なんかよくある話   作:天和

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表裏一体の話

 

夜が深まり、良い子はとっくにねんねの時間となっている。

 

「ぅぅぅ…」

「もっちりすべすべ…癖になるぅ」

 

珍しく睡魔と戦っているウル。

ブルが帰るまで起きていると言ったが、敗北は既にウルと肩を組んでいる。

 

そんなウルの頬を捏ねくり回すクレア。

ウルが寝ないためという大義名分のもと、好き放題している。

 

それを眺めながらそわそわとしているルサルナ。

 

「やっぱりついていくべきだったかしら…でもウルとクレアも心配だし…でも更地…瓦礫の山…うぅん…」

 

うろうろ、そわそわと落ち着きがない。

それをウルを撫でながら呆れた様子で盗み見るクレア。

 

やがて決心したようにパチンと頬を叩き、一言。

 

「迎えに行くわ」

「いってらっしゃーい」

「うにゅ…」

 

おざなりに返事しながらウルを布団に寝かせるクレア。

少し遅かったらしい。

 

 

 

一方その頃とある酒場。

 

普段はギャーギャーと騒がしいこの場所も、今は誰もが口を噤み、あるものを見守っている。

 

 

「ごほっ、なんて、男…」

 

がしゃん、と人が机に倒れ込む音。

その向かいには空になった杯を静かに置く男。

 

「うおぉぉ!底無しマリーに底をつかせたぁ!こいつが真に底無しだ!」

 

おおぉぉ!と盛り上がる呑んべぇ。

盛り上がる周りと対照的に、空になった杯を悲しげに見る男。

 

「酔えねぇ…これっぽっちも…」

 

静かに飲み続け、カニスを潰し、目を付け勝負を挑んできた酔っ払い共を尽く返り討ちにした上で、まだ足りない。

 

酒の力では辛さを忘れ去ることの出来ない、悲しき怪物である。

もそもそとつまみを頬張る姿が一層哀れ。

 

「あんちゃん、いつまで湿気た面してんだ、カビが生えちまう。なんだ?酒が不味いか?それとも女にでも逃げられたか?」

 

いつまでもジメジメと湿気るブルに店主が問う。

のろのろと顔を上げたブルはボソリと返す。

 

「いや…酒は美味い」

「不味いなんか言ったらぶん殴ってたぜ。女、ねぇ」

 

遠い目をする店主。これは自分語りしたい雰囲気。

酔っ払い共は経験済みか、騒ぎながらも距離を取る。

 

「俺も若い頃によぉ」

 

長々とした旅路が始まると誰もが思ったとき、酒場の入り口が勢いよく開く。

 

絹糸のようにさらさらとした髪、ぱっちりと開いた目、薄桃色の唇。

体型は残念なことに、大きめの衣服で隠れている。

 

慌てていたのか、急いでいたのか。

白い肌を赤らめ、息を乱すその姿はなんとも艶めかしい。

 

紛うことなき自然の民、ルサルナである。

 

悲鳴や破壊音が聞こえないことに、安堵ではなく不安と焦燥を募らせていたルサルナ。

宿屋から普段は見せない全力で駆け回り、怪しいところを片っ端から探し、遂に探し当てた。

 

突然の現れたちょっと良い感じのお姉さんに酔っ払い共が色めき立つ。

ざっと中を見渡したルサルナは覇気のない湿気た背中を見つけ、大きくため息。

 

軽く息を整えそれに近づき、湿気た背中に気合の一撃。

 

ばちんと響く鋭い音は受ければ酔いなど全て吹き飛ぶだろう一撃だった。

残念なことに、ブルは欠片も酔っていないが。

 

「いつまでウジウジしてるのよ。ほら、ウルも待ってるから」

「ルサルナ…あぁ、ウル…ウルが待ってるのか…」

 

自然と腕を絡めるルサルナに、それを当然のように受け入れるブル。

店の隅に放置されているカニス。

 

「店主さん、代金はこれで足りる?」

「あ、あぁ勿論…釣りは」

「お釣りは要らないわ。じゃあ連れて帰るから」

 

嵐のように現れ、連れ去っていった状況に皆がぽかんとしている。

 

「逃げられてねぇじゃねぇか…」

 

店主のなんだかすごく悲しげな一言に、皆は何も言わずに酒を呷った。

 

 

 

 

部屋に近づいてくる足音、二人分。軽めの音と重めの音。

 

クレアはウルを湯たんぽにぬくぬくとしながら、それを聞き取った。

カニスは別の場所で宿でも取ったんだろうと思っている。

 

「ウルちゃん?ウールー!ほら、帰ってきたよ?」

「ぅう?ね、ねてない…ちょっと、めをとじてた…だけ…」

「あぁよだれまで…めっちゃぐっすりじゃん」

 

手ぬぐいでわしわしとよだれを拭いて、膝の上にしっかりと抱える。

ちょっと目を閉じて、またよだれを垂らすウル。

 

扉がゆっくり開き、ブルとルサルナが部屋に入ってくる。

 

「う、酒臭いなぁ…」

「ぅぅ」

 

どれだけ飲んだのか、ぷんぷんと臭ってくる。

ウルが顔をしかめ、ゆっくりと目を開く。 

 

「にぃ…?おかえりぃ…?」

「あぁウル…帰ったぞ…!」

 

すんすん、くんくんと臭いを嗅ぐウル。

あまりいい匂いではなかったのか、じとっとした目をブルに向ける。

 

「にぃ…くさい…」

「ぇ…?くさ、い…?俺が…くさい…?」

 

三文字、たった三文字の言葉だが、ブルの脳は理解を拒んでいた。

耐え難い苦痛から無意識に身を守る防衛本能であった。

 

ルサルナを見るブル。

視線を合わせないようにして、ルサルナが一言。

 

「…ごめんなさい」

 

たたらを踏み、後ろによろよろと後ずさるブル。

ウルとクレアを見る。

 

「いや、あの…うん」

「…くさい」

 

クレアもブルと視線を合わせず、もごもごしている。

ウルはクレアに顔を埋め、再度一言。

 

「あ゜っ…」

 

ブルの脳は耐え難い苦痛に耐えられなかった。

どこから出したのか短い断末魔のような声を上げ、壁に背を預け、ずるずると床に沈んだ。

 

あまりにも酷い仕打ちにルサルナもクレアも声が出ない。

ウルは既に夢の国へ帰っている。

 

ルサルナは枯れ木に思えるほど萎びたブルに毛布をかけ、白目を向いたブルの目をそっと閉じた。

そのままベッドに向かい、何も言わず横になった。

それを見たクレアもウルを抱きしめ横になった。

 

 

 

クレアは思う。

 

幸せと不幸せは表裏一体なんだと。

お兄さんは普段から幸せで一杯だけど、表だけでは釣り合いが取れない。

だから時折反動のように来るんだろうと。

 

先程の光景を思い出す。

あまりにも可哀想な光景だった。

 

 

 

お兄さんに幸があらんことを。

 

それだけは祈ってから眠ることにした。

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