なんかよくある話   作:天和

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動物と戯れる話

 

ウルを取り上げられ失意に暮れたブルだったが、なんてことはない。

着替えなどを済ませ、またにこにことウルを構い始めた。

 

ウルもそれが嬉しいのかにこにこではあるが、もうどちらが子供かも分からない。

 

慣れっこのルサルナとクレアはさらりと流し、就寝となった。

 

 

 

そして翌朝。

 

「この世は…素晴らしいな、とても」

「起きぬけから馬鹿なこと言わないでよ」

「おはようの代わりにはちょっと重たいよね…」

 

穏やかな顔で起きぬけに一発カマしているブル。その目にはウルしか映っていない。

ブルをベッド代わりにしているウルはぐっすりのまま。

 

一発カマされているルサルナとクレアは眠気も吹き飛ぶ。

挨拶には重すぎる一撃である。

 

そうして存分にウルの寝顔を堪能したブルは念入りに身支度している。

恐らくウルの寝ぼけながらの一言が尾を引いている。

 

「めっちゃ効いてるじゃん。臭いって言われたの」

「効いてるわね、何よりも」

「ウルちゃんに反抗期とかあったらどうなるんだろ」

「腹を切るか、更地が増えるか…言ってなんだけどあり得るわね…」

 

ルサルナもクレアも、しみじみと思う。

 

人類の敵とはこうして生まれるのか。

昔話にあるような魔王の始まりは、こういうちょっとおかしな奴から始まるのだろう、と。

 

笑い事ではなかった。

 

 

 

「ねーせっかく馬車あるんだし馬買うか借りるかしようよー。お金も大丈夫でしょー?」

「うま…」

「そうすると野盗に襲われやすくなりそうだけど」

 

だらだらと日当たりの良い窓際で垂れているクレアが言う。

馬という言葉に耳をぴくぴくさせるウル。

そしてそれに反論するルサルナ。

 

それもそうだろう。

誰が好き好んで馬車を片手で引くような男を襲うというのか。

 

「でも馬がいればいざってときに皆動けるよ?」

「御者の経験なんてある?私はないけど」

「うま…」

「いけるいける。私にかかればその程度」

「すごいわ。ここまで安く感じる言葉なんて」

 

根拠のない自信を滲ませるクレア。

自信満々の姿に不安しかないルサルナ。

 

ブルはそわそわしているウルを柔らかな笑みで見守っている。

 

「うまかうの…?」

「買おう」

 

そわそわと、興味を隠しきれないウルが口を開く。

途端にものすごく真剣な表情で食い気味に言うブル。

 

相変わらずの最優先。

考えなしの発言にルサルナが返す。

 

「あのねぇ…変なことしたら馬車が横転するし、馬用の水も餌もいるのよ?生き物だからお世話は勿論、ブルと違って休憩も必要。そういうこともちゃんと考えてる?」

「うぅ…」

「むー…」

「俺も休憩は必要なんだが…」

 

ルサルナの言葉に押され、唸る二人。

 

さらりと生き物扱いされていないブルについては流されている。

自律稼働型汎用兵器ブル。

お世話から運搬、整地や破壊殺戮までお手のもの。

 

 

 

「はぁ…まぁお試しにはいいかもね」

 

露骨に落ち込む二人を見てため息を吐いたルサルナ。

甘いブルに代わり厳しく接さねばとは思っているが、根っこは甘い。

ついつい許可を出してしまっている。

そんな言葉を受け、ぱぁっと顔を輝かせる二人。

 

「やったね!」 

「やった…!」

 

はしゃぐ二人に腕を組んでうんうんと頷くブル。

どうしても緩む頬を引き締めながら、ルサルナは釘を刺す。

 

「ただし!駄目そうなら逃がすなり、次の町で売るなりするからね」

「まっかせてー!」

「がんばる!」

 

威勢は満点のお子様。

苦労するのは母か、それとももしかして父なのか。

 

あいも変わらず、仲良く過ごしている一団である。

なおカニスについては頭にない。

 

 

 

 

 

「むむむ…」

「ふむぅ」

 

柵越しに馬とにらめっこしているウル、品定めするように見るクレア。

少し離れて、後ろではブルが心配そうに眺めている。

 

ブルは事前にルサルナから言いつけられていた。

もしウルが馬に小突かれても手を出しては駄目だと。

ちょっと転ぶ程度ならば許してあげろと。

 

そういう経験も成長には必要だと、こんこんと話されてはブルも頷く他ない。

噛まれたり蹴られたりは危ないので助けるが。

 

そしてルサルナは今、馬主と話している。

 

 

おっかなびっくりのちっこいのが気になるのか、馬はウルにジリジリ詰め寄っている。

 

「あわわ…」

 

馬の顔が近づけば、近づいた分慌てて下がるウル。

 

ウルの前にいるのは普通の馬だが、人と比べれば大きなもの。

ウルから見れば山のようにも見えてしまう。

思った以上の圧にびくびくするウルへ、クレアが声をかける。

 

「ウルちゃん馬はねー、案外賢いし人の感情に敏感なんだよ?怖がってたら馬も悲しくなっちゃうんだから」

 

そう言ってよしよしと撫でようとするクレア。

馬はすっと身を引き、クレアの手を躱す。

 

ついでに小馬鹿にしたように鼻を鳴らしている。

 

「う、馬ごときが…!」

「なるほど…かしこい」

 

内心見下していた気持ちを見抜かれたクレア。零れる悪態。

身をもって示したクレアにウルは感心する。

 

そして馬とクレアを交互に見てから、恐る恐る馬に手を伸ばす。

ブルはハラハラしている。

 

「わっ、ぁ…!すごい、つやつや!」

「うぬれぇ…」

 

純粋で無垢な幼子の手には頭を擦り付けるように動く馬。

不純と煩悩に塗れた人は駄目らしい。

 

「んふふ、ぶにぶにしてる」

 

悔しがるクレアを尻目に鼻なども触っているが嫌がる様子がない。

ウルは色んな感触に夢中になって気づいていないが、わらわらと他の馬も集まってきている。

 

「おー…スッゴ…」

「う?…わわ!」

 

わらわら群れてくる馬にクレアが感嘆する。

クレアの声に反応したウルのいる柵の前は、いつの間にかみっちりと馬の列。

思わぬ光景に固まるウルは伸びてくる鼻先に突き回されている。

 

「少し面白そうじゃねぇか」

 

ちょっと心配ではあるが、それはそれとして楽しそう。

すっとウルの横に進み出るブル。

蜘蛛の子を散らすように逃げる馬達。

 

例え害意がなくとも危ないものは危ない。

馬達は賢かった。

 

ブルのちょっとだけ上がった手が寂しそうに揺れている。

 

「にぃ…」

 

流石に可哀想に思ったのか、揺れる手を握るウル。

 

「いいんだ…俺はウルがいれば…」

 

ここまで露骨に避けられると傷つくらしい。

案外柔らかい心を持つ男である。

 

ウルの小さな手を両手で包み、優しさを噛み締めている。

クレアは離れた場所で撫でようとして、またも避けられている。

 

 

挑戦する気持ちは強いが邪念が振り払えない少女と、生物としての格が高くなり過ぎた男である。

 

どちらも動物とあまり相性は良くなかった。

 

 

 

 

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