なんかよくある話   作:天和

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縁の話

 

馬を購入した翌日、一行は町を出ることにした。

 

 

「とまぁ、こんな感じでさぁ」

「…よし。よく分からんが、多分イケるだろう」

「大丈夫よ、きっと」

「ねーまだー?」

 

カニスが馬具の装着方法を一通り見せている。

 

広く浅く知識を持っている男。

しれっと雲隠れしようとしたが、ものの見事に捕まっていた。

 

ブルとルサルナは不穏な会話。

恐らく大丈夫だろうという希望的観測である。

クレアは動かしてみたくて御者台でうずうずしている。

 

馬具を着けられている非常に大人しい馬は、ヒジョウショク。

何がきっかけで食卓に並ぶか分からない元暴れ馬。

本能的に危うい立場を理解している。

 

ブルとはまた違う感覚が気に入ったのか、その背にはウルがよじ登っている。

時折思い出したようによだれを啜る音がするのは、きっと気の所為。

 

「まぁ、やってるうちに分かるだろ。クレア、いいぞ」

「軽くよ?軽く」

「はぁい軽くねー…それ行けヒジョウショク!」

 

クレアの勢いのいい合図に、ひんひん鳴きながら歩き出すヒジョウショク。

ウルが背に乗っているからか、とてもゆっくり。

 

「うぅん…上下関係が出来ていれば、しっかりした良い子よね」

「非常食にするには勿体ないな」

「可哀想だし名前変えたら?名付けたばかりだけど」

「うむ…ウル、どうする?」

 

既に格付けは済んでおり、捕食者達の前にひれ伏すことになったヒジョウショク。

ちっこいのが動く際、格が違う何かがものすごく見てくるので非常に気を遣っていた。

それが功を奏したのか、ブル達からの評価は悪くない。

 

改名までされれば、さらに長生きの兆しが見えてくるだろう。

 

ブルに問いかけられたウルはヒジョウショクの首筋を撫でながら、クレアに教えてもらったことを思い出した。

 

「じゃあ…ばさし」

「どうして捌いちゃったの…?」

「おいクレア」

「た、食べ方を教えただけ…」

 

じゅるり、とよだれを啜る音が聞こえてくる。

ひぃんひぃんと訴えかけるような鳴き声。

 

馬の名前と言うには非常食と変わらず、残酷である。

首筋を優しく撫でる姿に、何かしらの欲望を感じてしまう。

 

「んふふ…さばきかたもばっちり」

 

よだれを啜り首筋を撫でながら、ウルが恐ろしいことを言っている。

 

「クレア、あなた…」

「これもお前なのか…?」

「あああ…違うの、ウルちゃんが楽しそうだったから…」

 

二人から問い詰められるクレアは苦し紛れの言い訳。

ウルが楽しんでいたのは間違いないが、クレアはその倍ほど楽しんでいる。

 

「くぅねえのおはなし、おもしろいからすき」

「仕方ないなぁ!」

「このお馬鹿…」

 

仕方ないとでもいうようにウルからの援護射撃。

その目にはクレアがこっそり取り出した焼き菓子が映っている。

勿論、ブルとルサルナの視線を掻い潜って行われている。

 

ブルは目にも止まらぬ手のひら返しを実行した。

その甘さは焼き菓子に蜂蜜をたっぷりかけても到底足りない。

ウルの慈悲深さに気を取られ、密かに行われている取引を見落としている。

クレアに対するウルの慈悲深さは有料であった。

 

ルサルナもあまり変なことは教えてほしくないのだが、やはり甘っちょろいので許している。

現在進行形で行われる賄賂に気づけば流石に怒るだろうが、残念なことに気がついていない。

 

ウルはとても順調に学習している。

 

なんだかんだで、ヒジョウショクはバサシに改名された。

変わったことは呼びやすさと、ウルの唾液量が増えたことくらいである。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、首尾よく抜けれたなぁ」

 

しれっとブル達を見送った男、カニス。

仲間を失い、運良く生き残ったところを助け出された、悪運の強い男である。

 

馬の名前に非常食と名付けるヤバい奴らから無事に開放され、清々しい気分であった。

 

こちらもいつ、カニスから肉壁とかに改名されるか分かったもんじゃないと恐れていた。

まぁ、肉壁として運用はされかけたが。

 

しかし開放された今、そうなることは恐らくない。

 

もしかしたら戻ってきて捕獲される可能性も考えられるが、恐らくそこまではしないはず。

少しの間隠れ潜んで、後はテキトーに小銭でも稼いでいればいいだろう。

 

暫くは旅も危険もごめんだと思いながら町を歩く。

 

「まぁ、とりあえずは飯でも食うか」

 

一人になったが、軽くなった気分で呟く。

 

そうして何を食おうかと考えていると肩を叩かれる。

振り向くとそこそこにデカい男と華奢な女。

立ち振舞は戦士のそれ。

 

「ねぇお兄さん、食事なら僕達と一緒に食べようよ」

「我輩の奢りでな」

「あ、いえ宗教的に知らない人と食べちゃ駄目なんで。俺マジ半端ない信者なんで。母ちゃんも父ちゃんも言ってるんで。じゃあそういうことでー!」

 

カニスは思った。

 

臭う。それはもうぷんぷん臭う。

ブル達に負けず劣らずのヤバい奴の臭いがする。

 

カニスは迅速に決断し、実行した。

 

 

 

即ち、全力疾走。

 

 

 

「厄い!何でこんなに厄いんだ!俺が何したってんだ!」

 

人の間を素晴らしい速度で縫うように走りつつ、恨み言を垂れ流す。

自らの能力の限界を叩き出している。

 

 

裏も表も走り回り、ときに屋根の上も駆け抜けて、追跡されていないか入念に確認し、それから寂れた酒場に身を潜めた。

 

 

ここまでやれば並大抵の奴はついてこれまい。

 

そう思って酒を頼み、一気に呷る。

火照った体に染み渡る旨さ。

 

全て飲み干し、勢いよくコップを叩きつける。

 

「くぅー…!たまんねぇ!やっぱ酒だよなぁ!」

「はい、おかわりどうぞ」

「おっ気が利くねぇ…ん?おあ!?」

「おっと危ない、溢れてしまうぞ」

 

すかさず注がれたことに気を良くしたカニスだが、ものすごく聞き覚えのある声。

具体的にはつい先程聞いたばかり。

 

隣を見ると椅子に座ろうとしている先程の女。

驚いてコップを放り投げそうになったが、腕を抑えられ一滴も溢れることはなかった。

 

恐る恐る反対を見ると、先程の男。

腕はガッチリ掴まれたままである。

 

「は、ははっ…ちくしょう

 

乾いた笑いを漏らすカニス。

逃げられないことを理解し、小さくぼやいている。

 

 

 

ヤバい奴を引き寄せる男、カニス。

上手いこと逃げたつもりだが、運命は彼を離さないつもりらしい。

 

ある意味、神に愛されているといっても過言ではないかもしれない。

愛してくる神が真っ当な神であるかは、不明である。

 

 

 

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