「どっと疲れたぜ…」
街が見えたハスタはため息とともに言葉を吐き出した。
この1日で100年分の感情を使い果たしたぜ、と思うハスタ。とても澄んだ瞳で遠くを見ている。
「ほらウル、こいつは食いごたえだけは抜群だぞ」
「や!」
「案外旨いかもしれねぇぞ?…あいだぁ!」
「あぐあぐ」
コイツらもなんか100年分くらい仲良くなってねぇかと、ハスタは横目に兄妹を見る。
歩き疲れたウルはブルに背負われている。くるくるとお腹を鳴らして。ブルは穀物を固めた携帯食料をちらつかせるが、姫のお気に召していないよう。首筋に噛みつかれている。
いや、あれは神様が間違えて生み出したんだろう、相性とか距離感とか…強さとか。
ハスタはそう思うことにした。そうでなきゃ1日であんなふうにならんだろう、と。
街に戻り、魔獣の情報やおおよその討伐位置等の報告を終え、採取した素材も売却した後、3人は一緒に食事を取ろうとしていた。
「ハスタ、今日はありがとな。」
「ありがとー」
「いや、むしろ俺の方こそ助かった。無理矢理ついて行ったくせにな…それよりこんなに貰っていいのか?」
ハスタは心配している。討伐の際、ハスタはほとんど何もしていない。素材の売却で得た金銭も含め、きっちり三等分で分配されている。当然のように為されたために、せめて理由を聞きたかった。
大丈夫だろうとは思っているが、ハスタはブルの極まった暴力を見て、正直怖いのだった。
ウルにも分けられているが、これは癒やし枠とブルの能力強化要員としてである。功績は絶大。
「あぁ、勿論構わねぇ。あんた良いやつだからよ、悪印象はあんまり与えたくねぇんだ。」
えっなんか怖い、とハスタは思った。良い印象はあんまりないです、とも。
「なら、せめてここの払いは任せてくれや。ウルちゃん、好きなだけ頼んでいいんだぜ!」
勿論内心を声に出すことはない。そしてちょろっと少女へ媚を売る。いくら稼いでも困るものではない。むしろ稼がないと困る。
「じゃあ、これたべたい」
「そこの!大至急だ!早く出してくれ!」
「少々お待ちくださいねー」
楽しそうに騒ぐ兄妹、主に兄のやり取りを見る。その姿からは想像出来ない圧倒的な暴力。
ちょっとは媚売れてるといいな、などと考えながら一杯呷るハスタだった。
こくりこくりと舟を漕ぎ始めたウルを見て、2人は解散することにした。心なし小さな声で別れの挨拶を交わし、それぞれの帰路につく。背負っているお姫様は既にすやすやと寝ており、少々のことでは起きそうもない。よだれまで垂れている。
ブルは出来るだけ揺れがないようゆっくりと歩いている。
「あぁ、なんかすげぇ…楽しい。」
夜空を見上げて独り言。この街に入る前、空を見上げることがあっただろうか。今のように穏やかな気持ちでいたことは、あっただろうか。ずっと何かに苛立っていて、魔獣や野盗相手に暴れて、あまりの脆さに余計に怒りが積み重なっていた。
背中から寝息が聞こえる。
この街に来て良かった。元々この街に入るつもりはなかった。
岩のような魔獣をかち割った際に金棒が折れてしまい、最寄りだったこの街に来ただけだった。目についた宿をとり、屋台を冷やかしていた。
そして、出会った。
そういえば、とブルは思い出す。
あの時、攫われる直前、この子は小さく呟いていた。
聞こえていたわけではない。ないのだが、不思議と確信がある。
“やっと会えた”
あの瞬間からウルとの繋がりを感じる。
互いに名付けしてからは特に強くなっている気がする。
多分だが‘ギフト’だろう。天からの贈り物。全ての人が生まれ持った何か。
まぁなんだっていい。こんなにも良い気分なんだから。
宿屋につく。女将に声を掛ける。部屋に入る。
ウルをベットに寝かせる。自分も横になる。すり寄って来ない。
ほんの少し寂しく感じる。
よほど疲れたのかと考えつつ目を瞑る。
ふと気付く。
魔獣も野盗も、何であれぶっ飛ばした後、決まって空を見上げていた。その時の空はいつだって色褪せて見えた。
ウルを見る。熟睡。少し笑ってしまう。
この子に会ってからの空は何とも色鮮やかで、それが記憶の空とは別物に感じたために思い出せなかったのだ。
ウルの頭を軽く撫で、少しだけ抱き寄せる。
よく眠れそうだ。