最近は機会がなかったものの、以前より速く鋭い連射にブルも頬を緩ませる。

 

「おお!いいぞウル!前より上手になった!」

 

連射を捌くブルを挟むようにクレアとカニスが迫る。

必要なさそうだが、刃物は念のため鞘付きである。

 

「おわあああ!」

「はぁ!」

 

なんだか悲壮感溢れるカニスの雄叫びと、クレアの短い気合の超え。

 

「おいおい、忘れたのかクレア?俺の必勝法をよぉ!」

「うおっ」

「いやそれタイマン用じゃ!?」

 

するりと受け流した勢いでカニスをウルの方へ投げ飛ばし、一瞬ウルの魔法が止まる。

その隙にクレアを掴もうとするブル。一対一の必勝法だったはず。

 

しかしクレアを掴む寸前にブルの足元が陥没し、空振りに終わる。

 

「ルナ姉!ありがと!」

「ほぉ…何回か見たが、これは厄介だな」

 

ついでに拘束しようと盛り上がる土を粉砕しつつ、ブルが感心する。

 

うねり飲み込もうとする地面と再び始まる氷の連射。

ついでにクレアの抜き身の投げナイフ。

すぅっと後ろに回り隙を窺うカニス。

 

「ふはっ、ははは!こりゃあ良い!厄介じゃねぇか!」

 

笑いながらも捌き躱していくブル。

徐々に体が温まってきている。

 

「あはっ!やっぱお兄さんヤバすぎ!」

 

クレアも高揚してきたのか、わらわらと武器が顔を覗かせていく。

メイスを片手に持ち、千本や投げナイフが外套の内側や袖の内、太ももとまるで手品のように現れては飛んでいく。

 

殺る気満々である。

 

 

「ここまで当たらないと、私もちょっと本気になるわ」

 

補助のみでは捉えられないことを、ルサルナは分かっていても悔しくなる。

どこまで余裕でいられるのか知りたくなってしまう。

 

魔王様、舞台へ上がる。

 

 

おや、とカニスは思う。

なんだか一気に模擬戦を飛び越えたな、と。

 

しかし一度目の接触を軽く流され、三人の猛攻によって隙を探すも見当たらない。

思えば命の恩人ではあるが、同時に命を脅かす存在である。

 

ここは、殺る気を全開にして己を守るべきだと、己の心が囁いている。

 

「…殺るしかねぇ」

 

ガンギマリの顔で呟くカニス。

 

一人、覚悟の桁が違う。

 

 

「はは、いいねぇ…昂るぜ」

 

前方に全身に武器を仕込んだクレア、その後ろに杖を構えたウルとルサルナ。

後ろにガンギマリで隙を窺うカニス。

 

本気を感じ取り、腹の底から笑い出したくなる。

 

ブル、己を暴を開放す。

 

 

一瞬、ブルの姿がブレ、地面が爆ぜる。

ブレた後、ブルは既にカニスの首と腕を掴んでいた。

 

「う、ぐっ」

「死亡な」

 

ブレた瞬間に放たれた魔法は置いてきぼりにされている。

 

「速すぎでしょ…!」

 

ルサルナが悪態をつき、持ち上げられたカニスが手放され、尻もちをつく。

どん、と地面を蹴りつける音。

 

「死亡だ」

 

ごぅ、と巻き起こる風がルサルナの髪を揺らしたと同時の死亡宣告。

 

「ほぅれウル。すごい頑張ったなぁ」

「きゃあ!あはは!」

 

ルサルナがため息を吐いたときには、既にウルを高い高いとしていた。

驚きつつもキャッキャと嬉しそうなウル。

 

ウルを下ろしたブルの姿がまたブレる。

 

「せりゃあ!」

「おお?」

 

クレアの反撃。

梅干しの構えをしたブルは若干驚くも、さらりと回避。

 

「よく躱したな」

「いや躱したっていうより反撃だし。…ところでその構えは何?」

「これは相手の頭を拳でグリグリ挟むやつだ。子供の躾にするらしい」

「百歩譲って躾にするとして…お兄さんがやったら割れちゃうんだけど、頭。あ、待って待って降参!」

 

じりっ、と近づくブルの圧力に虫のように爆ぜる自らを幻視したクレア。

全力の命乞いである。

 

「やっぱ化け物だー」

「改めて思うけど、やっぱり人としての螺子が飛んでるわね」

「あれは人っぽい何かだろ…」

 

ウルを抱き上げ撫で回す姿は先程の姿とは違い、娘を溺愛する父のよう。

 

「最初からクレアとカニを巻き込むつもりでいけば良かったわね」

「姉御…俺はカニじゃなくてカニスです…」

 

本気で行こうとした矢先に潰されたルサルナは不完全燃焼ではある。

 

あるが、すぐに再戦したいとはちょっと思えなかった。

 

 

 

ヤバいのは改めて分かったし、今日はもうゆっくり休もう。

ルサルナはあまりのハチャメチャっぷりに少し疲れていた。

 

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